Blog / ブログ

 

【報告】2018年度キックオフシンポジウム「A Place for Alternativity 共生と存在のリアル」

2018.04.27 梶谷真司, 中島隆博, 石原孝二, 内藤久義, 國分功一郎, 佐藤麻貴

2018年4月22日、東京大学駒場キャンパスにおいて、2018年度UTCPのキックオフシンポジウムが開催されました。はじめにセンター長の梶谷真司先生からの挨拶があった後、2つのセッションで発表、講演、ディスカッションが行われました。以下、各セッションの概要について報告いたします。

第1部:障害と共生プロジェクト・こまば当事者カレッジ

第1セッションは、上廣共生哲学寄付研究部門が主催する「障害と共生」プロジェクトからの発表であった。同プロジェクトでは、昨年11月から「こまば当事者カレッジ」という試みを行っており、カレッジ内で行われたイベントの実施状況が報告された。

pic1.JPG


はじめに、同部門の部門長である石原孝二先生から、カレッジの主旨についての説明があり、その後、各企画の概要について時系列に沿ってお話が進められた。カレッジでは、昨年度(2017年11月〜2018年3月)に「2017年度冬期コース・当事者カレッジを作ろう」というタイトルのコースが設置され、同コースのイベントとして11回の企画が開催された。主なイベント内容は、障害に関連する研究や活動を行う外部講師のレクチャーと、それに関連するテーマの討論を行うワークショップから構成される「れくわく」であった。これに加え、東京大学で障害に関連した研究を行う研究室を訪問する「障害研究ツアー」、ピア・サポート活動についての講演会、カレッジ受講者が企画を持ち寄り、それぞれ1時間の持ち時間で発表を行う「受講者企画」などが行われたとの説明があった。カレッジでは参加者に対するアンケートを実施しており、石原先生はアンケートから得られたフィードバック内容にも言及しながら、カレッジの様子を紹介されていた。
また、シンポジウム当日は、実際にカレッジに参加された方々にもご参加いただき、石原先生とオープンディスカッションを行う形式で、カレッジの体験談や感想などが共有された。約1時間半のセッションであったが、後半に向かうにつれて議論が活発になっていき、終了間際まで、カレッジ参加者から様々な観点や立場の意見が出された。またカレッジ参加者と会場との間での質疑応答も交わされた。パイロットコースとして開催された「2017年度冬期コース・当事者カレッジを作ろう」は、まさにコース名の通り、参加者とカレッジスタッフとのコミュニケーションや相互作用を通じて、試行錯誤のなかで組み立てられてきたという。本セッションでは、そうしたプロセスの一場面を垣間見ることができ、非常に興味深い内容であった。 (文責:山田理絵)

第2部:地球と人間の共生

シンポジウムの後半は、総合地球環境学研究所の阿部健一教授に御登壇いただき、「バナキュラーなグローバリズム:地球環境問題の新たな位相」と題した講演を伺った。講演では、阿部先生が生物学を通して、地球環境問題に関心を持たれるようになっていった経緯から始まった。阿部先生がフィールドとされていたのは、ボルネオの熱帯林やスマトラの泥炭湿地林で、そこで生物調査を1980年代にされていた。その頃、湿地林はどんどん開拓されて、ココヤシの単一種プランテーション植林が進められていたことから、地球環境問題は、「地球」の問題ではなく、「人」、強いては「文化」の問題であるという認識を強められていったようだ。

180422_1.jpg

環境問題という、本質的には「文化」の問題であるはずの問題が、「政治」「経済」の場で議論されるようになり、やがて「地域環境」から「地球環境」の問題へと拡張されていく経緯に触れられ、気候変動問題で話題となったSternレポートや生物多様性におけるTEEB報告書において、人間が自然に経済価格という価値をつけることでしか、自然の大切さを認識できなくなっていることを指摘された。
こうした現状に対し、阿部先生の考える解決策としては、自然と人間の二項対立構造をどのように超克できるのか、といったことに思いを馳せる必要があり、それは、人と地球が「対話できるか」ということに係ってくるのではないか?という提言をされた。また、加えて、自然への価値観を転換させるためには、グローバルとローカルの二項対立構造も超克しなくてはならず、そうした観点から、バナキュラーであることが、グローバルに通底するのではないか?という言葉で講演を結ばれた。

180422_2.jpg

これに対し、会場からはいくつかの質問が寄せられた。例えば、自然の美しさのみを強調することへの危険性(美的なものに付加される権威主義的なもの)、地域における対話を強調することによる民主主義の再認識、地域固有の美しさを普遍とどう接続できるのか、個人は地球と本当に対話できるのか、といった質問をベースに活発な議論が展開された。最後に梶谷センター長から、本年度はカブリ数物連携宇宙研究機構を含め、地球研とも引き続き、地球と哲学していくということで、シンポジウムは盛大の内に締めくくられた。(文責:佐藤麻貴)

Recent Entries


  • HOME>
    • ブログ>
      • 【報告】2018年度キックオフシンポジウム「A Place for Alternativity 共生と存在のリアル」
↑ページの先頭へ