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【報告】Journalistic media as а modeling instance of reality

2016.10.06 川村覚文, 八幡さくら, 筒井晴香, 石渡崇文

ブルガリア、ソフィア大学の博士課程1年生であるビストラ・ヴェリチコーヴァ(Bistra Velichkova)氏は”Journalistic Media as a Modeling Instance of Reality(現実のモデル化審級としての情報メディア)”という題で発表を行った。

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情報メディアの機能は三つある。第一は社会における出来事や課題を伝えることであり、第二は現実を反映すること、そして第三は出来事や課題についての考え方を形成することである。つまり情報メディアは社会のあり方についての人々の考え方を左右する機能を持つ。メディアは情報を操作することによってしばしば、人々が何を考え、何を恐れるかを決定してしまう。この現象を説明するための枠組みとして、ヴェリチコーヴァ氏は「モデル理論(Model theory)」を取りあげた。モデル理論とは物や出来事を単純化された型(model)に基づいて説明する方法で、原子構造や細胞のモデルなどがよく知られている。ヴェリチコーヴァ氏が扱ったのは数学者ベルント・マール(Bernd Mahr)がOn the Epistemology of Models(2011)で提唱した理論で、これはモデルが形成される事態を「モデル化審級(modeling instance)」として定義し、その構造を把握することを目的としている。

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ヴェリチコーヴァ氏はこのモデル理論をブルガリアの情報メディアに適用し、メディアは現実のモデル化審級とみなすことができると述べた。ヴェリチコーヴァ氏が取りあげた事例はベルリンの壁崩壊後、共産主義から民主主義への移行期にあった1990年のブルガリアで初めて実施された、民主的議会選挙についての報道である。現在でもブルガリア最大手の新聞デュマ(Duma)は共産党時代の新聞を引き継いだものだが、ブルガリア社会党を「高潔」と表現し、選挙後は社会党の勝利を「新しいブルガリア社会の始まり」として祝った。これに対し民主党寄りの新聞デモクラティア(Demokracia)は社会党が敵対的態度を取ったなど、デュマと正反対の調子で報道を行い、選挙後は「不公平な選挙」として結果の正当性に疑問を呈した。どちらの新聞も虚偽の報道をしたわけではない。しかし二つの新聞はまるで正反対の部分に報道の焦点を当てていた。以上のように分析しつつ、ヴェリチコーヴァ氏は、情報メディアは現実のモデルを生み出す働きをしている、と結論づけられた。

この後の質疑応答では様々な議論がなされた。ヴェリチコーヴァ氏の、実証的研究と理論を組み合わせるという意欲的な研究の発展に、これから期待したい。

文責:石渡崇文(UTCP/東京大学大学院)

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