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中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー(4)第3回報告

2008.09.03 └セミナー4:ベシャラを読む, 西堤優, 脳科学と倫理

中期教育プログラム「脳科学と倫理」セミナー4では "Decision Making and Free Will: A Neuroscience Perspective (Kelly Burns and Antoine Bechara [2007], Behavioral Sciences and the Law, 25: 263-280.)" を講読しました。今回はセッション3の報告です.

The Somatic Marker Framework

【本文要約】
  意思決定過程に対しては、身体恒常性や情動や感情を調節するさまざまな神経活動が重要な影響をもっているが、この点を強調するためにA.R. Damasio によって提唱されたのがソマティック・マーカー(somatic marker)仮説である。この仮説は、行動がもたらすより長期の結果に従って行動を選択するという意思決定過程の理解に役立つ、システムレベルでの神経解剖学的かつ認知的枠組みとなることが期待されている。

  行動選択に影響する身体状態を誘発する要因として二種類が区別される。
(1) 一次的誘発因子(primary inducers):外部環境依存的な刺激
心地よい状態や回避的な状態を引き起こす生得的ないし学習された刺激である。ひとたび環境内に一次的誘因が存在すれば、自動的かつ不可避的に身体反応を誘発する。
     例:薬物依存者が現実に薬物を手にすること。

(2) 二次的誘発因子(secondary inducers):脳の中で作られる刺激
行動選択に影響するのは外部刺激だけではない。ある個人的な想起や情動変化を引き起こす仮想的な事象、すなわち一次的誘因物についての「考え」や「記憶」によっても身体反応が引き起こされるのであって、直接誘因となるものを外部世界に知覚する必要はない。
     例:薬物依存者による薬物経験の想起や想像。

【講読に際して議論された点】

  • ここであえて「システムレベル」といわれるのは、その対極にある「局所レベル」を想定しているからである。現在の脳科学の考察の仕方は「脳の各部」という局所的なレベルでの考察に留まりがちだが、これに対してソマティック・マーカー仮説に特徴的な点は、脳の各部位の機能的関係さらに脳と身体と身体の関係という全体的な機能的連環から意思決定の過程を考察している点である。

  • ソマティック・マーカー仮説が提唱する意思決定と情動の関係については、生理学的な身体反応が個人の感覚経験に先立つというジェームズ・ランゲ説( James-Lange Theory of Emotion)(例:悲しいから泣くのではなくて、泣くから悲しいのだ)の影響が見られる。

  • 誘因(inducers)に関する議論から出発して、D.Dennettの『解明される意識』の中に登場する「獲得された味覚」にまで話が及んだ。
  • 報告者: 西堤優(UTCP共同研究員)

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