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【報告】「だますことの背景〜受け⼦・掛け⼦の実際を⼿がかりに〜」(前半)

2024.03.19 梶谷真司, 宮田晃碩, 山田理絵

 2023 年 10 ⽉ 29 ⽇(⽇)13:30〜16:00、講演会「だますことの背景〜受け⼦・掛け⼦の実際の実際を⼿がかりに〜」が駒場Ⅰキャンパス 21KOMCEE West K303 にて開催された。話題提供者として道重さおり⽒(神⼾学院⼤学)、討論者として⼩林佳世⼦⽒(南⼭⼤学)、本⻄泰三⽒(関⻄⼤学)、髙野洋⼀⽒(松⼭刑務所)に登壇していただいた。当日の内容を前半と後半に分けて報告する。

 当⽇の報告に進む前に、なぜ UTCP で、「だますこと」や特殊詐欺に関わるテーマで講演会が企画されたのかについて紹介したい。
 本会はこの報告をしている⼭⽥(UTCP)と道重先⽣とのやりとりからはじまった。道重先⽣と⼭⽥は、違法薬物を使⽤した⼈々の社会復帰を⽀援するための施設間連携を研究課題としたプロジェクトでご⼀緒してきた。2022 年に、道重先⽣とともに松⼭刑務所を⾒学する機会をいただき、その際に髙野所⻑とお会いした。(その後 2023 年 3 ⽉には、UTCP のメンバーも松⼭刑務所を⾒学させていただき、その上で髙野所⻑の講演会「刑務所の現状と社会復帰⽀援」を実施した。)
 もともと道重先⽣は、刑務所の中で受刑者の改善更⽣にかかわるプログラムを実施する⼼理職として仕事をされ、特に受刑者の中でアルコール依存をもつ⼈々に接されてきた。現在は神⼾学院⼤学にて教鞭を取られる⼀⽅で、刑事施設にて、「特殊詐欺」という犯罪に受け⼦や出し⼦として加担した⼈々に対するプログラムを実施されている。こうした背景があり、現在社会問題のひとつとして語られている「特殊詐欺」について、さまざまな⽴場から考える場を設けようということとなった。

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 こうして臨床⼼理の道重先⽣、刑務所の⻑である髙野所⻑、⾏動経済学の⼩林先⽣、同じく⾏動経済学の本⻄先⽣に登壇を依頼した。なお、この企画を哲学のセンターである UTCP で実施し、加えて社会学の視点を学んできた⼭⽥もモデレーターとして参加するにあたって、さまざまな専⾨の⼈々がともに語ることを可能にするキーワードとして「だます」、という⾔葉をタイトルに⽤いることにした。当⽇は、天候不良との予報もあり、参加者の数は事前登録よりもかなり少なかったが、その分、登壇者と参加者がフラットに質疑応答できるようなアットホームな雰囲気で講演会が進⾏した。

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 はじめに道重⽒が、特殊詐欺の概要、加担する⼈の特徴、そして特殊詐欺に加担し罪を問われて服役している⼈への改善更⽣プログラムを中⼼に説明された。
 「特殊詐欺とは、被害者に電話をかけるなどして対⾯することなく信頼させ、指定した預貯⾦⼝座へ振り込ませるなどの⽅法により、不特定多数の者から現⾦等をだまし取る犯罪(恐喝及び窃盗を含む。)の総称」のことである。(法務省「特殊詐欺事犯者に関する研究」3 ページ)。この種の犯罪がどのくらい⾏われているのかというと、令和 3 年度の犯罪⽩書によれば、令和 2 年の認知件数は 13550 件、被害額は 17,946,333,000 円にものぼるという。詐欺全体からみれば、特殊詐欺は 33.3%を占める犯罪だ。
 特殊詐欺は、詐欺のプロセスが細分化されており、それぞれのプロセスに関わる⼈がどのような役割を担うかが明確に決まっている。具体的な役割としては、犯罪⽩書の説明を引⽤すれば、「特殊詐欺の犯⾏グループは、 「主犯・指⽰役」を中⼼として、電話を繰り返しかけて被害者をだます「架け⼦」 、⾃宅等に現⾦等を受け取りに⾏く「受け⼦」 、被害者からだまし取るなどしたキャッシュカード等を⽤いて ATM から現⾦を引き出す「出し⼦」 、犯⾏に悪⽤されることを承知しながら、犯⾏拠点をあっせんしたり、架空・他⼈名義の携帯電話や預貯⾦⼝座等を調達する「犯⾏準備役」等が役割を分担し、組織的に犯⾏を敢⾏して」実施されるという。

