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【報告】ワークショップ「日本哲学における国家と宗教」

2016.03.28 中島隆博, 石井剛, 林少陽, 川村覚文, 星野太, 金杭, 王前

去る2月20日、東京大学東洋文化研究所にてUTCPワークショップ「日本哲学における国家と宗教」が開催された。本ワークショップは、将来的にSpringerよりTetsugaku Companions to Japanese Philosophyシリーズの一冊として出版される予定の論集へ寄稿予定の者が集まり、その研究計画に関して発表を行う場として設けられたものである。そのため、このような会の性格上、クローズドなものとして開催された。また、そのため詳しい内容をここでは明らかにはできないが、各発表者の大まかなテーマについて、以下に記したい。

一番初めのセッションであるGenealogy of Postwar Democracyでは、まず東京大学の王前氏が“Religion with or without God?: Nanbara Shigeru and Maruyama Masao on Religion”と題した発表をおこなった。王氏は政治学者・南原繁によるキリスト教の評価と、その弟子である政治学者・丸山真男による鎌倉新仏教への評価を参照しつつ、政治と宗教の関係について、デモクラシーの可能性の条件について言及しつつ、検討された。また、延世大学の金杭氏は“Piracy and Tenno: Nanbara Shigeru and Democracy in the post-war Japan”と題した発表を行い、そこでは南原繁が想定している平和国家としての戦後日本が、いかに免疫化されたロマンティックなものとして構想されているかを明らかにしつつ、その危険性について指摘された。

続いて、二番目のセッションであるAlternatives to Nation-State: Christianity or Socialism-Anarchismでは、まずUTCPの石井剛氏が“Uchimura Kanzo and the Converting Subjectivity”と題した発表を行い、内村鑑三と魯迅を比較しつつ、日中における東アジアの近代化という問題に対して、それぞれがどのような主体を構築することで対処しようとしていたのか論じられた。また、続いて東京大学HISの星野太氏は、“The Sublime Community: Ôsugi Sakae or Rhetoric of Anarchism in Modern Japan”と題した発表を行なわれ、近代日本の代表的なアナーキストである大杉栄に焦点を当て、その思想に見られるアンリ・ベルグソンやジョルジュ・ソレルなどの影響について明らかにされた。

そして、三番目のセッションであるThe Meiji Regime and Religionでは、まず東京大学の鍾以江氏が“Constructing the Modern Person: the First Minister of Education Mori Arinori and National Education in Meiji Japan”と題した発表を行い、近代日本における教育・学校制度を整備した森有礼の思想が、リベラリズムと保守主義の結合であったことを述べられつつ、その意味がどのようなものであったのか論じられた。続いて、UTCPの川村が“Kokutai, Sovereignty, Religion: Nishida Kitaro and Kakei Katsuhiko”と題した発表を行い、仏教思想と近代的政治思想の結合を試みた思想家として哲学者・西田幾多郎と法学者・筧克彦に触れつつ、それが近代的宗教概念としての仏教の発明とどう関係しているのかについて、論じた。

最後のセッションであるInvention of Buddhism as Religionでは、まずUTCPの林少陽氏が“Discovery of the ‘Western Region’: Meiji's Re-discovery of Buddhism through Max Muller”と題した発表を行い、近代日本を代表する美学者・思想家である岡倉天心の思想に、いかにマックス・ミュラー等の近代西欧におけるインド学者の影響がみえるのかについて、論じられた。そして、一番最後の発表者であるチュービンゲン大学のライナー・シュルツァー氏が、“Religion as Political Postulate in Inoue Enryo”と題した発表をされ、近代日本の哲学者・宗教思想家である井上円了が宗教と政治の関係についてどのように考えていたのかということを検討された。

以上が、本ワークショップの大まかな概要である。クローズドで行われた分、個々の議論は大変濃密なものとなり、それぞれの参加者も大きな刺激を受けたものとなったように思われる。

文責:川村覚文(UTCP)

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