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【報告】宇宙と思想をデザインする

2016.12.22 梶谷真司, 八幡さくら, 李範根, 堀越耀介

2016年11月20日(日)に駒場キャンパスKOMCEE West 303において〈哲学×デザイン〉プロジェクト第三弾としてのイベント「宇宙と思想をデザインする」が開催された。

このイベントは、宇宙と思想がどちらも無限と超越に接し、そこから未知の〈外部〉へつながる道が通じていることから、両者の交差点に生と知の新たな可能性を見出そうという意図のもとに企画された。

当日は教室内の椅子を不規則に並べ、スライドを教室の前後の壁に映しておいた。教室に入ってきた参加者は、どちらが前か後ろかわからず少し戸惑いながら、思い思いの位置に席を取った。参加者にとっては、発表者が誰なのか、どこにいるのかもわからない状態から会が始められた。発表者が立ち上がって話し始めるごとに、参加者は驚きつつもその状況を楽しんでいるようだった。

スピーカーは6名であり、宇宙と思想に関する幅広い研究についての発表が行われた。まず梶谷真司氏(UTCP)がイベント開催の経緯を説明した。梶谷氏によれば、本日の講演者達は「宇宙図」を作る活動に参加した人々が多い。宇宙図とは、宇宙に対して興味を深める機会を多くの人々に提供すると同時に、宇宙の新しい楽しみ方を広く提案することを目的として作られたポスターである。このポスターには、人間と宇宙の関わりや、身の回りにあふれる物質の起源、宇宙の歴史やその構造など、誰もが一度は気になる宇宙の謎について、最新の天文学の成果を盛り込み、視覚的に分かるように作られている(http://www.nao.ac.jp/study/uchuzu/index.html)。みんなでどういう場を作っていくかが哲学対話の役割であるならば、宇宙についての知識を一般の人々に開いていく活動も、哲学と同様の場を作るという役割を担っていると言える。

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最初のスピーカーである美術家の小阪淳氏が「宇宙にダメ出し!」と題して、これまでの宇宙図のわかりにくさを指摘し、宇宙図とは「いかに宇宙がわからないかを思い知る図」なのだと説明した。小阪氏は宇宙図だけでなく、宇宙の時間や空間を知るための新しい道具を開発している。小阪氏は宇宙そのものにもダメ出しし、あらゆる宇宙への問いは「なぜ宇宙はあるのか?」に行きつくのだと述べた。真・善・美の三つの観念を考えてみると、宇宙図が真に関わるならば、職能は美に、風刺画は善に関わる。小阪氏の経験によれば、真・善・美は偽・悪・醜と交換可能なものであり、このことも踏まえて今デザインを考え直す時期に来ているのだと指摘した。

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次にクリエイティブディレクター/コピーライターの片桐暁氏が「「巻き込まれる」という生き方~コピーライターの仕事をデザインする~」と題して発表を行った。片桐氏は、コピーライターの仕事を巻き込まれる仕方で仕事をする、「素人であることのプロ(素人のプロ)」だと言う。片桐氏は、この巻き込まれるということに面白さや楽しさといったポジティブな側面を見出す。巻き込まれるということを片桐氏は次のように整理する。(1)ある問題に自分が巻き込まれ、(2)それからその問題が自分事になり、(3)さらに不特定多数が巻き込まれるようになる。そしてこの(3)が(1)へとフィードバックされループする。このサイクルはコピーライターだけの仕事ではなく、誰もが実践できるサイクルであり、これを「デザイン」であると片桐氏は結論した。

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続く天文学者の高梨直紘氏(東京大学)は、「思想とデザインを宇宙する」と題して、自身が代表を務める天文学普及プロジェクト「天プラ」での企画イベントや研究を紹介しながら、「宇宙する」という動詞表現を提案した。高梨氏は、天文学を社会の中でどのようにデザインしていくかに興味があり、宇宙について興味を持っている子どもや大人を対象にイベントを行うことで、自身の宇宙に対する知識や経験が再整理されるという経験をしてきたと述べた。高梨氏によれば、「宇宙する」とは「宇宙を意識して価値の体系を編み直すこと」である。この意味で、思想とデザインは「宇宙できる」。私達一人一人にとって「宇宙する」という言葉の意味があるはずだと、高梨氏は発表を締めくくった。

