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【報告】ガンボーニ教授セミナーの舞台裏——準備勉強会ことの次第 (1)

2009.07.25 近藤学, イメージ研究の再構築, セミナー・講演会

※UTCP新中期教育プログラム「イメージ研究の再構築」では2009年7月、ダリオ・ガンボーニ・ジュネーヴ大学教授をお招きして2度のセミナーを開催。このうち第2回目に関しては、参加予定者(大学院生)を主体に、きわめて入念な準備が行われました。まとめ役を担当した研究員がその模様を報告します。

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【2009年7月16日、ガンボーニ氏によるセミナー第2回】

「イメージ研究の再構築」プログラム(以下「イメージ研究」)事業担当推進者で、ガンボーニ氏招聘の責任者であった三浦篤教授は、 二つのセミナーの企画にあたって以下のような方針を明確に示された。すなわち、参加者は受動的な聞き役に甘んずるのではなく、積極的に提言を行っていくこと。

周知のように、これはUTCPが当初から基本として打ち出してきたところであり、かつ日々行われるさまざまな催事を通じて実現につとめているところでもある。とはいえ、専門的な議論の場で外国語を用いて発言するというのは、やはり一定の準備になしにはなかなか難しい。かつ参加者は、大学院の三浦教授の演習に出席中の修士課程・博士課程の学生が中心となることがわかっていた。こうした事情にかんがみ三浦教授は、参加予定者が定期的に集まって勉強会を開き、発言内容を練り、当日に臨むという案を出されたのである。


5月末、駒場キャンパスで藤原貞朗・茨城大准教授が、ご自身の訳された『潜在的イメージ』(ガンボーニ氏の最新著)を中心とする解説レクチャーを開催。翌日に第1回の勉強会が行われた。集まったのは、前述のように大学院三浦ゼミに出席中の大学院生8名ほど。

顔合わせと趣旨説明のあと、次までに課題テキスト2本を読んでおくことを決めた(テキストはあらかじめガンボーニ氏からお送りいただいていたものである;書誌情報は以下に記載あり→こちら)。あわせて2名を選び、それぞれ1本ずつ論旨の要約をお願いした。第2回はこの要約に基づきつつ、各自が興味を持った点、疑問に思った点などを述べあい、また、関連する事例を思いつくままに挙げていった。ここで出た意見や質問をめいめいが文章化し、この会のために設けたメーリングリストに投稿。それをベースに次の第3回も議論を続けた。

筆者は「イメージ研究」スタッフとしてまとめ役を務めさせていただいた。はじめに参加者の皆さんにお願いしたのは、原稿を用意して当日読み上げるのは避け、できるかぎりその場の流れに応じて発言するよう心がけよう、ということである。これには次のような背景がある。まずセミナーの企画段階で、リヨン大学でガンボーニ教授に師事された藤原氏から、教授の演習は学生どうしの自由なディスカッションを軸として進められるというお話があった。では、同じような活発な雰囲気を東京でも実現するにはどうするか。読み上げ方式だと、議論が発言者と教授の一対一の対話として展開し、他の参加者が介入する余地がなくなってしまうおそれがある。各人が自分の見解をまとまった形で述べられるよう備えておくこと、これが重要であるのは言うまでもない(とくに今回のように外国語を用いる場合には)。と同時に参加者どうしで問題意識を共有し、全員が全員の発言に対して何がしかの応答を行えるようにしておくこと。こうした二段構えの準備作業が必要であるように思われた。

この目標は上記の3回ほどですでに達成されていたと言ってよい。実際、参加者の皆さんの熱心な取り組みには初めから目をみはるものがあった。まとめ役とはいいながら、筆者が具体的にしたことといえば、各回の進行をごくおおざっぱな形で提案したり、管見の及ぶかぎりで課題テキストの背景を説明したりといった程度であって、だいたいは眼前で展開するディスカッションの白熱ぶりに感心しながらただ聞き入っていたというのが実情である。

(この点に関しては、そもそもガンボーニ教授の論が全体としてきわめて広範な問題を扱っており、美術に関心をもつ人なら必ずどこかに接点を見いだすことのできる性質のものだったということは記しておくべきだろう。好適な出発点を得たからこそ、この勉強会でもごく自然に談論風発となったのであることは間違いがない。)

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初めの3回を通じてだいたいの方向性が見えてきたところで、第4回はいよいよ英語でおのおのの意見や質問を表現する練習を行った。このため、日本美術史専攻でニューヨーク大学博士課程/明治学院大学非常勤講師の高松麻里さんにご参加いただいたが、NYUでは美術館学 (Museum Studies) の修士号を取得されたとあって、セミナー2の主題である「芸術作品としての個人コレクション美術館」についてはきわめて具体的で明確なご意見をお持ちであり、当日の議論はそれまで以上の活況を呈した。

英語での発言という点は、関係者全員にとって当初から最大の懸案であった。しかしここでも、事は予想よりはるかに円滑に運んだ。むろん適切な単語や表現が見つからず口ごもるといった場面は見られたにせよ、何しろすでに討議を重ね、各自言いたいことはかなりはっきりしてきていた。加えて、少々文法が怪しかろうが、思うところをとりあえず口にしてしまえばよいとでもいった、ごく気軽な雰囲気ができあがってもいた。これについては、抜群の語学力と自由闊達な人柄を兼ね備えた高松さんの参加がことのほか貴重な要因だったことをぜひとも付け加えておきたい。

(つづく)
(文責:近藤学)

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