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時の彩り(つれづれ、草) 031

2008.05.08 小林康夫

☆ コレクションUTCP (双方向性のために)

4月に高橋哲哉さんのコレクションUTCPが出た。昨年にこのシリーズをはじめて5冊目ということになる。

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これは国際的な学術交流をほんとうに行うには、なによりも海外の研究者にこちらがどういう研究をしていて、どういう考えをもっているかをはっきりと知らせることが最初の前提条件だろう、ということではじめたもの。もちろん、紀要や学術誌の欧文論文の抜き刷りを渡すことはできるわけだが、やはり人文系の研究者は個人の単著でなければ迫力はない。

海外の出版社などから正規の仕方で出版された著書があるのがもっともいいわけだが、それを待つあいだにも研究交流は進めなければならないわけで、「これがわたしの仕事の一部です」と差し出せる本があることは決定的に重要。しかも、海外の大学の図書館にも入れてくれるように頼めるので、まあ、海に壜の通信を投げるようなものかもしれないが、しかし壜をつくらなければ可能性も開けない。    


だが、小冊子とはいえ、なかなか一冊の本をつくるだけの外国語論文を揃えられる人はそんなに多くはない。「最低10本」とわたしは言っているのだが、今日の人文科学の国際性を考慮するならば、そのくらいはそう無理なくこなせるのが当然だろう、というようなことを言うのでまた、あちこちから反感を買うわけだが……めげずに今年も1、2冊はつくりたいもの。このシリーズが20冊くらい揃う日をわたしは夢見ている。

そうそう、このコレクションのテクストは原則、このサイトにもアップしてあるわたしのものもほぼ全文がアクセス可能で、先日、ハワイ大学を訪れたときは、空港に出迎えてくれたパークス先生、すでにわたしの書いたものに目を通してくれていた。そのように関係がはじまることのなんという幸福。

パーソナルな次元でのほんとうの相互理解にしか、国際学術交流の実質なんてない。えらそうな先生を海外から呼んで、鳴り物入りで大騒ぎして、お金のかかった報告書は出るが、結局、そのとき一回きりで、実のある継続的な対話はぜんぜんできないなどというばかげたイベントはもう過去のものだろう。

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