 「闇バイト」という⾔葉でも知られるように、⾼額な報酬につられて、特殊詐欺の⼀環のやり取りを担うと知らずに「受け⼦」や「出し⼦」の役割を担う⼈や、詐欺と気づいた時には、特殊詐欺組織に個⼈情報を握られて、詐欺⾏為に加担することから抜け出せなくなるような⼈もいるという。先に引⽤した犯罪⽩書の説明からわかるように、組織全体には指⽰を出す上位の⽴場の者とそれを受けて動く末端の⽴場のものがおり、「受け⼦」や「出し⼦」は、この組織的な犯罪の末端に位置する。この上下関係の中で注⽬すべきなのは、「主犯・指⽰役」は詐欺のプロセスが実際に遂⾏される場には関わらず、したがって「受け⼦」や「出し⼦」などと⾯識を持つことはないということだ。また、特殊詐欺とは気づかず、しらずしらずのうちに「受け⼦」や「出し⼦」として組織犯罪に組み込まれてしまう⼈もいるようだ。
 道重⽒によれば、こうした特殊詐欺の構造的な特徴が、刑務所内の受刑者へのアプローチを難しくすることにつながる部分があるという。つまり、「受け⼦」や「出し⼦」などとして、詐欺⾏為に加担した⼈たちが、罪を犯した、被害者にひどいことをしたという実感を持ちにくい場合があるというのだ。その結果、受刑者が、罪を犯すに⾄った⾃分の⽣き⽅を振り返ったり、被害者に弁済したりするという動機づけを獲得することが難しいことが多いそうだ。

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 また、特殊詐欺に加担する⼈の特徴について、道重⽒はデータを読み解きながら、「動機は⾦ほしさが多い」、「きっかけは友⼈からの誘いが多い」、「種類の中ではオレオレ詐欺が多い」、「30 歳以下の者が多い」、「無職の者が多い」という。また、特殊詐欺では、受け⼦や出し⼦となる⼈は事前に「報酬あり」と⾔われることが多いが実際に⽀払われない場合も多々あるそうだ。
 なお道重⽒が携わっているプログラムは、改善指導の⼀環として実施され、特殊詐欺事犯のうち主に受け⼦や出し⼦を対象としているという。7 回で1クールが構成され、各クール 5 名程度が対象となる。道重⽒はプログラムの流れや、実際の現場で感じたことの詳細をお話してくださった。

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 続いて、経済学者の⼩林佳世⼦⽒(南⼭⼤学)から、「速い⽣活史戦略と意思決定」というタイトルでご講演・コメントをいただいた。⼩林⽒の専⾨は⾏動経済学で、特に近年では(進化からみた)ヒトの意思決定について、⼼理学や認知科学にもまたがる領域で検討をされている。このご講演では「ヒトの持つ認知の傾向(⾏動のクセ)から、「騙す」⾏動の背景と、その先の問題を考える」というテーマでお話され、「受け⼦」や「出し⼦」として特殊詐欺に加担した⼈々について、もちろん罰は必要であるがそれだけでは不⼗分であること、そして、このような⼈々を処遇するための制度設計は、ヒトの意思決定の根底にあるメカニズムを理解しなければならないと主張した。

 まず⼩林⽒は、意思決定についての⾏動経済学的な議論の基礎を紹介された。伝統的な経済学は、ヒトをエコン(合理的経済⼈)と想定してきた。つまり、ヒトとは「損得で動く」⽣き物であるということだ。また、このようなヒトの⾏動原理を前提として、さまざまな社会制度も設計されているという。それらの制度のポイントは、「良いこと」をすると「得」をして、「悪いこと」をすると「損」をするという仕組みがあることだ。この制度の⼀つに司法制度がある。司法制度があることによって、法律で定められた「悪いこと」をした場合に罰が与えられる。また、「悪いこと」をすると罰が与えられるんだということを⼈々が知ることを通じて、「悪いこと」をすることをやめようと思わせる効果、つまり犯罪の抑⽌効果も望める。
 しかし⼩林⽒によれば、「良いこと」をすると「得」をして、「悪いこと」をすると「損」をするという仕組みがあれば充分かというとそうではないという。そもそも何が「良いこと」で何が「悪いこと」なのかは(⼩林⽒も括弧付きで記述されているように)⼈によって異なる場合があるし、「損」「得」だけでは⼈は動かない場合もある。さらに、司法制度に関連していえば、ある⼈が「罰」を与えられた後のことも課題になってくる。このように、ヒトをエコンとして想定し、その想定のもとに社会の制度設計を⾏うことの合理的な側⾯と、その制度だけでは収まりきらない課題もあるのではないか、というのが⼩林⽒の投げかけであった。

