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【報告】松山刑務所・髙野洋一所長ご講演「刑務所の現状と社会復帰支援」②

2023.09.22 梶谷真司, 堀越耀介, 宮田晃碩, ライラ・カセム, 山田理絵

 2023年3月30日、UTCPのシリーズ企画「Second View」の第1回講演会が開催された。ご講演は「刑務所の現状と社会復帰支援」というタイトルで、松山刑務所(愛媛県松山市)の所長・髙野洋一氏にご講演いただいた。
 当日の内容を4回に分けて報告する。松山刑務所・髙野洋一所長ご講演「刑務所の現状と社会復帰支援」①はこちら

2 刑務所出所者が抱える生きづらさ
 髙野所長は、続いて、受刑者たちが刑務所内で普段どのような生活をしているのか、受刑者たちはどのような属性の人なのかについてお話された。加えて、受刑者の生活環境についても触れられた。具体的には、受刑者となってしまった人が、刑務所に入る前や出た後の生活にどのような特徴的な点があるのかということ、またそれらの事柄が、犯罪にまで至ることにどのように関係している可能性があるのかということである。
 はじめに、受刑者たちの普段の生活についてである。刑務所、少年刑務所、拘置所を総称し、法律上は「刑事施設」と呼ばれる。このうちに、主に受刑者が収容されるのは「刑務所」や「少年刑務所」である。一般的に、受刑者は朝6:50に起床し(刑務所ごとに多少の違いはある)、身支度・朝食を済ませた後、工場などに移動して刑務作業を夕方まで行う。平日は刑務作業の合間に、毎日30分運動の時間が受刑者に与えられ、そのほか面会、改善指導なども行われるという。17:00ごろに夕食を食べ、夕食後に自由時間を過ごした後、21:00に就寝する、というのが全国の刑務所の入所者の標準的な過ごし方だ。
 受刑者は、基本的には自分の居室から自由に出入りすることはできない。日本の刑務所に作られている居室は、多くの場合畳の部屋であり、被収容者は畳のひかれた単独室や共同室で過ごす。20年前に刑務所が「過剰収容」の状態であったときは、単独室に2人の受刑者が入所していたことがあったそうだ。

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 次に、受刑者たちの属性についてである。今回UTCPでは、髙野所長にご講演のご依頼をする際、犯罪の種類や刑罰の内容についてご説明いただいたうえで、受刑者の刑務所入所前、出所後の生活における「生きづらさ」について教えていただけないかとお願いをした。受刑をしている人々がどのような特徴を持つ集団なのかについて捉える視点、指標は複数あるだろうが、こうした経緯があって、ご講演では、高齢化、障害、貧困、住居や仕事の有無といった観点から、受刑者の属性について説明していただいた。
 日本の犯罪の状況とそれに関連する生きづらさを考える上で、ひとつの重要な指標は犯罪者の高齢化だそうだ。日本は高齢化が進んでおり、高齢者対策をしていかなければいけないと言われて久しいが、こうした社会を反映するように刑務所でも高齢化が徐々に進み、受刑者の高齢化にしたがって特有の問題も顕在化しているという。65歳以上の受刑者が、全体の受刑者に占める割合、つまり「高齢者率」は平成13年の時点で6%程度であったが、令和3年13.8%に上昇している。受刑者の数は平成18年に最も人数が多くなっており、そこから減少が続いているが、そんな状況の中65歳以上の受刑者は人数、割合においてじわりと増え続けているとのことである。
 髙野所長によれば、他国の状況と比較して高齢者犯罪について、日本は相対的に厳しい処遇の傾向が見られるという。つまり、高齢者がある罪を犯したとして、その処遇について日本と欧米諸国で比較した時、欧米諸国では司法の判断で被告人を福祉につなげるという経路が通例になっているが、日本は刑務所で服役させる傾向があるとのことだ。

