「企業の政治的責任と公共性を考える哲学 Vol.2 哲学者は、企業を変える?」と題されたイベントが7月24日(水) 19:00より、オンラインで開催された。
モデレーター・オーガナイザーは、田代伶奈(FRAGEN)/ 堀越耀介(UTCP)、登壇者に朱喜哲(哲学者 /大阪大学招へい准教授 ) / 梶谷真司(UTCPセンター長)をむかえた。
本イベントは、哲学と企業の関わりにかんする、堀越による報告から始まった。近年、哲学的素養や態度が企業で活用される可能性が高まっていること、そして、哲学コンサルティングの主な形態として、 a) 倫理規定やコンプライアンスの検討 b) 企業理念やミッションの構築 c) 社員研修における哲学対話 d) 企業の課題に対する哲学的観点からの知識提供があること。そして、具体的な事例として、人事系施策での哲学対話の活用、新規事業開発における哲学的アプローチ、労働組合活動での哲学的考察の導入などがあげられた。哲学的な素養、哲学的な態度、哲学的な思考、哲学的な知識が何らかの仕方で使えるのではないか、あるいは使いたいという需要が明確にあるにも関わらず、基本的には互いに共同できるという可能性自体がほとんど認識されていないという現状認識が語られた。
次に、登壇者である朱氏からは、「エルシー(ELSI: Ethical, Legal and Social Issues)」と哲学・倫理学の関連性について話された。ELSIとは、新しい科技術の研究開発・社会実装に伴う倫理的・法的・社会的課題のことであり、昨今、企業がエルシーに取り組む必要性が高まっている。こうした中で、哲学者の企業における役割として、朱氏は倫理的なボキャブラリーの運用、複数の専門分野のボキャブラリーを横断・翻訳する能力の重要性を指摘した。
ただし、人文系の研究者は、専門性の高い特定のボキャブラリーしか持ってないこともある。朱氏は、様々なボキャブラリー、例えば企業やビジネスのボキャブラリーにも同時に習熟していった中で、ようやく哲学や倫理学のボキャリブラリーが非常に生きてきたという実感について語られたのは非常に印象的だった。
田代氏からは、企業の公共性と社会的責任について問題提起がなされた。企業が公共性や社会的責任を掲げることの意味と課題、たとえば、イメージ戦略としての倫理の利用、その実践との乖離などの可能性についてである。朱氏も、まず日本語圏において倫理という語が努力目標と考えられる傾向があることを指摘。「なんかやった方がいいんじゃないとかエシカル消費ぐらいの表現の意味として考えられている面があるので、自分たちを縛る拘束力規範であること、例えばこの理念を掲げたんだったら、もうこの事業できないといった形で、決めた倫理に対してトップダウンでちゃんときその判断するっていうことがやっぱちょっと弱い面がどうしてもある」ということに言及した。
終了後は、オーディエンスを交えての議論がおこなわれた。その際には、哲学研究者のキャリアの多様化やビジネスと学術の間の人材の流動性の重要性などが話題となり、アカデミアとビジネス界の交流促進が必要であること、そして、哲学的アプローチが企業の意思決定や文化に与える影響の検討が今後の課題であることなどが議論された。
本イベントでは、哲学と企業の関わりについて多角的な視点が提供され、今後の研究や実践の方向性も示唆された。参加者それぞれの経験や専門知識に基づいた意見交換が行われ、企業における哲学の役割や課題、そして将来的な可能性について役立つ洞察が得られたようにおもわれる。
(堀越)
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