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 ではより効果的な制度設計を⾏うためには、どのような観点を加える必要があるのだろうか。また、今回の講演会のテーマである特殊詐欺の末端に加担する⼈々の処遇について、いかなるアプローチが可能なのだろうか。これらの点を検討するにあたり、⼩林⽒は「⽣活史戦略」に関する議論を紹介された。さまざまな⽣物の種について、ある種の「個体が⼀⽣の間に時間とエネルギーをどのように分配するか」に注⽬して⾒てみると、⼆つに⼤別することができるという。「遅い(slow)」戦略をとる場合と、「速い(fast)」戦略をとる場合である。前者は細く⻑い⽣き⽅であり、後者は太く短い⽣き⽅と⾔い換えられる。
 ヒトは基本的に細く⻑い⽣き⽅をするそうで、時間をかけて⾃分⾃⾝が成⻑し、また、少ない⼦を丁寧に育てる傾向があるというが、⼩林⽒によれば、中にはどちらかといえば太く短い⽣き⽅をする⼈もいるという。⽣存戦略の仕⽅を分ける、⼀つの鍵となるのが、個体を取り巻く環境に関する「過酷さ」と「予測可能性」だそうだ。相対的に「速い」戦略が選ばれる背景には、幼少期に過酷で予測不可能な環境にさらされることが主たる理由になっているのではないか、と、過去の複数の実験結果を参照しながら⼩林⽒は論じた。

 また、これまでの⽣物学的、⼼理学的研究によれば、「速い」戦略をとる傾向のある⼈は、暴⼒性や攻撃性が相対的に⾼い傾向があるという。加えて、リスクのある⾏動に出る傾向も⾒られるという。経済学的には、ヒトは基本的にはリスクを嫌う⽣き物であるというが、厳しい環境下での⽣存を迫られ、「何をやっても失う」という状況に置かれた時、ヒトは動物と同様リスクの⾼い⾏動を選択することがあるそうだ。⼩林⽒によれば、こうした⾏動は⼀発逆転⾏動ともみることが
できるという。つまり、安定的な環境ではヒトが選択しないような⾏動が、厳しい環境下で選択されると、その⾏動が⼤きな失敗につながる可能性は⾼い⼀⽅で、稀に成功した場合には、それ以前にはヒトが獲得できなかったようなリターンを得て、⽣き残りに成功するのだ。⼩林⽒は、このような、四⾯楚歌の状況で、リスク⾏動に出ることができる本能があったことで、⼈類は⽣き残り社会を発展させてきたのではないかと論じた。また、リスク⾏動は、いわゆる「思春期」と呼ばれる 10 代から 20 代ごろに⾼まること、その背景にあるのは、脳(特に理性を掌る前頭葉)の完成が 30 歳⼿前ごろと近年いわれるようになったことと関係しているとされると付け加えられた。
 しかし、「速い」戦略で⽣きることや、リスク⾏動を取ることは、現代社会では問題⾏動につながる場合もある。では、こうした⽣活史戦略を⾝につけてしまった場合は、どうしたら良いのだろうか。⼩林⽒によれば、幼少期の環境が⽣活史戦略に与える影響は確かにあるが、既存研究を参照すると、幼少期に獲得した⽣活史戦略やそれに伴う⾏動パターンが⼤⼈になってから変わる可能性はあるという。また、「速い」戦略と結びつくような認知や⾏動に変化を与える可能性がある要素として現在の環境が安定していること、⾔い換えると、ある種の「コントロール感」が挙げられるのではないかと論じられた。⼩林⽒によれば、これは「⾃分が結果に影響を及ぼすことができると信じること」のことを指すという。これまでの研究では、コントロール感と協⼒⾏動に相関があることや、コントロール感が⾼まれば健康度や⼼理的幸福が⾼まることが明らかにされているそうだ。

 ご講演の最後に⼩林⽒は、社会の中で何らかの「問題」とされる⾏動、「悪い」とみなされる⾏動をとった⼈に対して、罰を与えることのメリットとデメリットを、⼼理学的、⽣物学的、経済学的な研究に触れながら提⽰された。まず1 番のメリットは、「逸脱⾏動を抑⽌できる」という点であり、数々の研究で実証されているという。その⼀⽅で「信頼関係を損ない協⼒関係を阻害」する、「報復を引き起こす」、「罰の脅威そのものが、⼈の情報処理の能⼒に悪影響」を与えるなどのデメリットもあると論じられた。
 ⼩林⽒のご講演は、特殊詐欺に加担した⼈を具体的な事例とした議論ではないが、こうした⼈々も念頭に置きつつ、さまざまな犯罪⾏為の抑⽌、受刑者の処遇、そして再犯防⽌のための取り組みなどの制度の軸となるような論点を提⽰されるものであった。なお、⼩林⽒の近年のご研究の内容は、2021 年に『最後通牒ゲームの謎』(⽇本評論社、2021 年)として刊⾏され、第 64 回⽇経・経済図書⽂化賞を受賞されている。「最後通牒ゲーム」という、⾏動経済学の実験の中で最も多く⾏われてきた実験のひとつについて、膨⼤な研究論⽂を渉猟し、この実験についての「謎」を解き進めていく内容である。ぜひこちらもご覧いただきたい。(報告:山田理絵)


【報告】「だますことの背景〜受け⼦・掛け⼦の実際を⼿がかりに〜」(後半)に続く

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