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【UTCP juventus】中澤栄輔

2010.08.04 中澤栄輔, UTCP Juventus

【UTCP Juventus】は、UTCP若手研究者の研究プロフィールを連載するシリーズです。ひとりひとりが各自の研究テーマ、いままでの仕事、今後の展開などを自由に綴っていきます。2010年度の第2回目は特任研究員の中澤栄輔(記憶の哲学・脳神経倫理)が担当します。

もはや夏恒例(?)となりましたこのUTCP Juventus.おととし去年,今回と,3度目の夏になりました.

目下博士論文を鋭意製作中.まだちょっと遠い完成をめざし,精進しています.テーマは記憶の哲学です.記憶の哲学などなかなか流行らない分野だなぁ,などと思っていたのですが,今日,手元に届いた科学哲学会の『科学哲学』43(1) には櫻木新さんの “On Memory Knowledge” という英語論文が掲載されていました.(すみません,櫻木さんを直接存じ上げずに,こんなかたちでお名前を出させていただきました).櫻木さんは最近でた日本哲学会の雑誌『哲学』61にも「傾向としての記憶について」をご発表なさっています.すごい仕事をこなしているなぁと感心しつつ,記憶が哲学的話題になっていることに喜びつつ,気合をいれるぞ!と自分を叱咤しつつ,です.一転,海外に目を向けても,2008年に “The Metaphysics of Memory” という本を出したSven Berneckerさんが,最近 “Memory: A Philosophical Study” という記憶の哲学の本を出しました.もしかしたら,記憶の哲学,かなりの盛り上がりをみせているのではないでしょうか.

Berneckerさんの本,2冊とも非常に整理されていてとても読みやすいです(英語も平易).記憶における因果説という話題にどこかぴんっとくる方がいらっしゃいましたらぜひご一読を.しかし,Berneckerさんの方向性とわたしの方向性はちょっと(ずいぶんと)違います.記憶にかんしては脳神経科学や心理学といった自然科学の領域で膨大な研究が行われていますが,Berneckerさんの本ではそれほどそうした自然科学の研究成果が議論に活かされているとは言えないように思います.むしろ,潔いまでに振り返らない,ともいいますか.一方,記憶の哲学とならんで脳神経倫理学あるいは脳科学の哲学も専門分野としているということもあり,わたしはどちらかというと,せいいっぱい自然科学の研究成果を活かしていこうという方向で頑張っています.

こうしたわたしの研究姿勢の背景には自然主義があるのだろうと思います.以前,植原亮さんがUTCP Juventusで「あるときある人に(中澤栄輔さんだが)、その強固な自然主義は何に由来するのか、と尋ねられたことがある」と書いてくれました.わたしが植原さんにそのように尋ねたのはわたしが自分自身の方向性を自然主義なのか反自然主義なのか決めかねていたころ(たぶん修士くらい).いつしかわたしも自然主義の考えかたにシンパシーを抱くようになっていったようです.

そういえば,上掲の雑誌『科学哲学』43(1) にはUTCP共同研究員の西堤優さんの論文も載っています.タイトルは「ソマティック・マーカー仮説について―アイオア・ギャンブル課題の解釈をめぐる問題」.こちらも,みなさんぜひどうぞ.ところで,蛇足ですが,今回の『科学哲学』,ずいぶんと派手に赤い本です.いままで水色だったりクリーム色だったりしたように思うのですが,今回の赤い本はそのへんにポンと置いておいてももの凄い存在感を発揮しています.

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