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【報告】UTCPシンポジウム「〈想像力〉とは何か?――カントとシェリングの視座から」

2021.03.11 八幡さくら

 2021年2月6日、東京大学のUTCPにてオンライン・イベント「〈想像力〉とは何か?――カントとシェリングの視座から」が開催されました。

 本企画は、近代ドイツ哲学を代表する哲学者イマヌエル・カント(Immanuel Kant, 1724- 1804)およびフリードリヒ・シェリング(Friedrich Wilhelm Joseph von Schelling, 1775-1854)の視座から、「想像力(Einbildungskraft)」という思考の営みの特質を〈一般の人々に分かりやすい言葉〉で検討するという趣旨のもと構想されました。
 また、本イベントは、これまで行われた公開哲学セミナー(2020年5月30日「現代フランス哲学から見る〈共生と責任〉の問題」/2020年11月22日「現代哲学の源流をたどる(1)――フッサールとハイデガー」)と同様に、哲学に関心を持っている一般の人々と、当該分野で活躍する若手研究者を繋げるための〈場〉を構築したいという意図も込められていました。そのため、本シンポジウムにおいては、「講演」の部と同じくらいの時間をかけた「質問」の部を設けることに決め、とりわけ一般の参加者の方々との双方向的なやり取りを行うことを重視しました。
 
 その結果、これまで行われてきた多くのUTCPイベントと同様に、本イベントも大変な盛り上がりを見せました。登壇者である辻麻衣子さん(上智大学非常勤講師 / カント、新カント派の哲学)と八幡さくら(ケンブリッジ大学訪問研究員 / シェリング哲学)のご講演が終わった後、多くの方々からの質問が寄せられ、閉会の時刻を迎えてなお議論の高まりが鎮まることはありませんでした。以下、続く箇所にて、当日の様子を略述いたします。

 まず辻さんが「想像力と知性――異種なるものをつなぐ想像力の広がり」というタイトルでカント哲学における想像力について発表されました。辻さんははじめに『純粋理性批判』での、自然科学を念頭に置いた認識論の基本的な枠組を解説した後、そこで想像力が感性と悟性(知性)という異種的な能力を媒介する働きをもつことを指摘されました。カントによれば、この科学的認識が悟性(知性)によって概念を適用され、いつでもどこでも成立する普遍的なものである一方で、『判断力批判』で語られる美的な認識は、人間の心に生じる快の感情に基づいているゆえに主観的でしかなく、しかし同時に他者と共有することができます。ここには、想像力が悟性(知性)との「自由な戯れ」の状態にあり、主導権を握って働くというポイントがあります。続いて辻さんは、カントが天才をどのように捉えていたか、また文芸や絵画、音楽など個々の芸術ジャンルの区分とヒエラルキーをどのように考えていたかについて説明されました。最後に、カントの述べるように想像力は異なるものを結びつけ、調和をもたらす能力であること、たとえばユーモアや共感など知性とは必ずしも相容れない人間の一部を知性と融合させて包括的な人間像を作りだすという点で、想像力が人間のきわめて重要な核になっているということを辻さんは指摘されました。

 辻さんのカントの想像力の発表を受けて、八幡さんは「芸術における自由な想像力――シェリング哲学の視点から――」というタイトルで芸術制作における想像力の働きについて説明しました。八幡さんはまず、カントの議論では、芸術作品という客観的なものに呈示される美というものを汲み尽くせていないのではないか、と問題提起しました。芸術における美の問題と天才たる芸術家の想像力を解明するのがシェリングの芸術哲学です。八幡さんは、シェリング芸術哲学における想像力が、対立するものを一つにする統合力であり、理念と形式を結びつけ、絶対者を美として呈示するものであるとまとめました。そして、シェリングがどのような芸術ジャンルや芸術作品を分析しているかを紹介しました。さらに、八幡さんによれば、こうした想像力は芸術家のみに認められるものではなく、作品を鑑賞する側にも認められると考えられます。最後に、あらゆるものの根底に絶対者があると考えるシェリング哲学が、多様化する現代社会においてどのような意義を持ちうるのか、そして、現代の芸術においても適用可能かということを、八幡さんは聴講者に問いかけました。


 コロナ禍が続き、オンライン・イベントが主流になった中で始まった「公開哲学セミナー」シリーズ(Zoom開催)ですが、今回は事前登録の時点で502名もの方々にお申し込みをしていただきました。ですが、Zoomの仕様上、人数制限がかかってしまい、お申し込みをしてくださった方々の中でご参加ができない方が出てきてしまいました。また、今回はZoomのチャット欄への書き込み等によって円滑な進行が妨げられた面もありました。今後は、より「心理的安全性」が確保され、一般の参加者の方々が哲学の講義に集中できるような環境を作ってまいりたく存じます。今回のイベント運営を踏まえて、改善できる問題点がいくつも発見できましたので、より良い仕方でイベントを実現していくことに向けて、今後も努力を続けてまいりたいと思います。
 
 改めまして、本イベントにご参加してくだった方々、そして何よりも貴重なお時間を割いて素晴らしいご発表をしてくださいましたご講演者のお二人(辻麻衣子さん、八幡さくらさん)に心から感謝申し上げたいと思います。一緒に本イベントを形作ってくださいまして、本当にありがとうございました。

最後に、本イベントのアンケートの結果を一部掲載いたします。

●「本日のイベントはいかがでしたか?」
「とても良かった」……36.2%(25名)
「良かった」……53.6%(37名)
「普通であった」……8.7%(6名)
「良かったとは言えない」……1.4%(1名)

●「またこういったイベントがあったら、参加してみたいと思われますか?」
「参加を強く希望する」……47.8%(33名)
「参加を希望する」……46.4%(32名)
「現状ではどちらとも言えない」……5.8%(4名)


(文責:山野弘樹)

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