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【報告】イタリア・トリエステ研修/WORKSHOP Tojisha Kenkyu as a way to recovery: Bethel House and psychiatry in Japan

2016.04.01 石原孝二

 2016年3月15日、イタリア・トリエステにてL2プロジェクト主催のワークショップ“Tojisha Kenkyu as a way to recovery: Bethel House and psychiatry in Japan”が開催されました。以下は同ワークショップを含む3日間の研修についての、山田理絵氏(東京大学大学院総合文化研究科)による報告です。

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 2016年3月14日から16日まで、イタリア・トリエステのWHO Collaborating Center for Research and Training in Mental Health及び関連施設において、イタリアの地域精神保健福祉についての研修が行われた。研修参加者は、北海道・浦河市の社会福祉法人「浦河べてるの家」の向谷地生良先生(北海道医療大学)、亀井英俊氏、山根耕平氏、池松麻穂氏、樋口倫崇氏、向谷地愛氏、浦河ひがし町診療所の高田大志氏、広島大学の松島健先生、東京大学UTCPの石原孝二先生、山田理絵の計10名が参加した。3日間の研修は、トリエステの地域精神医療・保健福祉に関連する施設の見学、べてるの家をはじめとした日本の精神保健福祉における取り組みを紹介するワークショップ、精神科サービス・ユーザーと研修参加者との意見交換会の3つから構成されていた。

 WHO Collaborating Centerは、トリエステのサンジョバンニ公園にある建物のひとつに置かれている。サンジョバンニ公園の敷地の中の建物は、かつて精神病院として機能していた施設であり、その広大な敷地はトリエステの精神病の患者が暮らすコミュニティであった。1971年、精神科医のフランコ・バザーリアが病院長として就任して以降、患者が人間としての主体性を失ってしまうような精神病院の管理システムの改革が進んでいった。イタリアでは1978年、新たな精神病院の設置を禁止する「180号法」が制定され、サンジョバンニの精神病院を皮切りとして18年間で全ての一般の精神病院が閉鎖されたのだ。

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(写真1) サンジョバンニ公園の敷地。
中心に建つのが院長宅。道路の両側にはかつての病棟が残っている。向かって左手が男性患者の棟、右手が女性患者の棟として使用されていた。

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(写真2) WHO Collaborating Center for Research and Training in Mental Health

 精神病院廃絶と並行して、イタリアでは精神障害者を地域の中で治療し支援していく仕組みが構築されていった。本研修の目的の一つは、その仕組みについてお話をうかがい、実際に施設を訪問することで、トリエステにおける地域精神医療・保健福祉がどのように運用されているかを学ぶことであった。研修参加者が3日間で訪問した場所は、WHO Collaborating Centerのほか、障害を持っている人と持っていない人が共同で運営している社会協同組合の施設(‘Residential Facilities and Social Cooperatives’)、マッジョーレ病院の急性期病棟(‘Servizio Psichiatrico di Diagnosi e Cura’: SPDC)、ミラマーレのバルコラ精神保健センター、REMSという触法精神障害者が一時的に入所する病床を有するアウリジーナのデイセンター、公団住宅の中に5部屋の精神障害者用の部屋と、1部屋の世話人の部屋が置かれグループホーム的機能を果たしているヴィッラ・カルシアの6か所である。

 また本研修のもう一つの目的は、日本の地域精神保健福祉の現状をトリエステで紹介し、意見交換を行うことであり、“Tojisha Kenkyu as a way to recovery: Bethel House and psychiatry in Japan”というタイトルのワークショップが15日に開催された。向谷地先生、亀井さん、山根さん、石原先生、山田の5名が、松嶋先生の通訳で、地域精神保健福祉、精神医療における対話モデル、精神科サービス・ユーザーの経験、精神障害者家族の処遇などについての発表を行った。発表後、コメンテーターのロベルト・メッツィーナ先生(トリエステ精神保健局長・WHOメンタルヘルス調査研修コラボレーションセンター長)、そして会場からは多くのコメントや質問が寄せられた。

 そして研修最終日の16日には、トリエステの精神科サービス・ユーザーとの意見交換の時間が設けられた。トリエステ側の参加者は、主として「プロタゴニスト32」という名称の患者団体に所属していらっしゃる方々であった。同団体は〈精神障害からの回復の過程で患者自身が主人公であるという考え〉に基づいて当事者活動を行っているほか、精神保健に関する参与的な研究も行っているという。意見交換会では、前日のワークショップでの、べてるの家についての発表をうけて、活発な議論が展開された。

 本研修では、トリエステに実際に赴いて街を歩き、様々な立場から精神科サービスに関わっている人々のお話をうかがうことで、施設と施設の物理的な距離感だけでなく、人と人との距離感、複数の立場の人々によって支えられている密なネットワークを直に感じながら、トリエステの地域精神医療・保健福祉の在り方について学び、日本との比較において考察を深めることができたといえる。

報告:山田理絵(東京大学大学院総合文化研究科)

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