【報告】 第4回BESETO哲学会議
2010年1月7日と8日に韓国のソウル国立大学で第4回BESETO哲学会議が開催されました.
BESETO哲学会議とは北京大学(Bejing University)とソウル国立大学(Seoul National University)と東京大学(The University of Tokyo)が共同で年に1度行っている若手研究者向けの国際会議です.
BESETO哲学会議の発端は,2006年9月に第二回の東アジア現象学会議(PEACE)がUTCPの主催で開かれたときに,ソウル国立大学のNam-In Lee教授,北京大学のZhang Xianglong教授と東京大学の村田純一教授との間で,教員レベルの交流のみではなく,もっと若い方たちの間での交流,とりわけ大学院生の間での交流の必要性について話し合いが行われ,その結果生まれたものです.毎年寒い1月に行われていて,今年は珍しく雪がたくさん降ったというソウルで行われました.ちなみに去年の第3回大会は東京で,おととしの第2回大会は北京で行われました.来年の第5回大会はまた北京大学で開かれる予定です.
今回の第4回BESETO会議にはUTCPから学生教員併せて12名が参加しました.本郷からもさらに12人,つまり東京大学だけで24人,3つの大学を合わせると参加者が50人を超える大会議になりましたが,どこか和やかな雰囲気の漂う会議でした.ソウル国立大学のスタッフのかたがたのホスピタリティのおかげ,また,豊かな自然に囲まれているキャンパスのおかげかと思います.
以下,UTCPから参加した若手研究員と教員にひとこと寄せてもらいました.
なお,第4回BESETO会議のプログラムはこちらからご覧いただけます.
(ここまで文責: 中澤栄輔)
【安永麻里絵】
★発表タイトル: The Concept of History and “Psychological-Affinity” in Museum Space: Reading the Display of the Folkwang Museum in Hagen
BESETO会議では、普段なかなか触れる機会のない、自分と異なる専門分野の発表を数多く聴講することができた。私自身の研究発表は、哲学を主たる対象とした本会議ではかなり特殊な分野のものであったにもかかわらず、様々な質問や意見を頂戴し、自分の研究に誰かが関心を持って耳を傾けてくださるということに純粋に喜びを感じた。そしてまた、英語という共通言語を共有することの意義を改めて実感した。
【住田朋久】
★発表タイトル: The Rhetoric and Reality of "Greening" in the Shōwa Period (1926-1989)
私はアジア哲学のセッションで日本の緑化思想について発表した。東洋哲学部門の会議室でのこの会は8人ほどと小規模だったが、韓国における緑化思想や鈴木大拙の思想などについて机を囲んで充実した議論ができた。
ソウルや北京の哲学者だけでなく、会場に来てくれたソウルの科学史家、そして東京大学のほかの分野の研究者と議論を深めることができたことも大きな収穫である。
ソウルの方々の手厚いおもてなしに感謝したい。
【中尾麻伊香】
★発表タイトル: Representations of the Brain in Modern Japan: Through Analysis of Medicine Advertisements in the Meiji, Taisho and Showa Periods (住田朋久,朝倉玲子との共同発表です)
昨年に引き続き二度目のBESETO参加で、哲学若手のネットワークができつつあることを感じました。一日目は小規模なアジア哲学のセッションに参加して刺激を受けました。一方、アジア哲学がBESETOの主流でないことも感じ、アジアにおける哲学とは何か、大陸哲学や分析哲学とどのような接点があるのか考えさせられました。二日目は大寒波のせいか風邪をひいてしまい、ふらふらの中での発表になりましたが、みなさんの優しさに助けられました。
【小澤京子】
★発表タイトル: Book as Space / Character as Architecture: Reading Ledoux’s L’Architecture considérée sous le rapport de l’art
国際学会での英語発表は初めてだったので、その雰囲気を掴めたのが第一の収穫だろうか。哲学系シンポジウムのため、自分の領域外の発表も多かったが、思考体系や理論展開の作法などが新鮮で、自らのアプローチを客観化する良い機会となった。似たような立場の若手研究者たちとの交流を通じて、自分自身のモチベーションを高めることもできた。ソウル国立大スタッフの方々の、細かいところにまで行き届いたホスピタリティにも感激。
【関谷翔】
★発表タイトル: Risk Studies Meets Neuroscience: “Experts vs. Lay People” Revisited
何よりもまず,扱う対象の多様性に驚いた.分析哲学,大陸哲学,アジア哲学,哲学史という分類がとても窮屈に感じられた.多様性は新しいものを創造する揺籃である.これからも,私を含め,多くの若い人々の飛躍の好機となっていって欲しい.また,各人の発表以外でも思想・意見・知識の交換ができるのもBESETOの魅力である.自らの関心領域に近い者を知り,人脈を広げる.その大切さを改めて実感した会議であった.
【佐藤亮司】
★発表タイトル: Do Qualia Make Our Life Worth Living?
前回の東京でのBESETO哲学会議に続いての二回目であったが、今回も現象学、分析哲学をはじめとした幅広い分野の研究発表が行われていた。私も自分の専門の発表以外に、政治哲学、倫理学といった内容の発表を聞き、大いに楽しみつつ知見を深めた。同時に二回の参加を通じて、様々な背景を持つ参加者がいる中での発表は大変難しい、ということを強く感じた。専門外の参加者も数多く巻き込んでいけるような発表を今後行っていきたい。
【朴嵩哲】
★発表タイトル: Wakefield’s Harmful Dysfunction Analysis about the Concept of Mental Disorder
【中澤栄輔】
★発表タイトル: Memory Erasure and the Idea of Authenticity
BESETO会議に参加するのも3回目で,昨年,あるいは一昨年にお会いした方々と旧交を温めることができました.国際交流には継続性が重要だと,あらためて思います.だんだんと定着し,もはや年中行事となりつつあるBESETO哲学会議ではありますが,この会議の継続・維持には多大な努力を必要とします.今回の会議の主催者であるNam-in Leeさん,いろいろと事前準備に奔走されたSunny Yangさんに感謝しています.
なお,ソウル国立大学の学食ででてきたトウモロコシのお茶は美味でした.日本でも買えるのでしょうか.
【平倉圭】
★発表タイトル: Hypothetical Resemblances: Godard’s Lecture on Editing
充実した2日間でした。関係各位に感謝します。
とくに印象的だったのは:
- 寒さ。大雪。ソウル大の立地。
- 自分の論文に、現象学研究者からヴィヴィッドな反応をもらえたこと。
- 分析哲学の用語に慣れたこと(ほんの少し)。
- 韓国の人たちのホスピタリティ!
【信原幸弘】
★発表タイトル: Moral Judgment and Motivation
【石原孝二】
大学院生の発表は、完成度はそれほど高くないものの、意欲的なものが多かったような気がします。BESETO会議はそもそも大学院生や若手研究者の訓練のためという意味合いがあると思いますので、その意味ではこの会議をうまく使ってもらっているように思います。院生どうしの議論も活発で、英語による議論の訓練の場としてもうまく機能していたように思います。