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【UTCP Juventus】金原典子

2009.09.30 金原典子, UTCP Juventus

2009年度のUTCP Juventus第25回はRA研究員の金原典子が担当します。
これまでの研究とこれからの研究予定について書きます。

<修士論文>
修士論文では、イギリスにおける政府とムスリム移民の関係を文化人類学の手法(フィールドワーク)を用い考察しました。従来の人類学の移民研究では、移民の文化をあたかもそれが政治的空白において存在しているかのように扱ってきました。例えば、移民の人々による政治的な活動や、人々が体験する政策についてよりも、人々の結婚様式や「イスラーム的な生活様式」についての研究が多かったことが挙げられます。しかし、ナショナリズムの近代性の議論にもみられるように、(国民の)文化を定義するという行為には権力の介在がみられます。そこで、移民の文化の「異質性」が権力により「創出」される過程を、検討することが重要であると近年の人類学者は述べています。移民の人々にだけ焦点を当てるのではなく、人々の生活とそれらに影響を与える政府、研究者、メディアの言説や行動との関係を分析することが重視されてきています。
そこで、イギリスにおいて低レベルの犯罪を指す「反社会的行動」(“anti-social behaviour”)の取り締まりをロンドンにおけるアルジェリア系の移民男性がどのように体験しているか、そして警察が彼らをどのように認識しているかを調査し、権力(イギリス政府)と彼らの関係を検証しました。アルジェリア系の飲食店が多いロンドン北東部のある地域では、若年のアルジェリア系男性による路上でのたむろ行為が、地域の人々に恐怖感を与えるという理由から「反社会的行動」であると認定され、警察による取り締まりの対象となっています。警察は公式の場では「地域コミュニティー」(“local community”)における問題として「反社会的行動」を捉えていましたが、アルジェリア出身の飲食店経営者たちは「反社会的行動」の取り締まりの背後にあるテロ対策という政府の隠れた意図を強調し、政府が「テロ」と“Algerian”を関連づけて考えていると指摘していました。なぜならば、アルジェリア系の移民男性は同じ路上で行われていたテロ対策の一環としての職務質問の対象とされていたからです。そして、その背景にはアルジェリア系移民がテロ対策の一環として最も多く拘留されていることや、イギリス政府とアルジェリア政府のテロ対策における協力があります。警察は、テロ対策を「地域コミュニティー」の問題としては捉えていませんでした。しかし、この地域以外の場で政府やメディアにより作られる「テロリストとしての脅威であるAlgerian」という社会的な意味が、アルジェリア系飲食店経営の「地域の問題」の捉え方を左右していたことは否めません。
<現在の研究>
博士課程では、イスラームの信仰に基づいて形成される特定の集団に所属する移民やその第二・第三世代の若年層の「共同体」意識を検討の対象とします。地縁ではなく信仰に基づく人的ネットワーク及び世界観がいかなるものであるのかを考察する予定です。
近年の研究において、移民の第二・第三世代の若年層が、祖国におけるイスラームの実践の継承よりも、ナショナリティに基づかない普遍的なイスラームの実践を重視し、トランスナショナルな人的ネットワークをもつ運動に多く参加していることが指摘されています。しかし、その共同体意識とは具体的にどういったものであるのかはあまり解明されておらず、今後の研究課題として残されています。そこで、私は出身国によって差別せず、すべてのムスリムに対し「正しい」イスラームの実践を伝道することを目的としたタブリーギ・ジャマーアトという世界規模のイスラーム信仰復興運動に参加する若年女性を研究対象とし、彼女たちが(1)どのようにウンマ(共同体)概念を理解し、それを日常生活においてどのように実践しているのか、(2)伝道活動を通してナショナリティの異なるムスリムとどのように関わっているか、(3)ナショナリティをどのように認識しているか、に焦点を絞り、フィールドワークを行いたいと考えています。

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