【報告】「摂食障害をかかえて生きる」第1回「女性のライフイベント」
2022年3月5日、シリーズ企画「摂食障害をかかえて生きる〜当事者・経験者と考える、社会生活やライフイベントとの向き合い方」第1回「女性のライフイベント(妊活・妊娠・出産・育児)」が開催されました。
このシリーズ企画の趣旨や概要については、こちらをご覧ください。
このシリーズ企画は、会場での開催をzoomで配信するというハイブリット方式の開催を予定してきましたが、第1回は、会場で3名、zoomで60名ほどの方にご参加いただきました。イベントは13:00〜16:00までの3時間開催されました。前半の2時間程度で、この企画の趣旨の説明と、登壇者である漫画家のおちゃずけ氏、食育活動などをされているみせす(金子浩子)氏、UTCP特任研究員の山田理絵氏からの講演が行われました。後半では、zoomの配信を一時的に中止した上で、会場でのグループ・ディスカッションが行われ、その後、再度会場とzoomをつなぎクロージングが行われました。
当日の講演の概要やコメントについては、各登壇者が報告します。
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はじめに山田から、「摂食障害と社会」というテーマで、35分ほどお時間を分けていただきお話をさせていただきました。具体的には、摂食障害に関する歴史学的、社会科学的な研究を紹介するとともに、このような先行研究の流れをふまえて自身がどのようなテーマで研究に取り組んでいるか、それらのテーマとこのシリーズイベントがどのように関連するのかといったことを取り上げました。
お話の最後に、摂食障害の経験の多様性について触れました。これまで、拒食や過食を対象にした先行研究を読んだり、当事者や経験者の方々、各地の自助グループさん、医療関係者・サポーターさんなどから、摂食障害について少しずつ学ばせていただく機会をいただいたりしましたが、その過程で、私は、「摂食障害」という状態にある方々のご状況、そして経験のあり方に、一定の共通する部分はありつつも、それ以外の部分は非常に多様であって、ひとくくりに語ることがとても難しいと感じてきました。いわゆる「症状」のあり方や、経験年数、人生のどの時期に摂食障害を経験するか、医療やカウンセリングの経験、他の障害や疾患、もしくは社会的困難や社会的なマイノリティ性などを持っていることなどを含む色々な違いによって、どのような「摂食障害」を経験するかが、お一人ずつ違ってくるのだと感じています。
経験の多様性への着目は、摂食障害に限らず、他のメンタルヘルスに関わる困難や、疾患・障害においても重要な点かと思います。また、長年ご活動をなさってきた各地の自助グループ・家族会などのいわゆるサポートグループや、臨床や支援に携わられている専門家の方々の間では自明のことなのではないかとも考えます。ただ他方で、一般的に、摂食障害の場合は、どうしても「食事」や「体型」に注目が集まりやすく、それに伴って摂食障害のある一側面からの、特定の見方が形成される場合もあるかもしれず、多様なあり方という視点を、当日私からも提示させていただきました。
その一方で、今回のような企画では、設定するテーマによって焦点が当てられることが限られてしまうという懸念が常に念頭にありました。特に、参加者からコメントでいただいた女性以外の摂食障害というご指摘は、今回触れることができなかったテーマの中でも非常に重要なトピックだと考えており、シリーズの後半もしくは今後の企画などで、ぜひ課題とさせていただきたいと思います。
他方で、おちゃずけさんがご講演で、様々な体験の物語の「点と点がつながれば線になる」とおっしゃったように、摂食障害を経験している/された方々で少なくない方が通過されるような出来事や、持たれる思いというものもあるのではないかと考えています。また、第1回のテーマであった摂食障害と「女性のライフイベント」を、経験されたご本人から語っていただくというのも大変に貴重な機会な機会だったと思っています。おちゃずけさんとみせすさんのご講演を聞き、語ることが容易ではなかったことも含まれていたのではないかと個人的には感じましたが、お二人はお気持ちや経験を率直に語ってくださったように思います。ご経験についてのお話を共有してくださったお二人に改めてお礼を申し上げたいと思います。(報告:山田理絵)
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『摂食障害とライフイベント~摂食障害と共に夢を追いかけて』
まんが家 おちゃずけによる体験談
摂食障害は生きる事の基本である『食』に関わる病です。
食べる/食べないことに振り回され、人生の全てを飲み込んでしまうこともあります。
