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【報告】見えない外国人――日本における無国籍と在留資格の問題

2022.01.10

 2021年12月19日に「見えない外国人――日本における無国籍と在留資格の問題」をオンラインで開催した。

 日本にはすでに多くの外国人が暮らしている。国内には多様な文化的背景を持つ市民が急増しているが、そのなかには国籍や在留資格の問題を抱え、制度の中で位置づけられず、十分な保護なく生活せざるをえない人たちがいる。彼らが直面する困難は、ほとんど可視化されてないまま放置されているのが現状である。

 本イベントでは3名のゲストをお招きし、今後日本の社会が様々な外国人と共生していくためにどのような制度が必要なのか発表・対談を行った。

滝澤ジェロムさん(日本福祉大学)
「無国籍×わたし×在留資格――見過ごされた22年間」

 これまで日本福祉大学に在籍する傍ら、子どもの権利擁護に関わる役職を歴任してきた。滝澤さんは日本生まれ、日本育ち。しかしながら、22年間無国籍の状態にある。滝澤さんにこれまでの経験をお話いただいた。

 小学4年生の頃、朝目を覚ますと家の中がざわついていた。家には複数の警官がいた。両親に「荷物をまとめて」と言われ、急いで必要なものをカゴに詰め込んだ。非日常と化した現実に、混乱したという。フィリピン国籍である滝澤さんの両親は、様々な事情が重なり、在留資格を持たない「非正規滞在者」となっていた。摘発された両親は入管施設に収容され、滝澤さんは両親と離れて暮らすことになった。学校の友人にお別れをする機会もないまま、児童養護施設での生活が始まった。それから両親に1年間会えなかったという。

 「在留資格がないから日本に滞在出来ないんだよ」

 自分たちの状況について説明を受けたとき、初めて在留資格がないと日本に住めないことを知った。自分では対処しきれない問題だったので、それには触れないようにして過ごした。その後、両親は3度の裁判に敗訴。滝澤さんが中学2年生の時、父親は強制送還されることとなった。父親は「お母さんと、妹と、弟を守ってね」と残していった。そこから自分も動かなくてはいけないと思い、色々調べ始めた。

 両親が摘発されてからは、仮放免許可書を定期的に更新し過ごした。仮放免許可書は在留資格とは異なり、収容所への収容が免除されるものである。在留資格がなかった滝澤さんは、医療や奨学金を受けることや、就労、移動の制限があった。大学へは、お金をどうにか工面しほぼ奨学金なしで通い、大学では様々な活動を行ってきたという。
 現在は在留特別許可が下り、正規滞在の資格を得ている。しかしながら、在留特別許可の審査基準は不透明。またその頃、滝澤さんの出生届がフィリピンに提出されておらず、国籍を証明出来る書類がないこともわかった。両親が強制送還を恐れ、出生届を出していなかったという。国籍、戸籍を持たない滝澤さんは、独身を証明することが出来ないので結婚も難しい状況にあったり、携帯一つ契約したりするのにも困難が伴う。無国籍状態だと、支援なしには生きられないと語る。今後何百枚もの書類を準備してフィリピンの国籍を取得するか、日本へ帰化することで国籍取得をしていくことになるという。

篠崎玲菜(東京大学 人間の安全保障プログラム)
「無国籍を通じて見える社会問題」

 親族がブラジル、アメリカに住んでおり、多文化的な環境で育った篠崎さん。ご自身が無国籍状態にあったことを知ったことをきっかけに、研究の道へ進んだ。

 元々は外交官を目指し、公務員試験を受けようとしていた。そこで「純日本人」すなわち日本の国籍のみ保持する人しか 、試験を受けられないことが判明した。それがきっかけとなり、出生時無国籍状態にあったことを知った。現在は研究の傍ら、NPO法人無国籍ネットワーク、アムネスティなどに在籍しながら、啓発活動に携わっている。

 無国籍者とは強制移動や移民、難民といった背景から国家の法の運用において国民としてみなされていない人々を指す。世界の無国籍者は推定1000万人。参政権がないため、民主的な関わりが出来ず、居場所を見出しにくいことも多い。また国内には、父親に認知されず無戸籍となった人々が1万人いると推定されている。安倍元首相は「一億総活躍社会の実現」を掲げていたが、そこに無国籍者、無戸籍者は含まれているのだろうか?と篠崎さんは疑問を呈した。また今後は、申請が原則自己責任、もしくは親の責任となるような制度を廃止して、国籍・戸籍取得のハードルを下げていければ、改善されることも多いだろう。

ヨザ・アディダヤ(東京大学 多文化共生・統合人間学プログラム)
「技能実習制度 : ムスリム技能実習生の現状」

 インドネシア出身のヨザさんには、ご自身の研究テーマである技能実習制度の現状についてお話いただいた。
 2018年の入管法改正によって導入された特定技能制度は国内の労働力不足を補うために、低熟練労働者を正面から受け入れることが可能となった。
 技能実習制度は日本の技術を開発途上国に移転することを掲げた「国際貢献プログラム」として始まった。しかしながら現状として、技能実習制度は3K(きつい、汚い、危険)労働の不足への対策として、実習生を劣悪な労働環境下で雇用し、最低賃金以下の給料で補うことを可能している。昨今、技能実習制度に関する問題点が盛んにメディアなどを通じて報道されるようになってきた。しかしながら、公式的に国内の労働力不足を補うことを目的とした特定技能実習制度が成立した現在も、技能実習制度は継続されており、本制度に関連した人権侵害は後を絶たないのが現状である。
 ヨザさんが行った調査では、ムスリムのインドネシア人の採用を行っているのにも関わらず、勤務中の礼拝や、ヒジャブの着用、ラマダンを禁止している企業があった。今後は調査を継続し、当事者の声を集め現状を明らかにし、政策提案並びに国際的な注目を集め、状況改善のために尽力していきたいという。

 ゲストの発表を踏まえ、イベント後半では対談を行った。発表で指摘された課題の他にも、在留外国人が直面している様々な問題についての指摘があった。現時点で、移民の存在と多様性を包摂した未来を描くための、政策的な解決策などは提示されていない。今後もこのような機会を設け、問題への提起と解決の模索を行っていくことが求められるだろう。(飯塚陽美)


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