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【報告】Robert Harvey教授講演会

2019.01.11 梶谷真司

ニューヨーク州立大学のRobert Harvey教授をお招きし、”From Hopelessness to Hope: Spaces for Ethics”と題して講演をいただいた。Harvey教授はアメリカにおけるフランス現代思想研究の第一人者で、近著のSharing Common Ground: A Space for Ethicsでは共同性と倫理の問題に注目した研究を展開しておられる。

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講演は希望と絶望が相互依存的に絡み合っているという指摘から始まり、無窮の運動を導く到達不可能な目標としての倫理の問題と合わせて、絶望—倫理—希望の結びつきが描像された。さらにSharing Common Ground: A Space for Ethicsの内容に触れながら、絶対的に絶望的な状況においてなお、絶望から最低限の距離を取ることの重要性が強調され、そのような希望への立ち戻りにつながる距離としての空間の問題が提示された。ここで言う空間(space)とは余白や隙間のことを指しているが、フーコーのヘテロトピア概念とも関係し、嫌悪や無気力を倫理的関係へと変容させていく可能性をはらんだものとして考えられている。講演では、そのような空間を他者と共有しつつ、隙間としての空間を増殖・多様化させていくことで、絶望と希望の密接な関係を保ちながら絶望からの希望の切り離しが達成されるという見解が述べられた。また、講演の後半ではフーコーを中心としたフランスの思想家やエルンスト・ブロッホの著作が言及され、ブロッホの議論に対し、絶望を議論の射程に収め続けることの重要性が改めて提示された。

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質疑応答では、直観をめぐる考察の方法論的な問題の指摘や、絶望と希望をめぐって政治的言説空間をどのように立ち上げるかについての議論がなされた。また、希望に立ち戻れないような絶対的な絶望や自殺の問題に注意が促され、絶望と希望に対する主体の態勢の問題が議論されるなど、活発な意見交換が行われた。

(文責:塚原遊尋)

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