私の体験では、摂食障害の症状が一番激しい時期に、ある年上の女性の言葉に触発を受け、幼少からの自分の夢───「漫画家になること」を思い出し、そして、摂食障害を抱えながらも、その挑戦を始めたことについて語りました。
私が摂食障害になった原因の一つに、親との確執があったことを挙げ、そして、親が反対していた、自身の夢への挑戦は、実は親の呪縛から解放であり、自立に繋がったのではないかとお話しました。さらに、夢への挑戦の厳しい日々を、挫折せずに進めたのは、摂食障害があったからこそ、というお話もしました。
つまり、対人関係のストレスや、思うように行かない創作活動の中で、「過食、嘔吐」という自分なりのストレス解消を「許す」ことで、前に進み続けられたのではないかと考えました。
私は、摂食障害の治療を積極的に試みたわけではありませんが、夢への実現が結果的に摂食障害の症状緩和に繋がり、回復していきました。
摂食障害であるから、人生のライフイベントを諦めるのではなく、摂食障害であっても、さらには摂食障害であるからこそ、様々なことに挑戦して行って欲しい…と願います。(報告:おちゃずけ)
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「摂食障害を抱えて女性のライフイベントを生き抜く〜妊娠出産育児〜」
みせす(金子浩子)による体験談
私は、摂食障害11年目の当事者です。
大学2年(20歳)にダイエットから拒食になり、摂食障害を発症しました。そこから拒食過食の波を繰り返し、精神科での治療や社会人経験を通じて寛解したのが数年前。幸いに結婚でき、そのまま完治をすると思っていた矢先の出来事であった、妊娠出産という女性のライフイベントを通じて、摂食障害の症状が悪化・再発した経験をお話しました。
まず結婚の際に、ウェディングドレスを着る=体型と向き合うのでダイエットを意識してしまいました。その後、妊娠によって、摂食障害が悪化しました。具体的には以下のようなことがありました。
・妊娠のつわり(過食嘔吐の再発)
・妊婦検診での体重測定(避けていた体重計に乗る、体重指導)
・流産や死産の不安と向き合う
・産休の過ごし方という空白時間の対応(やることがないと食べ物に目を向けてしまう)
・陣痛の痛みへの不安
・産褥期の社会・心理的孤立(寝て休むべき体なので食べることが怖い)
・産後うつ(女性ホルモンんの変化と主人との喧嘩)
・不妊治療の出口が見えない不安(体重減による排卵障害)
・産後ダイエットと向き合う
・完全母乳によるオルトレキシアの発症(母乳がつまらないように健康的なものしか食べられなくなる)
・育児による社会的孤立、自己肯定感の低下
赤ちゃんが育ってくれるのだろうか、という妊娠継続や出産への不安は、食べることや体重のこだわりへ。元気に赤ちゃんが育ってくれるか、自分にできることは何かと必死で調べていました。自分の中での答えは、お腹を必死で守ること、そして母体の食べたものが胎盤を通じて赤ちゃんに栄養が行くので、できるだけ体にいいものを取ること、適正体重に収めたり、妊娠糖尿病にならないようにすることだったのです。安定期を過ぎても胎動が少なかっただけで心配になったり、妊娠後期は適切な運動をしなければ、と脅迫観念にかられ、趣味である自転車(ロードバイク)を毎日数時間乗っていました。しかし、それがいきすぎてしまい、通常10kg増えるべき体重が、1kgも増えることなく出産しました。
無事に生まれ、体重を気にしなくていいと思った矢先のことでした。女性ホルモンの変化により、産後涙もろくなったり、主人に対してイライラが止まらない状態になったりしました。またお腹はぽっこりしたままで産後ダイエットを気にしました。何より一番は母乳に関すること。母乳が詰まったらどうしよう、母乳の味で赤ちゃんの味覚が決まるのでは、と、オルトレキシア(特定の健康的なものしか食べられなくなること)を発症し、一時期は、添加物を一切排除したりする生活を送っていました。娘は元気に成長しても、大きくなるにつれて、寝返りやはいはいなどの発達が遅いのでは、母である私のせいでは、と、育児による自己不全感を感じるようになりました。
その頃になると、二人目は?という周りの声も聞こえてきました。当時出産や母乳で拒食の自分は生理が再開しない体になってしまったのです(続発性不妊症、排卵障害)。そのため不妊治療を受けましたが、注射によって毎日増えるお尻のあざ、今月もだめだった、と自分自身を自己否定したり、友達の妊娠を喜べない自分が憎かったり、精神的な負のループに入っていきました。ありがたいことに不妊治療のお陰で二人目を授かりましたが、同じく体重増加は怖く、1kgも増えることなく出産という同じ経過をたどりました。また、二人育児や、上の娘のイヤイヤ期と重なり、育児に対して不安感が増したこともありました。現在は産休はとれたものの、育休は取れず、自分自身のキャリアや仕事をどうするか、という問題と向き合っています。
