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【報告】智頭町訪問その1――レクチャー&フィールドワーク

2024.07.11 梶谷真司, 宮田晃碩, 山田理絵, 桑山裕喜子

 2024年3月15日から3月17日まで、UTCP梶谷先生とスタッフ(宮田晃碩さん、桑山裕喜子さん、山田理絵)で、鳥取県の智頭町を訪問した。

 訪問の主たる目的は、3月16日と17日に開催された「耕読会」および「哲学カフェ」に参加することであった。「耕読会」とは、長年智頭をフィールドのひとつとして研究活動を進めていらした岡田憲夫先生(関西学院大学)が主催されている読書会である。
 3月16日に行われた「耕読会」では、 梶谷真司先生の『問うとはどういうことか』 (大和書房、2023年)、同じくUTCPのメンバーである斎藤幸平先生の『人新世の「資本論」』(集英社、2020年)、そして智頭町にゆかりを持つ作家・ロシア語同時通訳者である米原万里さんの『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』(KADOKAWA、2001年)の3冊が指定の文献となり、梶谷先生と斎藤先生は著者として「耕読会」に招待されたのである。(斎藤先生はオンラインで参加された。)
 また、3月17日には山泰幸先生(関西学院大学)のファシリテーションで行われた「哲学カフェ」に参加し、智頭町の方々や、岡田先生の知り合いの先生方と「忘れる」というテーマで対話を行った。
 これらのイベントの合間をぬって、随所で智頭の歴史や現状について学ぶ機会をいただいた。特に、私たちが東京から智頭に移動した3月15日には、岡田先生、山先生、そして智頭町の方々に詳細なレクチャーをしていただき、関連施設のフィールドワークをした。以下ではその詳細について報告したい。

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 UTCPの参加メンバーは東京から新幹線で移動し、お昼過ぎに智頭駅に到着した。駅の近くで昼食をとった後、智頭町の地区振興協議会の大呂さん、福本さん、そして岡田先生からお話をうかがった。このレクチャーが行われた場所は、駅から歩いて5分ほどのところにある「ちえの森ちづ図書館」内の会議室であった。この図書館は2020年に建てられた比較的新しい建物であり、中は天井が高く、明るいうえに、木の温もりが感じられるとても素敵な内装であった。

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 智頭町の面積は224.7平方キロメートル。南北に因美線が走っている。鳥取城下から川沿いに河原・用瀬・智頭を通って志戸坂峠に至る道を「智頭往来」といい、古くは殿様が通った道として「上方往来」とも呼ばれていた。国道53号線と国道373号線はほぼそのルートを通っているという。
 人口は現在7,000人ほどであるが、最も多い時は15,000人ほどが智頭町に暮らしていた。面積全体の93%が山林であるため、可住地面積から見ると人口密度は高く、農地が少ないのが特徴だという。したがって、山を守りながら農林業を行う産業構造になっているそうだ。
 智頭町には89の集落があり、中でもいちばん奥まった場所に八河谷(やこうだに)という集落がある。ここを活性化することができれば、智頭町の他のエリアも活性化できる可能性があるとのことで、以前から地域活性化のためのイベントや取り組みを行ってきたという。

 この八河谷集落は、岡田先生が智頭町とのつながりを持った場所の一つでもある。
 岡田先生は、1980年代に社会システム工学の専門として鳥取大学に着任されたが、その当時、学内の留学生をまとめる立場にあり、その仕事の一環としてカナダのオンタリオ大学からの留学生を受け持つことになったという。
 この留学生受け入れの様子が、当時の地元のテレビで放送されたそうで、それを目にした大呂さん含め智頭の方々は、岡田先生に「(留学生たちに)うちに来てもらってホームステイしてもらえないか」と打診したのだという。岡田先生と大呂さんたちはこのような経緯でつながりをもつこととなったそうだ。そして、その後岡田先生は、智頭町の住民有志の集いである「智頭町活性化プロジェクト集団(通称:CCPT=Chizu Creative Project Team)」の依頼で、本格的に智頭町の街づくりに関わることとなったという。

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 岡田先生が智頭に関わって最初に行った研究は、八河谷集落の状況の調査および今後の地域の展望について分析する実態調査であった。岡田先生が、集落の人々全員にインタビューするなどオーソドックスな手法で調査を進めていくと、特に人口について、下がっていくものは基本的には上がらない、という結論が出たそうだ。
 地域の将来の見通しは明るくない——そんな結論を目の当たりにした岡田先生は、その時に<研究者として大学人として地域と関わるとはどういうことか>、<どのようにして地域の課題と自分の学問と結びつけていけば良いのか>、ということを深く問い直したという。そこから、岡田先生の研究は、関与的・適応的デザインへ方向転換(SMART Governance)していったそうだ。また、1回の調査で智頭を去ることなく、反対により深いレベルで智頭のまちづくりに関わっていくことになったのだ。
 岡田先生は智頭の人々と共に地域活性化に関するプロジェクトを実施していった。主要なものに、郵便局を拠点として独居の高齢者の見守りや買い物などを行うシステムである「ひまわり運動」、集落単位で地域おこしの企画を考えて、任意で参加するプロジェクト「日本ゼロ分のイチ村おこし運動」がある。
 こうしたプロジェクトに参加する一方、岡田先生は1991年に京都大学に移ることとなった。しかし智頭との関わりは途切れることはなかった。智頭とつながり続けるための試みとして、1993年(平成5年)ごろから読書会である「耕読会」を実施してきた。「耕読会」自体はさまざまな場所で実施してきたというが、そのうち1年に1回(以前は1年に4回)は智頭で実施してきたという。UTCPのメンバーが今回参加させていただいたのは、この耕読会のシリーズのひとつに当たる。以前は真庭という地域で実施していたというが、ここ3年間は智頭町のパン屋さん「タルマーリー」で開催されているのである。

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 レクチャーの終了後は、岡田先生たちのご案内で特にゆかりのある場所に連れていっていただいた。下の写真に写っているのは、かつてトロントからの留学生が泊まっていたログハウスのあった場所である。

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 フィールドワークの後、私たちはタルマーリーに移動して「智頭やどり木協議会」の活動報告に参加した。「智頭やどり木協議会」とはまちづくり団体であり、智頭に拠点をおいてビジネスを行う女性経営者たちが団体運営を行っている。メンバーは、建築設計事務所 plus casaの代表、小林利佳さん、やどり木代表・ゲストハウス「楽之」を経営する竹内麻紀さん、「明日の家」というゲストハウス運営など複数の会社を経営する村尾朋子さん、そしてタルマーリーを経営する渡辺麻里子さんの4名だ。
 智頭町は、2022年にバスとタクシーの営業が廃止となってしまった。また、現在500件以上の空き家がある状況であるともいう。他方で智頭には、豊かな自然があり、また歴史的に重要な文化財も残されている。「智頭やどり木協議会」は、こうした地域資源を観光などに活かしつつ、持続可能なまちづくりを目指しているといい、活動の長期的な目的を「景観、観光、空き家の循環の中で、町民自身が街の魅力に気づいて文化を醸成していく」こと、「旅人との触れ合いの中で、住んでいる人たちが、自身の街の魅力に気づいていく」ことを据えている。活動報告では、4名それぞれが、智頭との関わり、これまでのお仕事の経験、そして智頭でのビジネスの展開について共有してくださった。(報告:山田理絵)

 智頭訪問の2日目3日目の報告はこちらをご参照ください。

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