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梶谷真司「邂逅の記録81:ラーニングフルエイジング~生涯学び続ける場を作る(2)」

2016.01.25 梶谷真司, Philosophy for Everyone

今回の企画は、百草ふれあいサロンの人たちに自分たちの活動について話していただき、それを森玲奈さんのプロジェクトのなかに位置づけるものだった。そこでサロンの運営の中核を担ってきた丸山朋子さん、山口あつ子さん、福田照子さんの3人にお越しいただくことになった。またファシリテーターとして協力していただいている哲学対話のNPO法人アーダコーダの井尻貴子さんも来ていただいた。

当日はまず、サロンの方たちにお話しいただいた。このサロンは、普段は月曜日から金曜日の午前11時から午後4時まで開いていて、一緒にご飯を食べたり、おしゃべりをしたりする、ごくごく日常的な集まりの場である。もともとは日野市の高齢者見守り支援ネットワークの活動として2008年に始まった。その後、健康づくり、子どもの通学の見守り、特別支援学校の実習の受け入れなどの活動を行ってきた。すでにこうした経験を積んできただけあって、このサロンは、普段から非常にうまく運営されているように見えた。もちろんこれまでも、また今でも、いろいろ問題やトラブルはあるだろう。けれども、それとて、話し合って解決していく土壌がしっかりとできていて、とにかくメンバー、とりわけ丸山さんのような運営の中心にいる人たちが、うまく協力し合ってやっていて、他のメンバーたちも、彼女たちに全幅の信頼を寄せているようだった。

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とはいえ、サロンは基本的には高齢者の集まりであり、近隣にある小学校や大学など、より広い地域とのつながりはなかった。そういうこともあって、サロンの方たちは、このラーニングフルエイジングのプロジェクトを歓迎してくださった。イベントの当日は、まず丸山さんたちに「ネットワークで育ちあう!ただいま団地は成長期」と題して、これまでの活動についてお話しいただいた。上で述べたような成立の経緯、支援学校の喫茶実習以外にも、講師を招いてみんなで懐メロを歌ったり、サロンの壁面を居住者の作品で飾る活動、戸外でのグランドゴルフ、家庭菜園、そして「ラーニングフルエイジング」の枠内で行った哲学対話、演劇、まち歩きなどのイベントについて報告いただいた。

続いて森玲奈さんにこのプロジェクトの趣旨の説明があった。彼女が高齢社会において「生涯学び続けること」をテーマにする場合、何より「多世代の共生」を重視している。というのも、「一人でいるより誰かといることが豊かさを生み出す」と考えるからである。したがって、百草団地における彼女の活動は、たんに高齢者が集まる場所でワークショップなどのイベントで交流を行うことが目的なのではない。そうではなく、近隣の大学、小学校などの若者をはじめ、地域でいろんな世代の人たちが関わり、しかもそれが、高齢者の一方的な支援ではなく、お互いにとって学びになるということを目指している。しかもそれは、最初は私たちのように外部の実践者が関わって進めていくにせよ、いずれはそこに住む人たち自身がそうした学びの場の運営者になっていくことを、最終の目標にしている。そしてプロジェクトの全体は、「健康情報」、「芸術文化」、「すまい方」という3つの大きなテーマから構成され、「対話」がその全体をまとめる形で組織されている。

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以上のような森さんからの発表の後、NPO法人アーダコーダの井尻貴子さんのほうから、彼女がファシリテーションをした時の対話の内容、感想を語っていただいた。もともとサロンじたいの雰囲気がいいこともあり、はじめからとてもいい対話ができたこと、最初は参加者のほとんどが女性だったのが、徐々に男性が増えていったとのことだった。もちろんそれは、丸山さんたちの配慮もある。けれども特に印象的だったのは――私もその時は一緒にその場にいたのだが――最初は同じ部屋にいながら入り口近くの机に座って将棋か何かをしていた男性が、突然立って対話に加わってきたことだったという。対話はそばにいても、何となく耳に入ってくる。そうすると、自然に仲間入りしたくなる。対話にはそんな引力があるのだ。

多世代の関与を重視する森さんのプロジェクトにおいて、「対話」は他の部門をまとめる位置にあり、その中心にあるのが「哲学対話」である。それは一つには、哲学対話がもともと多様な立場の人たちが率直に対等に話せる場を作りやすいからだろう。ただし、私自身は、この活動をたんなる「応用」だとは考えていない。むしろこうした実践的な現場において、「哲学対話」そのものが拡張され、より汎用性の高いものになっていくいい機会だと思っている。そこでは必ずしも輪になって一緒に座る必要はなく、いろんな活動をしながらでもいいし、場合によっては、話すこと、言葉を使うことも必要ではないかもしれない。より本質的な「対話的なもの」がこのプロジェクトを通して捉えられ、それを形にしていければと考えている。そこで重要なのは、やはり「多様な人たちが対等に関わる」ことである。

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また私は以前から、哲学対話は当事者意識を醸成し、「自由と責任」を調和的に実現する場だと考えてきた。このプロジェクトの趣旨は「多世代で共に創る学び」と「自ら運営する人たちの育成」である。その意味でもこのプロジェクトは、哲学対話の可能性を探るうえで貴重な機会になるだろう。百草団地は、サロンじたいが非常にうまく運営されているので、これから私たちも、サロンの人たちも、また地域の人たちも、まさに共に学び、育っていければと願っている。

梶谷 真司 (UTCP)

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