【報告】「テクノロジーアセスメント」セミナー
2010年5月28日に「テクノロジーアセスメント」セミナーを開催しました.
「テクノロジーアセスメント」とは,技術の発展によって引き起こされる社会的影響にかんして評価したり,具体的な対策を講じる社会的意思決定を支援したりする取り組みのことを意味します.技術の評価など専門家に任せておけばいいのだ,というのは昔の話であって,現在のテクノロジーアセスメントにおいて「市民」という視点は欠かせません.市民が自分たちの生活に影響を与える技術にかんして,市民の立場から評価し,社会的意思決定に参加することが求められているのです.
東京大学には,現在,テクノロジーアセスメントに関係しているプロジェクトが複数あります.
ひとつは「I2TA」.社会技術研究開発センター(RISTEX)の研究開発プロジェクトである「先進技術の社会影響評価(テクノロジーアセスメント)手法の開発と社会への定着」研究開発プロジェクト(Innovation and Institutionalization of Technology Assessment in Japan)(I2TAと略す)のことです. I2TAではテクノロジーアセスメントを日本の社会に制度的に位置づけるということに継続的に取り組んできました.
ふたつめは「科学技術インタープリター養成プログラム」.もともと科学技術振興調整費によって設立された大学院副専攻プログラムで,今年度からは教養教育高度化推進機構の中の「科学技術インタープリター部門」に位置づけられて活動を継続しています.
みっつめにUTCPです.UTCPでは中期教育プログラム「科学技術と社会」を今年度から開始しましたが,この「科学技術と社会」の活動の柱のひとつが「参加型テクノロジーアセスメント」です.「科学技術と社会」プログラムは事業推進担当者の石原孝二さんが担当していますが,石原さんは科学技術インタープリター養成プログラムの担当教員でもあります.そういったわけで,今回のセミナーは石原さんが中心となりました.
今回の「テクノロジーアセスメント」セミナーのテーマは科学コミュニケーターがテクノロジーアセスメントにどのように関わっていくのか,ということです.I2TAから吉澤剛さんと古屋絢子さんが参加し,吉澤さんがテクノロジーアセスメントの現在の状況とI2TAの取り組みについて発表しました.
また,科学技術インタープリター養成プログラムからは草深美奈子さん.科学技術インタープリター養成プログラムの方針や成果について発表しました.
UTCPとしてどのような取り組みが可能なのかを現在模索している段階ですが,これまで開催してきた「こまば脳カフェ」の継続などを軸にテクノロジーアセスメントの実践と理論的考察を進めていきたいと考えています.セミナーでは吉田敬さんが前年度までの中期教育プログラム「脳科学と倫理」の概要を発表し,今後の展望を論じました.
行われた議論の詳細についてはすでにI2TAの吉澤さんが報告を書いてくださいましたので,こちらをぜひご覧ください.
なかなか議論が盛り上がった今回のセミナーですが,質問は科学技術インタープリターの役割と養成プログラムの成果に集中しました.なので,必ずしも「テクノロジーアセスメントと科学コミュニケーターの関係」については議論を深めることができなかったように思います.もちろん,今回はまだ第1回目の会合です.第2回目,第3回目,とできれば継続的にセミナーを続けていきたいと思います.
I2TAは上に書いたように,テクノロジーアセスメントを日本の社会に制度的に位置づけるという目的をもち,その目的にしたがって研究成果のアウトリーチ活動に力を入れています.では,UTCPはどのような目的をもってテクノロジーアセスメントに取り組んでいくのか,はっきりとした方向性をできるだけ早く打ち出す必要がありそうです.
中澤栄輔(UTCP特任研究員)