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【報告】デザインと哲学の邂逅

2016.11.21 梶谷真司, 八幡さくら, 李範根

2016年10月22日(土)KOMCEE West 303教室においてL3イベント「デザインと哲学の邂逅」が行われた。

普段のイベントとは異なり、やって来た参加者に椅子を一つずつ持ってもらい、思い思いの場所に座ってもらった。講演者の名古屋芸術大学の水内智英氏と梶谷真司氏(東京大学)を囲み、約20名の参加者が集った。参加者はデザイン関係の仕事についている人や大学生など様々な立場や年齢の人々であった。

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まず梶谷氏が導入としてこのイベント開催に至る経緯を説明した。哲学は知識ではなく活動であり、「問い、考え、語る」ことだと梶谷氏は定義する。梶谷氏によれば、思考としての対話は、一人ではなく、他者と共に行う共同作業である。対話は年齢や学歴、障害などに関係なく、様々な人々が一緒に話し合う場を作ることができる。このことがデザインと対話は似ていると梶谷氏が感じた理由だ。デザインが様々な世界において仕事を得て社会的な地位を獲得しているように、哲学もそのような地位を獲得することができないだろうかと梶谷氏は参加者に問いかけた。

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続いて水内氏が「デザインに哲学は必要か?」というテーマで発表を行った。水内氏も梶谷氏と同じく哲学とデザインの共通性を感じ、デザインにおいてももっと考え、哲学しても良いのではないかと主張した。水内氏は文化と産業の違いについて近代デザインの歴史を取り上げながら、デザインとは何かについて話を進めた。

ディスカッションは、発表者の発言に対して参加者が好きな時に自由に質問し、意見を言うという形式をとった。発表者を囲んではいるが、参加者全員が質問者であり、かつ発表者であるかのような不思議な感覚に陥った。発表者の発言に対してなんらかの疑問を感じた人が反応して発言すると、別の人がそれに対して答えたり、意見を言ったりする場面が何度も繰り返された。

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水内氏は近代デザインの父とされるW・モリスの「自分たちの生活環境をよりあるべき姿に変革していくという理念」を取り上げ、近代のテーゼは「誰もが等しく健康で豊かに幸福に生活する権利がある」ということだったと指摘する。水内氏によれば、現在教えている大学でもデザインを学ぶ学生たちの多くは、生活を便利にしたい、豊かにしたいという希望を持っている。そのように学生に対してデザイン教育を行っているわけだが、しかし、なぜいいものを作ろうとするのか?このテーゼが正しいなら、「デザインをするには、等しさとは何か?豊かさとは何か?幸福とは何か?を問わなければならない」と水内には主張した。それに対し、参加者から「なぜ等しさを問うのか」と質問が出た。それに対し、梶谷氏は、資本主義社会の中でお金を出せば何でもできるということになってしまえば、金持ちしか欲しいものを得られなくなってしまう。格差はどんなものを作るにしても付きまとう問題だが、安いものを買う人には何も豊かさが必要ないと考えるのは問題がある。できるだけ多くの人が豊かさを享受するということが求められているのであり、デザインはその意味で平等ということに関わるのだ、と梶谷氏は述べた。さらに参加者から、人間としての最低レベルの生活空間を作り、標準的なものをより多くの人に享受することがデザインではないかという意見が出て、デザインの定義について様々な議論が行われた。ある参加者からは、「哲学はまず問いがあって考え語るなら、デザインも問いがあって考え表現する。その意味では哲学と同じ。語るということも表現だと考えればデザインだ」という意見が述べられた。水内氏はそれに対し、「何をするのがデザイナーか」ということがいま問われてきており、デザイナーという職業も開かれてきているのではないかという意見を述べた。梶谷氏によれば、何をどう呼ぶかはかなり重要な問題であり、名づけ方が変わると考えが変わる、名づけの変化によりデザインの見方が変化する可能性がある。水内氏によれば、デザインはただクライアントの要望に応えるだけではなく、そこに批判精神を含んでいることが必要である。この意見に対し、参加者からは職業としてのデザイナーが否応なく産業に巻き込まれ、クライアントの要望や消費者の評価にさらされる現実が指摘された。またアートとデザインの違い、哲学とデザインの異同について活発な議論が行われた。

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その後のディスカッションでも、デザイナーとして働く参加者やデザインを学ぶ学生から、次々に自身の体験に基づく様々な疑問や意見が述べられた。ディスカッションの中で、水内氏は自身の勤める大学で行っているデザインプロジェクト「土と人のデザインプロジェクト―ゼロから晩餐会デザインする―」を紹介した。このプロジェクトは、学生が地域の食材や資材などを調査し、それらを使って、地域の人とともに晩餐会を開くというものである。このプロジェクトを通して学生は大学周辺の地域を知り、住民と交流を深めていく。さらにその晩餐会の準備から当日までの様子を映像としてまとめ、その映像を作ることもプロジェクトの一部になっていった。デザインやものづくりの技術を生かした学生主体のこのプロジェクトは、地域におけるコミュニティ・デザインの成功例の一つとして挙げられるだろう。水内氏によれば、学生の中にはこのプロジェクトを通して学んだ経験から、地域づくりやホテル業などに就職する者も出てくるなど、学生の就職にも大きく影響するようになっている。人と人とを繋ぐ多様なデザインはまだまだ大きな可能性を秘めている。哲学もデザインと同様に、そしてデザインとともに、さらなる人と人を繋ぐ場を作ることができると感じた会であった。

文責:八幡さくら(UTCP)

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