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梶谷真司「邂逅の記録83:ラーニングフルエイジング~地域社会における多世代交流と教育の役割(2)」

2016.04.08 梶谷真司, 八幡さくら, 阿部ふく子, 安部高太朗, Philosophy for Everyone

続いて、宮嵜麻由香さんは、「私の住む地域の宝物探し」と題し、五ヶ瀬という地域にどんな価値があり、それに対して自分がどう関わってきて、またこれからどのように関わるつもりかについて話してくれた。

続いて、宮嵜麻由香さんは、「私の住む地域の宝物探し」と題し、五ヶ瀬という地域にどんな価値があり、それに対して自分がどう関わってきて、またこれからどのように関わるつもりかについて話してくれた。その報告をする前に学校について改めて説明しておこう。五ヶ瀬中等教育学校は、1994年に全国初の公立中高一貫校として設立された。共学で1学年40名、全寮制の学校である。前期課程(中等部)と後期課程(高等部)に分け、後期はさらに2クラスに分けて授業を行っている。2014年からSGHに指定され、2015年にはモデル校となって全国から見学に来ているという。地域との交流は、焼き畑農法、シイタケ栽培、釜炒り茶など、地元の特産品づくりに関わったり、農作業やわらじ作りを行うといったことで、また地域の家庭にホームステイする機会もある。こうしたことが特別な行事ではなく、通常のカリキュラムとして組み込まれているのが特徴である。


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宮嵜さんが講演でまず言ったのは、地元のお年寄りが大好きで、彼らのところへ行って話をするのが「趣味」だということ、そしてそこでたくさんの大事なことを学んだということだ。彼女は五ヶ瀬町を「おかえりなさい」のある町、「笑顔」あふれる町、「支え合う」町と呼ぶ。それは初対面の人にも親しく話しかけてくれる開放性と、地区ごとの結束が強く支え合っている連帯性を意味する。そうした地域との交流で学んだのは、第一に自然と共生する術。それは、自然を大切にしながら生活する営みであり、山と人の両方にとってためになる生き方を、縄文時代から連綿と続けてきた。第二がコミュニケーション能力で、地元のお年寄りたちはとにかくたくさん話し、たくさん笑う。そうした中で語られる何気ない世間話が、彼らが共に生きていくうえできわめて重要だという。彼らから学んだ三つめは、これからの日本に何が必要かである。それは、高齢者目線の未来の日本であり、それは若い人にとっては、新鮮で学ぶことがたくさんあって、そこから若者にとっての未来も見えてくるということだった。


こうした学びと共にある五ヶ瀬や高千穂地域の暮らしが、世界農業遺産の申請につながった。宮嵜さんは、2014年の国内候補地選考から関わり、2015年5月には、国連食糧農業機関(FAO)による現地調査の際に発表を行い、視察に来た調査員に注目され、12月にローマでプレゼンをすることになった。英語が苦手だった宮嵜さんは、田阪さんの協力も得て特訓をし、当日は話し終わった後、審査員からは大好評だったそうだ。


最後に宮嵜さんは、若者の悩みとして、将来への不安、とりわけ仕事、そのために必要な力を挙げ、そこで必要なのは、大人の存在、地域の魅力、地元にある仕事だと訴えた。そして彼女自身は、自分の将来の構想として、「若者×お年寄りの教育プラン」を掲げ、それが「自然・未来・地域・想像(創造)を学ぶ教育」、「若者とお年寄りが共に学ぶ環境」、「学校と地域の連携」によって可能になるという展望を述べた。彼女が話し終わると、ここでも大きな拍手喝采が起こった。


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講演後の質疑応答は、同様の問題意識を持っている人たちが多く来ていたようで、非常に活発であった。今日、都市でも集合住宅が高齢化、過疎化している。そうした状況において、都市と地方の違いはどこにあるのか、また地方では、過疎化はしても、五ヶ瀬のように地域での結びつきは強いが、そこで得られる知見は、地域の結びつきが弱い都市でどのように生かせるのか、といった質問が出た。


また、宮嵜さんの将来設計がしっかりしていることから、五ヶ瀬の生徒たちの進路にも関心が集まった。彼女によれば、五ヶ瀬の生徒たちは、自分で課題を見つけ、そのために何をするかを考え、そのために学んできているので、「○○大学へ行きたい」というありがちな進路選択ではなく、将来どんな仕事をしたいか、そのためにどこで学ぶのがいいか、という考え方をするのだという。


ここで思い出されるのは、東京大学教育学研究科の本田由紀さんが『教育の職業的意義』(ちくま新書)で書いていることである。彼女は、今日までの日本の教育について、卒業後の職業に必要なことはほとんど教えず、子どもたちをまったく無防備なまま社会に放り出しているとして批判している。それに対して、五ヶ瀬では、将来なすべき仕事を自らの課題と結びつけながら見つける力を育てており、その点でも注目されていい。しかもこうした教育が地域との間で行われているのは、都市での生き方にとって大きな示唆になるだろう。都市は、地方のように地域での結びつきは弱いが、住んでいる人の職業も境遇もきわめて多様で、行動圏が広いので、テーマを明確にすると、広い範囲で人の結びつきを作ることも可能である。そこからさまざまな立場や世代の人たちが共に学び、共に生きる方策を見つけることもできるのではないだろうか。


講演と質疑応答の後は、いったん休憩を取り、当初は予定していなかったが、田阪さんと宮嵜さんの希望もあって哲学対話を行った。今回は、テーマと講演会という形式だったせいか、哲学対話を知っている人はほとんどいなかったので、1時間ほど体験版として行った。まず問い出しをしたところ、「都市における地域とは?」「この地域だから学べることは?」「若い人を対話に誘い込む方法は?」「対話するのはどんな時か?」「自分が住んでいるところでやっていきたいことは?」などの問いが出た。最終的には投票で選ばれた「若い人が将来役に立つ学びとは何か」で30分ほど対話を行った。講演の後だけあって、最初からかなり突っ込んだ話し合いができ、こちらとしても来場者としても、大いに考える機会となった。


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報告:梶谷真司

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