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哲学徒の堀越耀介氏(早稲田大学)は「「○○×哲学」のデザインと実践」と題して発表を行った。堀越氏は、宇宙に対する科学的探究と哲学的探究は、ともに問うという点で同じであることを指摘する。そして、どうやって哲学的な探究を実践していくかを考え、その試みの一つとして開催した、東京工芸大学と上智大学メディア・ジャーナリズム研究所の共催シンポジウム「写真×哲学」を紹介した。堀越氏は、このイベントを哲学のデザインの一環と位置づけ、哲学とアートのコラボレーションの可能性を見出した。さらに、堀越氏は哲学の実践として彼自身が行っている公立学校での哲学対話について説明した。学校の考え方そのものを変え、クラスの様々な生徒を包括する哲学対話の可能性を、堀越氏は強調した。他にも、「ビジネス×哲学」や「ケア×哲学」など、様々な領域に哲学対話が応用しうると堀越氏は結論した。

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哲学徒の今井祐里氏(上智大学)は「「哲学する場」をデザインする」というタイトルで、大学の研究やアカデミズムにとらわれない形で、様々な人々に哲学を解放することはできないかと問題提起した。今井氏は、哲学プラクティスの広がりによって哲学専門以外の人も哲学することができるようになると主張し、自由な学びの場を作るためにネットワークを繋ぐ役割を果たす案内人としての哲学者のあり方を提案した。そして、大学の研究ではなく、身近なことを身の周りの言葉を使って考えることが哲学なのだと今井氏は述べ、ラジオでの発信やSNSを作る計画など自身の哲学の実践活動を紹介した。さらに今後は哲学カフェや対話だけでなく、あえて哲学と言わなくとも様々な人がアクセスできるじっくり考える場をデザインしたいと抱負を述べた。

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最後に哲学者の吉田幸司氏(東京大学)は「プロセス哲学の実践と哲学協創の試み」と題して、書籍以外の哲学の発信方法の可能性について発表した。吉田氏は自身の実践として、哲学の総合的情報サイト「哲学舎」や哲学年表を相互影響関係に基づいてまとめた「哲学の時空間マップ」などを紹介し、時空間を視覚化することが地理的な遠近や自身の研究分野の位置づけに役立つと説明した。吉田氏はさらなる本質的な哲学のスタイルの変革を考えている。その一つに、分析的・批判的・鑑賞的な哲学ではなく、「協創的・建設的・創造的・思弁的・ロマンチック」に哲学する「哲学協創」を挙げる。その新たな方法として、「○○×哲学」という仕方で写真や映像、落語など、異分野の人々と哲学し、創造する試みを行っている。吉田氏はこれらの活動の背景には自身の研究対象である、各々の存在者が主体として生成し、他なる存在者と相互に影響し合いながら、宇宙を形成していくプロセスを記述するホワイトヘッドのプロセス哲学があると言う。この考えに基づけば、あらゆる存在者が宇宙をデザインしている。吉田氏はアメリカの哲学プラクティスの例を挙げながら、「哲学すること」のもっと多様なあり方を提案した。

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6人の発表の後、休憩をはさんで参加者とディスカッションを行った。参加者からはデザイナーやアーティストの創造性について意見が出たが、とくに人間が作っていく世界がインターネットやAIによって予測されうるようになるのではないかと、ある参加者が述べたことによって、AIに対する恐怖やそれがもたらす未来についての議論が進んだ。

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哲学対話の問いは人間にしかできないのかという質問に対して、梶谷氏はいずれAIも対話ができるようになりうるだろうが、コンピューターが考えるから人間が考えることを止めてもいいのかどうかは問題であり、自分が考えるからこそ意味があるのではないか、と問題提起した。また、小阪氏は、AIに仕事が奪われることにデザイナーは恐怖を感じているが、ビジネスということによるのではない人生の在り方を提案した。小阪氏によれば、デザイナーは手法でデザインをこなしている場合が多く、「デザインは思想である」という考えが弱体化している現状に対する危機感を述べた。それを受けて梶谷氏は、社会が何に価値を認めるか変わるということ、産業構造の中である事柄を価値づけることを「デザイン」と呼ぶなら、デザインそのものの意味も変わってくるのではないかと述べた。吉田氏は対話における哲学は身体経験を伴った行為することであり、協創することだと強調した。最後に小阪氏は、「デザインする」と「哲学する」という言葉が実感を伴って協働していくことが必要だと訴え、現状において産業の歯車になってしまっているデザインに警鐘を鳴らした。本イベントには様々な立場や職業についている人々が集い、宇宙と思想に関して活発な議論が行われた。今回のイベントでデザインと思想の両方に共通する問題意識が確認でき、今後さらに社会の中でどのように両者を価値づけていくかを私たちは考えていく必要があるだろう。

文責:八幡さくら(UTCP)

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