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【報告】 PKU-UTokyo Spring Institute 2017 (6)

2017.06.15 中島隆博, 武田将明

2017年3月20日の報告

昨日の日曜日は予定表に"Outing"とあったが、参加者それぞれが思い思いにこれまでのInstituteを振り返りながら、残された北京滞在の充実を期して1日を過ごした。

そして今日からはStudent Presentation が午後のスケジュールを占めていく。その初日、午前中にはまずJunior Scholar Workshopとして、ニューヨーク大学と北京大学からJunior Scholarに準ずるQin Wang氏とWu Ke氏が発表を行った。Qin Wang氏は、丸山真男と子安宣邦、この2人の対照的な理解を共に相対化する視点から、福沢諭吉の『文明論之概略』を再読する試みを強調した。その関心の中心は、福沢の「body身体」のメタファーにある。そのメタファーを追いながら、西洋に対峙し得る文明化された政治体制を日本にもたらそうという福沢の試みを紐解いていく分析は、このInstituteで繰り返し言及される『文明論之概略』というテキストに新たなコードを加えてくれたと言ってよい。

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一方、Wu Ke氏は、20世紀に活躍した米国詩人エズラ・パウンドの、中国古典詩の翻訳を取り上げた。パウンドは陶淵明らの詩を英訳し「Cathay 中国」としてまとめて発表しているが、その中国における評価を追いながら、翻訳という営みを対象化する作業であった。翻訳する側からではなく、翻訳された立場としての自国からその文化翻訳がとったかたちをとらえ返すという試みは、今回のInstituteの厚みを尚一層のものにする意義深いものであった。

やがて迎えた午後のStudent Presentationは、筆者が1番手であった。近代作家である永井荷風を取り上げたが、明治から昭和に及ぶその文芸活動のなかでも、今回は米仏留学からの帰朝直後に焦点を絞り、明治末期の文壇に向けて試みられた西洋的〈詩人 poète〉概念の翻訳を主に紹介するのがその主旨であった。研究室外の人々に向けて自身の研究を紹介すること、そして外国語で日本文学について語ること、二重に未だかつてない機会となったが、自身の研究を言葉にしていく過程で、異分野、そして異言語を念頭に置くことがかくも豊かな経験となることを味わうことができた。

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私に次いで、北京大学の博士課程に在学する3人の発表が続いた。Yaotian Sun氏は”The Formation of Modern World and the Origin of Lu Xun’s Thought”と題し、文明論をめぐる中国内の同時代言説と照らし合わせながら、魯迅の創作を編年的に概観してその思想的源泉の在処を紹介した。 Yalin Luoさんは“Problems of Civilization in Western China: Fan Changjiang, Edger Snow and Chen Xuezhao in 1930s”という表題にも名の上っている3人の人物に焦点を当て、1930年代において中国西部にその外部から向けられた、時に暴力的なまなざしの在り方を示した。Qing Yeさんは”Yan’an Woodcut Practice in Wartime and the Imagination of “Revolution China””というタイトルの下に、版画家Yan’anの作品にみられる〈革命〉の表象を多角的に論じた。構図を具体的に分析していく手つきが印象的で、聴講者同士言葉を交えてその内容を確認し合う姿も見受けられた。

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以上4つのStudent Presentationは”Resistance and Revolution: Anti-Modernity in East Asian Modernity”という総題を冠したものであったことを最後に思い出しておきたい。小説、詩、探訪記、そして版画といったジャンルを横断しながらも、文明の近代の時に狂熱的で暴力的なあり方に抗しようとする表現者たちの姿が鮮明に浮かび上がってきたことが今日の大きな成果であったように思う。明日以降の学生による発表が、この成果の上にどのような展開を見せてくれるのか、残り少ないInstituteの休日明けも熱を帯びた1日となった。

今井一貴(東京大学)

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