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【報告】東京大学共生のための国際哲学研究センター(UTCP)シンポジウム「哲学対話って楽しい? ――私たちがしているのは「哲学」なのか?」

2022.01.17


2021年12月9日、東京大学UTCPにてオンライン・シンポジウム「哲学対話って楽しい? ――私たちがしているのは「哲学」なのか?」が開催されました。

本企画は、今日日本社会において少しずつ広がりを見せている「哲学対話」の意義やその楽しさ・可能性について再検討するという趣旨において開催されました。本イベントを開催するにあたって、哲学対話の経験が大変豊富な永井玲衣さんと幡野雄一さんをゲストにお招きし、多様な観点から「哲学対話」という存在自体を対話することができる場を準備しました。

続く箇所において、本シンポジウムの内容を大まかにお伝えいたします。

 
 まずゲストである永井玲衣さんがご発表をされました。永井さんのご発表の中でとりわけ印象的であった言葉は、「〈世界という問題集〉に戸惑いまくることが哲学である」という言葉です。問いを見つける気持ちでいるならば、街中を見渡すだけで「あれ、何か変だぞ」と思わせてくれるような物体や出来事に遭遇することができます。そうした問いは、ぼうっとしてしまうとまるで蝶のように過ぎ去ってしまうものです。だからこそ、そうした問いをつかみ取り、より世界を見えるようにしてくれるものこそが「哲学」なのであると永井さんは述べられました。


さらに、永井さんが哲学対話において重視するのは「人間観」そのものの転換という視座です。いわゆる「理性」を持つ人物だけが議論を引っ張ってしまうのではなく、互いの観点や弱みを認め合いながら、お互いに問いを投げかけ、「誰もが真理の探究に貢献することができる」という考えを持つことこそが重要であると永井さんは述べます。そのときの「私」とは、「合理的な判断主体」であるという以上に、「応答的な存在」であることが重要なのです。

身近なことから問いを出発するということ。同じ場に集う人たちと一緒に問いを深め合うということ。こうした営みこそが、「等身大で、手のひらサイズで哲学すること」であると永井さんは述べられました。


次に、もう一人のゲストである幡野雄一さんがご発表をされました。興味深かったのが、哲学対話が非常に「緊張感のあるもの」として永井さんが捉えられていたのに対して、幡野さんは、哲学対話を底抜けに「楽しいもの」として捉えられていたということです。幡野さんにとって、哲学対話の場とは「安心してボケることができる場」です。実際幡野さんは、「ブラックマヨネーズ」という芸人さんの漫才の動画を例に挙げながら、「哲学対話と漫才の類似性」についてご指摘されました。そこにおける類似性とは、まさに「ボケとツッコミ」です。「これって、なんでこうなんだろうね?」、「なんでそうなるんだ?」といったツッコミをお互いにし合えることが、哲学対話における醍醐味の一つであると幡野氏は述べるのです。

ですが、幡野さんにとって哲学対話とは単に楽しい場所であるだけではありません。永井さんと同じく、幡野さんも「他者」がどこか怖い存在であるという他者イメージを持っておられます。ですが、自分の持つ弱さを認め、肯定してくれる存在もまた、他者に他ならないのです。こうした意味で、哲学対話とは同時に自己を認められる場にもなりえます。

最後に、幡野さんは「ただ楽しいから哲学対話を行っているが、実は意義を見だしたい点もある」と述べられていました。それは「揺れを生み出したい」というものです。ここで言われている「揺れ」とは、「新たな問いや疑問を生み出すこと」です。あたかも「トリックスター」であるかのように哲学対話の場を社会に生み出していくことで「揺れ」を生み出すこと、そしてその揺れの中で自己自身も揺れ動くこと、そうしたことを楽しんでいるのだと幡野さんは述べられました。

その後は永井さん、幡野さん、梶谷真司先生、そして司会進行の山野弘樹を含め、四人で広く「哲学対話」をめぐる対話を行いました。その中で「ファシリの役割」、「哲学対話における成功とは?」、「哲学対話自体はどれだけ楽しいか?
今後もやっていきたいか?」、「問いを深めるとは何か?」といった話題が展開されました。

例えば、やはり「ファシリテーター」の役割について様々な見解が出ており、永井さんのように緊張感をもって場に臨まれるという方もいれば、幡野さんのように「あえて」何かを準備することなく、変に構えすぎないように自然体で対話をするという方もおられました。また、「哲学対話」自体が必ずしも楽しいばかりでなく、時につらいものであったとしても(例えば永井さんが共有してくださったように、突然参加者の一人が泣き出してしまうような状況に直面することがあったとしても)、「それでも哲学対話を続けて行きたい」という見解に対しては全員同意をしたというのも、非常に示唆的であったように思われます。今回、「問いを深めるとは何か?」という問いに対して登壇者のお二人が何らかの見解を提示することはなかったのですが、それでも問いに対して向き合い続ける姿勢を持てるようになることが、もしかしたら哲学対話における「成功」なのかもしれません。

コロナ禍が続き、オンライン・イベントが主流になった中で始まったZoomにおけるUTCPシンポジウムですが、今回も事前登録の時点で150名以上の方々にお申し込みをしていただきました。


改めまして、本イベントにご参加してくだった方々、そして何よりも貴重なお時間を割いて素晴らしいご発表をしてくださいましたご講演者の方々(永井玲衣さん、幡野雄一さん)に心から感謝申し上げたいと思います。一緒に本イベントを形作ってくださいまして、本当にありがとうございました。

(文責:山野弘樹)


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