これは、私だけの問題ではないと思います。社会的にも、痩せている女性の割合が増えており、いわゆるやせの妊婦の増加、それに伴う低出生体重児も増加しているという報告があります。妊婦だけにとどまらず、日本人の体型の変化(BMI換算)では、戦後栄養状態が改善しているのにもかかわらず、女性では10~30代でやせている女性が増え、それは小学生高学年・中学生にも及んでいるのです。また、実際に産後うつや、育児ストレスで悩む方の増加の報告もあります。
それでは、ここまで聞いて、みなさんは、「摂食障害が治るまで、妊娠出産は控えるべき?結婚はしないべき?」と思ったでしょうか。正直、摂食障害と妊娠出産は相性が悪いと思っています。なので、治ってからの結婚や出産にこしたことはありません。
ですが、私はいくつかの課題があると思っています。1つ目は、妊娠出産は年齢的な制限があること。年齢が上がるにつれ妊孕率(妊娠しやすい確率)は下がっていくという報告もあります。2つ目は完治に時間を要すること。摂食障害は寝て薬を飲めばすぐに良くなるものではなく、約10年かかるという報告もあります。3つ目は症状の再発や悪化の可能性がある病気ともいわれること。現在私は摂食障害になって11年目。精神科での専門治療を受けて2~3年かけて寛解したものの、このような悪化をたどりました。
私は、摂食障害を抱えつつ妊娠出産した一人の母として、「摂食障害を抱えても妊娠出産していい」と考えています。子供を産んで命の愛おしさを知ったこと。親からの大きな期待で育った私は勉強ができなければ!やせて美しくなければ、という強迫観念がありました。ですが、子供を産んで、ただ無力な存在に意味があり自分自身の生きている価値を認められるきっかけになりました。そして、不安の中もがいてきた妊娠や育児は、自分の自信につながりました。そして、母乳を飲み、離乳食を食べて大きくなる娘を見て、私たちは食べて生きていくんだ、という当たり前な「食べる」ことへの生物学的必然性を再認識したのです。
摂食障害の回復とは、諸説ある中で、体重や食行動の正常化、でおわりではありません。やせや食べ物に問われている自分の価値観や生育環境と向き合い、自分らしい生き方をすることが真の回復とも言われています。そのために必要なものとして、私は「自信」が大切だと考えています。自信には、2種類あると考えられており、(1)無条件に愛されているという自己肯定感・自尊心と、(2)過去の乗り越えてきた経験からくる自己効力感に分けられます。
私の場合は、自身の出産を通じ、赤ちゃんの存在意義からの自己肯定感や、出産を乗り切った自己効力感を感じることができました。ゆえに、私は摂食障害を抱えても妊娠出産育児はでき、病気の回復のプラスにもつながると捉えています。二人目の育児をしている今、以前よりも低体重や拒食にならずに過ごせているのは、守るべきものがあり、こどものためにも逞しく強くならなければ、といった使命感もあります。
妊娠出産育児は大きいライフイベント。社会に対しては、問題の大変さを社会に認知してもらいたいですし、また当事者として、摂食障害を抱えても生きていけるということを発信していきたいと思っています。改めて社会との繋がり、支援の必要性、当事者の横や縦のつながりの必要性を感じています。「摂食障害のみんなへ。一人じゃないよ、一緒に生きていこうね。」(報告:みせす)
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各登壇者からの報告は以上です。
なお、講演後には、「女性とライフイベント」に関連する経験談を事前にお寄せいただいた方の文章の紹介がありました。
イベント後半のグループディスカッションでは、登壇者の3名、参加者の3名、スタッフ1名が輪になって、イベントに参加された経緯や、講演に関連して考えたこと、などのテーマで30分間ディスカッションを行いました。このディスカッションでは、今回のテーマである女性のライフイベントと摂食障害に関するトピック(摂食障害の症状がありながら女性のライフイベントを経験することの懸念など)のほか、シリーズ企画第3回にも関連する、学校生活や就労に関するトピック(摂食障害の症状がありながら学業や就職活動などに取り組む困難さ)などが挙がりました。また、摂食障害と、それ以外のメンタルヘルスに関する困難との共通点に関する質問も挙がりました。
クロージングでは、オンラインの参加者も含めた質疑応答に加え、本日のふりかえりが行われイベント終了となりました。
企画の第2回「恋愛、パートナーとの関係」は3月27日(日)実施予定です。参加を希望される方は、こちらからお申し込みください。