Blog / ブログ

 

中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(4)第9回報告

2008.10.15 └セミナー4:ベシャラを読む, 西堤優, 脳科学と倫理

中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー4では "Decision Making and Free Will: A Neuroscience Perspective (Kelly Burns and Antoine Bechara [2007], Behavioral Sciences and the Law, 25: 263-280.)" を講読しました。今回はいよいよ佳境のセッション9の報告です.

Loss of Willpower

【本文要約】
  短期の結果よりも、長期の結果に従って選択するためには、熟慮的システムによって誘発されたソマティック状態が、衝動的システムによって誘発されたソマティック状態を支配する必要がある。しかし、おおまかにいえば、(1)熟慮的システムの機能不全、(2)衝動的システムの過活動という、二つのタイプの条件によって、この二つのシステムのあいだの関係が変更されてしまい、意志力を失うことがありうる。意思決定を「トップダウン」で制御する熟慮的システム、運動上の衝動制御、そして知覚的な衝動制御にとって決定的な神経領域はすべて、ソマティック信号の「ボトムアップ」の影響を伝達する神経システムの標的位置にある。後者のソマティック信号の影響は、無意識的、暗黙的であることもあれば、意識的、明示的であることもある。

熟慮的システムの機能不全
  薬物依存者や前頭前・腹内側皮質を両側性に損傷した患者は、熟慮的システムの機能不全に関係した類似の以下のような二つの特徴的な行動パターンを示す。

  (1)物依存者と損傷患者のいずれのグループに属す人も、自分たちが何らかの問題を抱えていることを否認したり、そのことに気付かなかったりする。
  (2)将来きわめて否定的な結果をもたらす危険があるときでも、いずれのグループに属す人も直近の報酬を得ようとして行動する傾向があり、彼らは、あたかも危険を知らずに行動しているかのようである。

  例)Phineas Gage(1848)
  Gageは仕事中の事故によって、前頭前腹内側部を損傷した。その結果、人望があり責任感が強いという事故以前の彼に対する社会的評価は、愚かで粗野で破滅的だという評価へと変わった。Gageの振る舞いは、まさに熟慮的システムの機能不全によって引き起こされた顕著な例である。

【講読に際して議論された点】

  • 「トップダウン」のシステムとは、具体的にいえば、実際に行動に移る前に、その行動の結果を予測して熟慮的システムが衝動的システムを制御することであり、そしてトップダウンの情報伝達の流れの方向は「中枢→末梢」であり、ボトムアップは「末梢→中枢」という方向の情報伝達であることが補足された。熟慮的システムが有効に働くためには、身体からのフィードバック、つまりソマティック状態が不可欠であることも指摘された。

  • 「いくら熟慮したからといっても、その熟慮の内容に即して体を動かし、行動を遂行することができない」ことがある。このようなケースは、熟慮的システムがソマティックな状態からの力を得ることができないケースとして理解できるのではないかということが話題になった。

  • 報告者: 西堤優(UTCP共同研究員)

    PDF版をダウンロード (PDF, 92KB)

    Recent Entries


    • HOME>
      • ブログ>
        • 中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(4)第9回報告
    ↑ページの先頭へ