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 では高齢の受刑者たちはなぜ刑務所にたどり着いてしまうのだろうか?男女ともに一番割合が多いのは「窃盗」である。全高齢受刑者(2233名)では約59%、男性高齢受刑者(1905名)では約54%、女性高齢受刑者(328名)では約88%が「窃盗」で受刑している。それに次いで多いのは、「覚醒剤取締法違反」で男性受刑者では11%、女性受刑者では約2%の人がこれによって受刑をしている。高野所長によれば、覚醒剤などの薬物で受刑している人の多くは、彼ら彼女たちがより若い時期に覚醒剤を使い始め、高齢になってもやめられない人たちが受刑しているそうだ。また、女性の窃盗については、お金がないわけではないのに窃盗する女性がいる。愛媛県にある松山刑務所には西条刑務支所という、女性のための刑務所があるが、そこで受刑している人たちの罪名はほとんどが「窃盗」であるという。
 さて、日本の刑罰としては「懲役刑」が主流であり、多くの受刑者たちがこの刑に服している。懲役刑の具体的な内容は刑務作業を行うことだ。したがって、懲役刑を受けた人は、原則的に全ての人が刑務作業を行うことなり、それは高齢者であっても例外ではない。そのほかの受刑者と同じように刑務作業を行い、それを中心に日常的な生活が組み立てられている。
 しかし、高齢者の中には身体機能や認知機能が若年層よりも低下している者も含まれる。このような人に対応するために、刑務所では車椅子に乗る受刑者や食事に注意が必要な受刑者などに配慮しているといい、近年では認知症傾向のある受刑者への対応も課題となっているという。平成27年の調査(平成30年版犯罪白書より)では、60歳以上の受刑者の中には、各年代で100名〜400名近く認知症の傾向が見られる受刑者がいると示された。こうした状況に鑑みて近年各刑務所では、受刑者の入所時に認知症傾向の有無を測定するために、長谷川式のスクリーニングを実施している。その上で、認知症傾向が認められた場合には専門の医師を受診させることがあるそうだ。また、受刑者に、認知症の影響と思われるような行動が見られた場合には、彼ら/彼女らを一時的に避難させるための部屋が設置されている刑務所もある。
 先に述べたように、<懲役刑であれば刑務作業を行わなければならない>というルール自体は現在のところ変わらないが、髙野所長によれば、刑務所内でこうした受刑者の生活をよく観察し必要に応じて作業の進め方を工夫することもあるという。このような対応で、時には認知症傾向があまり進んでいないな、と実感することもあるとおっしゃった。

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 認知症傾向がある受刑者と同様、近年、刑務所における処遇のあり方が課題となっているのは、知的障害を持つ受刑者への対応だ。令和2年9月に矯正局特別調査が行われ、知的障害受刑者(知的障害を有する者又はその疑いのある者)については全国で1345名おり、そのうち療育手帳を取得している人は414名(30.8%)ということが明らかとなった。
 知的障害受刑者については、刑務所にいる間と刑務所から出た後の双方に課題があるようだ。前者については、受刑者に関わる現場のスタッフが、どのような対応が適切なのかと悩むことがあるという。また、後者については、知的障害受刑者の「再犯期間は短く、入所回数は多い」傾向が課題となっているという。この理由として、彼ら/彼女らが必要な支援に適切に繋がらないまま出所してしまうことがあること、もしくは支援につながってもその状態が維持されないために、再び犯罪に向かってしまう人がいるのではないかと髙野所長は述べた。
 このような課題が明らかとなっている知的障害受刑者について、近年その処遇に一層の工夫をおこなっているのが長崎刑務所である。長崎刑務所では、22年度秋以降、九州で処遇されている知的障害受刑者を集めて、その人たちに対して「モデル事業実施庁」として試験的なプログラムに基づいた処遇を行なっている。このプログラムで注目すべき点は、社会福祉法人「南高愛隣会」に、受刑者の処遇に関する業務の委託を行うという形で、刑務所と連携が図られていることだ。この連携のもとで、知的障害受刑者の「①特性に応じたアセスメントと処遇計画の立案」、「②処遇計画に基づく訓練・指導」、「③療育手帳等の取得に向けた調整」、「④息の長い寄り添い型支援を可能とする調整」を実施し、受刑者の立ち直りを支援しているのである。

