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【報告】第三回東洋医学研究会

2018.08.01 梶谷真司, 中島隆博, 李範根, 佐藤麻貴, 榊原健太郎

第三回東洋医学研究会では、創業123年の株式会社山正の金安常務取締役に講師として来ていただいた。

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金安常務からは、お灸の歴史に始まり、ヨモギがお灸になるまでの製造工程、現在のWHOを中心とした鍼灸の国際化などについて、色々とお話を伺った。お灸の歴史は古く、周王朝時代(日本では縄文、弥生時代)まで遡ることができる。日本には飛鳥時代、6世紀ごろに大陸から渡来したようだ。

1993年に針灸の経絡の国際ガイドラインがWHOで決まって以降、東洋医学からは、鍼灸、アーユルヴェーダ、整体(Osteopathy)など、7種類の伝統医術がTraditional Medicineとして、WHOでは認知され、国際標準ができている。
http://apps.who.int/medicinedocs/en/cl/CL10.1.1.2.1/clmd,50.html#hlCL10_1_1_2_1

また、国際規格ISOでは2009年9月に、ISO/TC249 Traditional chinese medicineとして、規格が制定されている。https://www.iso.org/committee/598435.html

残念なことに、日本では明治維新以降、時の政府によりドイツ医学が重視され、漢方医が軽視されてきた経緯がある。そのため、韓国やインド、タイなどと比較すると、早くに西洋化を進めた分、伝統医療の軽視が進み、伝統医学の普及と研究という観点から見れば、代替医療として伝統医学の見直しを進めた、欧米を含めた諸外国と比較し、発展が遅れている。

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お灸に使うモグサ(艾)はヨモギの葉裏の毛を集めたもの。モグサにも色々な種類があり、精製度合いが高いモグサほど、高級品になり、不純物が取れた分、色が白くなり、点火した時に温度が低く、じっくりとツボにアプローチできる。逆に精製度合いの低いモグサは低級品で、不純物が多く含まれるため色が黒く、点火した時の温度が高い。昔の家庭では、ほとんどが低級品のお灸を使っていたようで、そのため、「いたずらっ子にお灸を据える」という時に、ヤケドのイメージがついたのだそうだ。鍼灸師の唐沢先生によると、ツボにヤケドをさせることによって、ヤケドの治癒のために集まるリンパ液等の流れにより、ツボが刺激されるということもあるだろうとのことだ。

山正では、滋賀県伊吹山に工場を持っているが、そこで生産されるのは、農閑期に新潟県で採取されたヨモギから作られ、最高級品質のものだけということだった(商品名は「金印日本一黄金山」)。近年は、中国でヨモギが採取され、中国で日本の加工技術を使って生産されるモグサが9割方を占めているようだ。モグサの製造は湿度を嫌うため、乾燥している時期が適切。ヨモギは5月上旬から夏にかけて収穫し、乾燥する。モグサ製造は真冬11月から3月にかけての空気が乾燥した時期に行う。これは、農閑期にもあたるため、田植えの合間にヨモギを収穫してもらい、稲収穫後にモグサ製造を手伝ってもらうというサイクルができているらしい。

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お灸実践は乾燥ヨモギからモグサ作り、また、鍼灸師の唐沢先生にお願いし「金印日本一黄金山」を使った「点灸」と、台座灸の体験をした。韓国では、家庭用でヨモギをモグサに粉砕する機械があるそうだが、今回は、金安常務が持参してくださった、すり鉢とすりこ木、ふるいを使って、乾燥したヨモギから実際にモグサを作ってみる体験をした。

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すり鉢とすりこぎで、乾燥ヨモギをすり潰す。モグサは、高級モグサでは、乾燥後のヨモギの重量比で3%が歩留まり率、低級モグサでは重量比15%が歩留まり率であり、大変貴重なものであることが良く分かる。

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すり潰したヨモギを、ふるいにかける作業を、何度か繰り返す。

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完成したモグサは、上記の写真にあるくらいの大きさにして、生姜かニンニクのスライス、あるいは荒塩の上にのせてから(ニンニクや生姜を台座として用いる)、モグサに点火して用いる。

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手前の手の合谷に乗っているのが、点灸。点灸は、近年では、点灸に使えるモグサが高級品になっていることや、いちいち米粒大の灸を作っていかないといけない手間から、鍼灸師でも使う人が少なくなっているらしい。灸をするツボにはまず、紫雲膏という江戸時代末期の名医、華岡青洲が処方した漢方の軟膏を、ヤケド予防のため、またモグサを安定させる粘着剤として肌に塗る。その上に高品質のモグサを米粒大に指先でより、モグサを直接ツボの上に乗せてから、線香で着火する。唐沢先生の手に乗っているのが、現在、一般的に普及している台座灸。点灸の方が、ピリッとした一瞬の刺激があり、台座灸の方がじんわりとした温もりがあった。

今回はワークを中心にした研究会だったが、ヨモギからモグサが作られていく過程を自らが手を動かすことで体験することができた貴重な会だった。ヨモギからモグサを作るという大変手間のかかる作業を通して、健康のために植物から力をもらえるに至るまでの過程を思うと、昔の人々の健康に対する執念に近いものを実感できた。また、農家との繋がり、作業工程など、モグサができるまでの背景に多くの方の手間を経ていることを知った。ここで改めて、株式会社山正の金安常務に感謝の意を表したい。(文責:佐藤麻貴)


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