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梶谷真司 邂逅の記録95 国際哲学オリンピック 2018 in Montenegro, Bar(1)

2018.06.11 梶谷真司

5月23日から27日、第26回国際哲学オリンピック(International Philosophy Olympiad:IPO)が、モンテネグロのバールという町で開催された。IPO史上最多の50か国が参加。イギリス、フランス、台湾、シンガポール、マレーシア、タイの5か国が初の参加であった。哲学の主要国であるイギリスとフランスが初めて来たという意味でも、記念すべき大会となった。

今年から引率する教員として榊原健太郎さん(帝京科学大学)にも加わっていただき、これまで林貴啓さん(立命館大学)を含め、3人のうち2人ずつが順番に参加することにした。二人体制だと、どちらかが何らかの事情(病気や仕事など)で引率できないことが起こりうるので、より安定した運営のために三人体制にした。そこでこれまでサマーキャンプや選考会でも協力してもらっていた友人の榊原さんに入っていただき、彼をIPOのメンバーたちに紹介するのもかねて、今回は私と彼で参加した。

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代表選手となったのは、石川賀之君(広島学院高等学校/United World College Adriatic)と高以良光祐君(麻布高等学校)であった。昨年秋、国内予選を兼ねたエッセイコンテスト「倫理哲学グランプリ」が行われ、1月の選考会を経て、二人が今年の代表に選ばれた。石川君は昨年に続き2回目の出場。高以良君は初出場である。

今年は昨年に比べると、諸事情があって、十分な指導ができなかったが、直前には二人ともそれなりの仕上がりになっていた。あとは前日にモンテネグロの首都ポドゴリツァの空港近くのホテルで直接アドバイスをして、大会に臨んだ。

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会場となったバールに到着した日の夜、オープニングパーティーがあって、翌日エッセイライティングが行われた。

 今年の課題文は以下のとおりである。

①表象は、知覚されたものという仕方で、魂の理知的部分に属している。そして魂は、何かが良いとか悪いとか肯定したり否定したりするとき、それを追いかけたり避けたりする。したがって魂が思考するとき、必ず表象を伴っている。         

     ―――― アリストテレス『デ・アニマ』

②他者の苦しみを思いやる心をもたない人はいない。先帝はそのような思いやりの心をもっていて、慈悲深い統治が行われていた。慈悲深い統治の背後にあるそうした思いやりの心があれば、国を治めるのは、それを掌の上で転がすようにたやすいことだ(孟子の原文では「思いやる(heart sensitive)」も「慈悲深い(compassionate)」も「不忍人(人の不幸を見過ごせない)」)

           ―――― 孟子

③(範囲が広いか狭いかに関わらず)何らかの普遍性をもった共同体が地球上の諸民族の間に広まれば、あるところで権利(法)が侵害されたとき、それはいたるところで感じられるようになる。

―――― イマニュエル・カント『永久平和のために』

④芸術作品は、あるパフォーマンスの中で、あるいはパフォーマンスとして生み出され、そこにおいて鑑賞者はその芸術作品を経験的ないし現実の世界のコンテクストから抽象し、純粋に審美的なものにし、抽象的で活動的な行為にする。そしてそうし

た行為によって、鑑賞者は自己忘却ないし世界忘却の状態になることを求められ、芸術作品の新しい世界へと入っていくのだ。

      ―――― リディア・ゲール「絶対的に音楽的なものの呪いと願い~トリスタンとイゾルデ、およびドン・ジョヴァンニ」

今年の課題文は、全体としてバランスが取れていて、いずれも含蓄のあるものだったように思う。高校生にとっては、どう向き合えばいいのか、なかなか難しかったにちがいない。

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そんななか石川君がメダルを獲得した。日本初のメダルである。高以良君も、ほんのわずかの差で奨励賞を逃したが、ダブルで受賞していても不思議ではないほどであった。二人の才能と努力が実を結んだことを心よりうれしく思う。

メダル獲得は、日本のIPOをずっと率いてこられた北垣先生の悲願でもあった。先生が礎を築き、積み重ねられてこられたことの重みを改めて感じた。

また国際大会への参加をはじめ、倫理哲学グランプリも選考会も、公益財団法人上廣倫理財団の全面的支援によっている。それなくしては今回の快挙もなかった。財団に深謝する次第である。

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