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梶谷真司「邂逅の記録82:ラーニングフルエイジング~地域社会における多世代交流と教育の役割(1)」

2016.04.02 梶谷真司, 八幡さくら, 阿部ふく子, 安部高太朗, Philosophy for Everyone

3月20日(日)、「ラーニングフルエイジング――超高齢社会における学びの可能性」の第2回目のイベントとして、「地域社会における多世代交流と教育の役割」というテーマで講演会を開催した。

今回来ていただいたのは、宮崎のNPO法人グローカルアカデミーの代表の田阪真之介さんと、宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校6年生(高校3年生に相当)の宮嵜麻由香さんである。田阪さんはもともとJICAの青年海外協力隊で中南米に行き、帰国してベネッセで勤務した後、故郷の宮崎でNPOを立ち上げ、教育支援とグローバル化に奮闘しておられる。1年の4分の1は海外出張をしながら宮崎で働いていて、彼自身がグローカルを体現しているような人である。宮嵜さんは、昨年高千穂郷・椎山地域が世界農業遺産登録に申請した際、プレゼンターの一人として大活躍し、認定に貢献した高校生である。


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田阪さんと初めてお会いしたのは、まだ彼がベネッセに勤めておられたころで、私が阿蘇で哲学対話を一緒にしていた農家の大津愛梨さんから2013年の12月に熊本空港で紹介されたときだった。それから一か月ほどたった年明けの一月末、大津さんが全国の農家女性のネットワークの会合を駒場で開き、そこに田阪さんは、東大のPEAK(英語教育プログラム)の学生を研修で阿蘇に連れていく企画の説明のために一緒に来ていた。そのあと3人で食事をして渋谷へ向かう道すがら、哲学対話のことを田阪さんにお話ししたところ、すぐに興味を示してくださった。その間わずか十数分。彼自身は哲学対話を体験したこともないまま、五ヶ瀬中等教育学校に紹介し、学校はSGH(スーパーグローバルハイスクール)の申請書にUTCPと哲学対話を盛り込んだ。


何という急展開だろうか。それで五ヶ瀬がSGHに採択され、その年の9月から文科省にも公式に認められたカリキュラムの一部として、哲学対話の授業を行うことになった。以来、私は院生数人をアシスタントとして連れて毎年五ヶ瀬に行っている。その間に田阪さんは、宮崎に戻ってグローカルアカデミーを立ち上げており、行くたびに現地でお会いし、彼自身も哲学対話に参加している。現地での授業は年1回だけだが、学校のほうではそれを普段でも活用し、今では折に触れいろんな話し合いの場面で、哲学対話を行う文化が定着しつつあるという。


今回田阪さんと宮嵜さんをラーニングフルエイジングのプロジェクトでお呼びすることにしたのは、彼らがまさに教育を通して、地域とつながった多世代の交流をしているからだ。五ヶ瀬町というのは山間部の町で、他の多くのそうした地域と同様、高齢化と過疎化が進行するところでもあるが、20年前に公立の中高一貫校ができたことで、若い世代とのつながりが継続的にできているところでもある。言わば、教育によって地域おこしをしている稀有な場所である。そこで田阪さんの活動や、五ヶ瀬中等教育学校の取り組みから、地域で様々な世代が関わってお互いに学び合う場をどのように作れるのかということについて、多くの示唆が得られるのではないかと考えた次第である。


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(五ヶ瀬中等教育学校の校舎)


さて講演会は、まず田阪さんのほうから「地域を起点に世界とつながる教育の活動報告」題してお話しいただいた。彼の活動のモットーは、「宮崎を起点に世界とつながる「教育」と「事業」を創る」である。そしてグロールであるために海外に出るのではなく(海外にも行くのだが)、むしろ海外から宮崎というローカルなところに来てもらおう、そのために外国人も地域の人も共に刺激を受け、学び合える関係を構築しようとしている。


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田阪さんによると、地方では、地域と学校を結ぶコーディネーターが少ないそうだ。田阪さんはその役割を果たすべく、NPOを立ち上げたわけである。そういう意味で、地方のみならず、日本各地において、彼のような人材こそが求められていると言えよう。そこで彼は、たとえば、地元の商店街のPRのために高校生向けにビジネスプランコンテストを開催している。そのさい大事なのはコンテストじたいではない。フィールドワークやヒヤリングととおして、地域の子どもたちが地域の課題に気づく、地元の人たちとのつながりを作ることにこそ意義がある。また、五ヶ瀬中等教育学校では、ケンブリッジやオックスフォードの大学生、東大のPEAK生のために南九州へのスタディツアーを企画し、五ヶ瀬の生徒たちとも交流の機会を作っている。こうして彼は宮崎の山間部にいる若い人たちが世界とつながり、様々な最先端に触れられるように尽力している。


そのさい田阪さんが留意しているのは、普段出会わないが、テーマを共有できる人と交流すること、また海外から呼ぶ場合は、たんに英語ができる学生ではなく、日本のことを研究している学生、日本の地方に興味のある学生に選んできてもらうこと、だそうである。そうすることで、表面的な関係にとどまらない、互いに学び合う深い関係を結ぶことができるのである。


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田阪さんが心がけているのは、顧客(主に高校生)が日頃で会わない人たちと対話する機会と場を作ること、コーディネーターとして、地域や学校と外部(異質な他者)の接点を作ることで、開かれたコミュニティを作るである。そしてもう一つ大事な点として挙げられたのが、予定調和にしないという点である。これは、今までの枠組みを超えた発想がなければ、未来につながるような新しい試みは生まれないということである。

(続く)

報告:梶谷真司

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