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【報告】国際力動的心理療法学会(IADP)第22回年次大会(第4日目)

2016.12.08 梶谷真司, 中島隆博, 石井剛, 筒井晴香, 石渡崇文

年次大会4日目、午前の大会プログラムは「事例スーパーヴィジョン」であった。心理療法におけるスーパーヴィジョンとは、セラピストがその心理療法事例をより効果的に実施するために自分の視野を超えた視野(super-vision)を得るために行われるものである。当日は6つのスーパーヴィジョンセッションが実施された。

私は、学会のゲストファカルティである吉松和哉先生のセッションにて、事例を発表し、スーパーヴィジョンを受けた。事例内容については、患者の守秘性の確保のためここに記すことは省略する。事例を発表する中で、私が強調した所や重視した所とは別の、私の視野では重視しなかった場面や情報で吉松先生は止まられ、これはどういうことかと私に質問をされることが何度もあった。それは、患者—私の視野−吉松先生の視野、の三点測量を繰り返し行いながら、患者に何が起きているかの真実に近づいていくプロセスである。時々、私が患者に対して発した言葉に対し、たびたび厳しいコメントがなされることもあったが、私も発言の意図をはっきりと示すことで意味の検討がより深まった。スーパーヴィジョンをより生産的するためには、真実性、つまり率直であることが必須であり、吉松先生はこの真実性を非常に重視される臨床家である。スーパーヴィジョンにおいて何度もこの真実性が突きつけられ、私は事例における自身の体験を率直に語ることに取り組んだ。「君は以前の大会でスーパーヴィジョンした時よりも今回素直だったね」という最後のコメントは、吉松先生との協働できたことを実感させるものであった。患者の診断に関する議論とそれに伴った治療的介入の議論がなされ、私は新たな視点を増やして患者に会うことが可能となった。

学会の最終プログラムは「全体ケースセミナー」であった。この全体ケースセミナーは、一人の発表者の事例について、参加者全員でスーパーヴィジョンをするというものであり、IADP年次大会のハイライトであり、もっともIADPらしいプログラムである。参加者は4日間で学んだ知識・態度・技術をフルに使い、発表者の事例を前に進めるために必要な手助けをすることが求められる。こちらについても事例内容については、患者の守秘性の確保のためここに記すことは省略する。一人ひとりの参加者がそれぞれの視点からの事例理解を組み立て、浮かび上がった疑問を解決していく中で、セラピストと患者の間に起きていることの意味がよりクリアになった。心の中に人がいない状態にあった患者が、セラピストとのやり取りを通じて、心に人がいるということを体験するようになってきている変化とここから治療を先に進めるために何に取り組む必要があるかということについて議論が深まっていった。

一対一、集団における対話を通じて心の治療や成長に取り組む力動的心理療法において、対話は、相手を説得したり、従わせたり、勝敗をつけたりするためにあるのではなく、相手をより理解し相手の心の中にある真実(それが時に心の傷であったりもする)に近づくためにある。そのため心理療法家の対話には、そういう見方もある、こういう見方もあると多様性を認めるだけでなく、それらを起点にその先にある心の真実を探求する営みが加わる。心理療法家の目指す共生(共に生きる)はこうした営みである。対話においてなにより心理療法家の側が自分の心の真実に対して率直であることが求められる。「危機介入-心理療法と中国哲学」という今大会のテーマにおいて、人の心の危機、人生の危機に触れるたびに、何度もこのことが自分に突きつけられる体験をした。臨床家であるためにはこの厳しさを避けて通ることができない。私はIADPに参加するようになり10年が経ったが、まだまだ厳しい時間だがこの厳しさが自身の心理療法家としての成長に役立つことを感じられるようになってきた。

今回、当学会とUTCPの共催により第22回年次大会を開催するにあたって、UTCPの皆様の多大なご尽力があった。大会副会長を勤めてくださった中島隆博先生にはその豊富な知識と鋭い切り口から多くを学ばせていただいた。特に心理療法において必要とされる「渾沌」についての理解が深まったことに深謝を伝えたい。梶谷真司先生には4日間、事務局運営も含めて、積極的にプログラムに参加いただき、コメントいただいた。会場の手配やゲストの招聘などの事前の準備においては、UTCPの伊野恭子氏、八幡さくら氏、川村覚文先生の多大なるご尽力があった。また当日、会場の準備にあたってはUTCPの金氏、佐藤氏、李氏、筒井氏、石渡氏の細やかなご協力があった。年次大会の運営の責任者として、皆様のご尽力があったからこそ今回の大会が開催できたことに、協働の喜びと感謝に堪えない。改めてこの場を借りてお礼申し上げる次第である。

文責:花井 俊紀(第22回年次大会事務局長/PAS心理教育研究所)

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