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【報告】 PKU-UTokyo Spring Institute 2017 (7)

2017.06.15 中島隆博, 武田将明

2017年3月21日の報告

3月21日、春分もすぎ、十日間にわたる今年度のインスティテュートも終わりに近づいてきた。前日の午後に引き続いて、学生たちはぞれぞれの日頃の研究をもとに、今回のテーマ「文明」について議論してゆく。東京大学・北京大学・オーストラリア国立大学、合わせて8名の参加者が様々な視点を提示し、先生たちからの質疑応答を受け、自由なディスカッションが行われた。

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東京大学のYingzi Zhang氏が行った最初の発表は、福沢諭吉の「文明」理解が『文明論之概略』を境目に起こった大きな展開を、彼の儒教理念に対する変化を手掛かりに考察した。

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続いて東京大学のErin Kitagawara氏は、福沢諭吉の「国体」という概念を出発点とし、それが明治期日本における「理想な国民」イメージとどう関わるのかを分析したうえ、国家政府による西洋的な近代精神医療システムが普及していくようす、日本従来の民間医学療法と生じた衝突を議論した。

三人目の発表者は同じく東京大学のQiuyuan Huang氏で、1900年代から1930年代の東京観光ガイドブックを手掛かりに、江戸時代の「名所図会」からの重要な転換を指摘し、それらは単なる外国人や観光客向けの指南でなく、当時の「文明」像と国家イメージの表れであることを示した。

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午前最後の発表は北京大学からのNicola Angeli氏、西太后と中国初の「火車」(鉄道列車)との逸話を皮切りに、20世紀中国において「文明」の象徴ともいえる列車が、魯迅・張恨水・老舎などの作品においてどのように表現され、その中から読み取れる中国の「近代」を分析した。

午前中の発表が主に20世紀前半の日本と中国をふりかえったのに対し、午後のセクションは戦後・ポストモダン、そしてグローバリゼーションの時代をテーマとした。

初めは東京大学のFelix E. Borthwick氏による日本の団地研究である。国家と市民の関係、戦後日本の都市建設、その中に見られる近代の理想な都市生活像を、国立市富士見台団地をとりあげたケーススタディを通して説明した。

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その次に、北京大学からの参加者Yue Pu氏が、現代エンタテインメント文化にみられる世界的な「吸血鬼」ブームをテーマに、異質な他者としての「吸血鬼」と、現代の大衆心理・資本主義の消費文化との関係を分析した。

三人目の発表者は東京大学のDan Shao氏であり、村上春樹のアメリカ文学翻訳と、彼自身の文学作品とのあいだに存在するつながりを指摘し、翻訳のもつ創造性、それ自体が独立した体系とアイデンティティを有するものであるということを明らかにした。

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最後の発表を担当したのはオーストラリア国立大学からのQing Guan氏。社会学を専攻としている彼女は、オーストラリアに移住した中国人コミュニティーを具体例とし、調査結果および豊富なデータの分析を行い、母国の文化と移住先の新生活とのあいだを、移民たちがどのように対処したのかを紹介した。

学生発表が全て終了したのち、北京大学の張旭東先生が締め括りのメッセージを参加者全員に送った。日本・中国・オーストラリアから集まり、「文明」という現代において依然と緊迫な課題を、異なる分野から様々な視点で議論できたことの意義を懇切に語り、この日の活動の幕を閉じた。

張瀛子(東京大学)

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