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 髙野所長によれば、統計上、受刑者の中で精神障害を有する人は増加していることが示されているそうだ。平成15年の時点では、入所受刑者31,355名中1910名(6.1%)、少年院入院者5,823名中281名(4.8%)が精神障害を有すると診断されている。これが、令和3年には、16,152名中2,475(15.3%)、少年院入院者1,377名中413名(30.0%)と変化している。
 全国的な傾向を提示された後、髙野所長は愛媛県の現状として西条刑務支所(愛媛県西条市)の概況をお話しされた。西条刑務支所はもともと男性を収容する刑務所であったが、女性の受刑者の増加を背景に、2014年8月に女子刑務所として改修・開所した刑務所だ。四国では唯一の女子刑務所である。西条刑務支所には令和4年7月末の時点で70名程度の受刑者がおり、その中で精神障害を有する受刑者は40名(58.8%)いる。令和3年の全国的な状況と比較すると、かなり高い割合で精神障害を持つ人が収容されていることが分かる。
 精神障害の診断名としてはいくつかが含まれているが、特にここ10年ほど注目されている診断名の一つが摂食障害であるといえよう。摂食障害のある女子受刑者(全国)平成25年は、全女子受刑者約4,500名中摂食障害がある受刑者が124名(2.7%)である。これが、平成30年には約3,800名中181名(4.7%)となっており、実数としても割合としても増加傾向が認められる。
 摂食障害のある受刑者の特徴として、罪名が窃盗の割合が多いということがある。法務省の特別調査によれば、全女子受刑者のうち窃盗で受刑している者が40%であるが、摂食障害のある女子受刑者については、窃盗が70%、それ以外が30%となっている。刑務所の中での指導には、ヨガや作業療法、読書療法、集団療法などが取り入れられているという。また食事の時に、食べるところに立ち会う、食後に嘔吐しないように見張る、小分けにして食事を出す(分食)、栄養剤を出す、鼻から管を通して栄養を与えるなどの工夫をしているそうだ。しかし病気が進行した場合は、医療の専門の刑務所に送られることもある。なお摂食障害を持つ受刑者の処遇について、北九州医療刑務所で先進的な取り組みが行われてきており、全国のモデルとなっている。

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 人はなぜ犯罪に手を染めてしまうのか?犯罪を犯す動機は人それぞれであると思われるが、受刑者が犯罪を犯したときの生活状況や社会的な属性を見ていくと、犯罪の背景にある社会的な要因が浮かび上がってくるようにも思われる。髙野所長は、受刑者が犯罪を行ったときの生活状況について、住居がない人が17.8%、無職であった人が69.2%、というデータを提示された。住居がない、職がないという場合には、日常生活に何らかの不安定さや困難が伴うケースもあることが想像できる。こうした人々が罪を犯して捕まり、刑務所で矯正指導を受けた場合、本人が変われるきっかけを掴めることもあるかも知れないが、出所後の生活の中でその変化のチャンスを失ってしまうこともあるだろう。地域に戻っても、再び、住む場所や仕事がない環境に置かれれば、それが再犯へと向かわせる要因になるかもしれないと髙野所長は示唆された。
 このように再犯防止の観点からは、刑事司法だけでは対応が難しい課題があるという。このような場合、地域社会での継続的な支援が必要となってくるが、出所後の受刑者を取り巻く環境は厳しい側面もある。したがって、出所者を引き受けてくれる自治体や、一般の人々の意識が変わるような働きかけも重要な課題であるそうだ。受刑者に対する処遇について、次のパートでさらに所長から具体的にご説明いただいた。

(報告:山田理絵)

【報告】松山刑務所・髙野洋一所長ご講演「刑務所の現状と社会復帰支援」③に続く。

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