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【報告】第5回こまば脳カフェ

2009.12.30 └こまば脳カフェ, 石原孝二, └こまば脳カフェ報告, 脳科学と倫理, 科学技術と社会

2009年11月27日、東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系博士課程の青木隆太さんをゲストに、第5回こまば脳カフェ 「感情がこころを彩る―認知・感情・倫理の脳科学」を開催しました。

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青木さんは「光トポグラフィー」という装置を使って脳活動を計測することによって、認知と感情の関係を研究されています。脳カフェでは、ご自身の研究についてご紹介いただいたほか、倫理的判断に関する脳科学研究の動向についてもお話していただきました。

脳活動を計測する方法としては、MRI(磁気共鳴イメージング)を利用した機能的MRIやPET(陽電子断層撮影法)などがありますが、光トポグラフィーは被験者にヘッドセットを頭にかぶってもらって計測する装置で、機能的MRIやPETに比べて身体的拘束が小さいという特徴があります。(ただし、大脳皮質の浅い領域の脳血流の変化しか計測できない、空間解像度はあまり高くない、といった制約はあるとのことです。)紹介していただいたのは、この光トポグラフィーを使って被験者の(ワーキングメモリ課題を行っている際の)前頭前野活動の個人差を計測し、被験者の抑うつ気分との関係を調べるという実験でした。実験では、ものごとを音声的に記憶する「言語性ワーキングメモリ課題」とものごとを画像的に覚える「空間性ワーキングメモリ課題」における脳活動の計測が行われました。実験の結果、抑うつスコアと脳活動の個人差との間に相関関係がありそうだということが示されましたが、興味深いことに、言語性ワーキングメモリと空間性ワーキングメモリでは、相関が逆になっている(言語性ワーキングメモリ課題においては、抑うつスコアが高い人ほど脳活動が小さく、空間性ワーキングメモリ課題においては、抑うつスコアが高い人ほど脳活動が大きい)とのことでした。また、これも興味深いことに、言語性ワーキング課題における反応時間の計測では、抑うつ気分のスコアが高い人ほど課題にすばやくこたえることができている(処理効率が高い可能性がある)ことが示されたそうです。認知と気分の関係は、「気分がよい時は頭もよく働き、気分が悪いときは頭の働きが鈍くなる」というような単純な関係ではなく、認知機能ごとに気分がバイアスをかけているのではないか、というのが実験結果を踏まえた青木さんの主張でした。発表の途中や発表の後で行われた討論では、「感情」や「気分」をどのように定義するのかや実験結果の解釈の仕方などが議論になりました。

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倫理的判断に関する脳科学研究については、「囚人のジレンマ」ゲームにおける協調運動や「最後通牒ゲーム」における公平性の選好に関する脳科学的研究などの動向について紹介していただきました。青木さんはこうした研究を紹介しながら、実験室環境からより複雑な現実的環境へと脳科学的研究をいかに拡げるのか、また、“機能局在”から“機能統合”へといかにシフトしていくかなどを今後の課題として指摘されていました。

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今回の脳カフェは(これまでの脳カフェでもそうでしたが)脳科学の若手研究者が実験で明らかにできることとその限界・課題、将来展望についてどのように考えているのかを直接聞くことができた有意義な会になりました。

(報告 石原孝二

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