Blog / ブログ

 

【報告】 Utopia: Here and There @ NYU

2008.06.19 吉田敬, デンニッツァ・ガブラコヴァ, 橋本悟, 平倉圭, 井戸美里

2008年3月28日、29日に、ニューヨーク大学にて、哲学的・方法論的な考察を通して比較や比較可能性の問題について考えるコンファレンス、Age of Comparison ? が行われた。

28032008_NYU01.jpg

このコンファレンスは4つの学科 (Comparative Literature, East Asian Studies, Middle Eastern and Islamic Studies, Kevorkian Center for Near Eastern Studies)共催の下、ニューヨーク大学の大学院生が指揮をとるもので、若手研究者が自ら運営しているという点でも大いに参考になるものであった。UTCPでは若手研究員の平倉圭、デンニッツァ・ガブラコヴァ、吉田敬、橋本悟(現在ハーヴァード大学)、井戸美里が、'Utopia: Here and There' というパネルを組み発表を行った。


28032008_NYU02.jpg

平倉圭は、ジャン=リュック・ゴダールの映画における類似性の問題について発表を行った。映画『アワーミュージック』(2004)においてゴダールは、自らの顔面を強制収容所のユダヤ人=「回教徒」の顔面と比較し、重ね合わせてみせるが、そこにはイメージの類似を介して過去のイメージの「復活」が可能になるというゴダールの特異な思考(信仰)がある。すべてのものが「類似」を介して「ひとつ」になる、というファシズムにも近接した思考の回路をとおしてゴダールは、映画の「贖罪」を自らの身体において実行する。平倉は多くの映像資料を使って、ゴダールの思考の論理を提示した。


28032008_NYU03.jpg

デンニッツァ・ガブラコヴァは、魯迅『狂人日記』(1918)、大江健三郎「生け贄男は必要か」(1969)、島田雅彦『子どもを救え!』(1995)の3作品に反復して現れる「子供を救え!」というユートピア的発話に注目して発表をおこなった。そこにはフレドリック・ジェイムソンのいう「ユートピア的衝動」が結晶化している。ガブラコヴァさんは、魯迅と大江の作品に現れる「食人・狂人」のメタファーに注目しつつ、バフチンの「カーニバル」と「ポリフォニー」とをめぐる理論を接合させながら、3つの作品のあいだで、時代を超えて響き渡る応答の可能性について分析を行った。


28032008_NYU04.jpg

橋本悟は、グローバル化の時代において「ローカリティー」をいかにして思考しうるかという問いを発した。比較という実践は、比較されるものとは異なる新たな地平を比較それ自体のなかから内在的に生み出そうとするユートピア的衝動をもつが、グローバル化の時代においてその試みは、異なる他者を同じ一つの空間に溶解させるディストピアにつながりかねない。橋本さんはフレドリック・ジェイムソンの「ナショナル・アレゴリー」の議論とそれに対する批判を検討することで、オリエンタリズム抜きに他者のローカリティーを思考する可能性を示し、中国の美学者・朱光潛の『詩論』に、その具体的実践を読み取った。


28032008_NYU05.jpg

吉田敬は、Captain James Cookをめぐる2人の文化人類学者―Marshall Sahlins, Gananath Obeyesekere―の論争を扱い、異なる文化を比較することの難しさについて、「合理性」という観点から再考した。Sahlinsの論点は、異なる文化にはそれぞれの合理性の基準というものが存在し、ハワイの人々はCaptain James Cookを神とみなしたという。一方、Obeyesekereはハワイの人々を非合理的であるとみなすSahlinsの西欧側のまなざしに対し批判を加え、人類は生物学的な本性に基づく共通の合理性を有すると主張した。吉田さんが焦点として論じたのは、両者の言説における「合理性の度合」への配慮の欠如であり、この「合理性の度合」を考慮に入れることで、西洋/ハワイの人々という単純な比較の構造を免れ、今後の対話の可能性が開かれた。


28032008_NYU06.jpg

井戸美里は、金屏風や黄金の茶室など金で囲われた空間について考察した。仏教儀礼の空間から芸能の場にいたるまで金によって設えられる空間は、一時的な仮構の無縁平等の空間を創出していたということを論じた。そうした屏風により隔離された無縁空間は、西洋的文脈におけるユートピアとは異なる形ではあるかもしれないが、世俗的空間から遮断される形で生み出される現世における無の場所であった。

* * *

本パネルの記録は、同学会における中島隆博氏のキーノート・スピーチとあわせてUTCP Booklet 4として近々出版される予定である。

報告:平倉圭・井戸美里

Recent Entries


↑ページの先頭へ