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【報告】UTCPプロジェクト「共生のための障害の哲学」×「Philosophy for Everyone」合同企画「こまば発さいはひ行 銀河鉄道の夜の旅――アナタのものがたりをつむぐ哲学ドラマワークショップ in UTCP」

2015.09.01 梶谷真司, 石原孝二, 大谷賢治郎, 松山侑生, 水谷みつる, 神戸和佳子, 阿部ふく子, 栗脇永翔, 安部高太朗, 共生のための障害の哲学, Philosophy for Everyone

2015年7月12日(日)13:00から17:00まで、東京大学駒場Iキャンパス 21 KOMCEE 101にて、「こまば発さいはひ行 銀河鉄道の夜の旅――アナタのものがたりをつむぐ哲学ドラマワークショップ in UTCP」を行なった。本年3月25日・26日に北海道のべてるの家で開催した「べてる発さいはひ行 銀河鉄道の夜の旅――喪失と幸福をめぐる哲学ドラマワークショップ in べてるの家」の東京開催という位置づけであり、べてるでの経験を活かした内容を企画した。

ダメダメ劇団のオーディション会場――今回の設定

今回は、劇団哲學が『こまば発さいはひ行 銀河鉄道の夜の旅』という新作舞台の役者オーディションをする、という設定でワークショップを行なった(※宮沢賢治作『銀河鉄道の夜』の物語については、前回のべてるワークショップのブログをご参照いただきたい)。金欠弱小劇団であり、腰が低いがスポンサーに頭が上がらない演出家(松山侑生)、脚本が上手く書けない脚本家(水谷みつる)、大手事務所に所属しているがゆえに役を得た大根役者(古舘一也、庄崎真知子)、お金に物を言わせてやりたい放題するスポンサー(大谷賢治郎)、オーディションに来た新人俳優たち(参加者)という役回りであった。なお、参加者は実際に会場に来るまでそうした設定を知らなかったため、入り口の「オーディション会場」という看板に驚いて帰ろうとした人もいたらしい。

アイスブレイク

速度を変えながら室内を歩いて身体を温めたあと、「機械のワーク」を行なった。一人がまず動きをつくり、それに他の参加者がどんどん動きをつけ加えていって、最終的に一つの大きな機械を作るというワークである。はじめ二つのグループに分かれ、とくにお題を決めずに行なったあと、劇団からの「お金がない劇団なので、銀河鉄道のセットも皆さんでやってもらいます。汽車を作ってください」というお願いを受けて、参加者全員で大きな銀河鉄道を作った。

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ディレクション――銀河鉄道のシーンに笑いを加える

続いて「稽古」として、古舘、庄崎、水谷が『銀河鉄道の夜』のシーンを演じた。いつのまにか銀河鉄道に乗っていたジョバンニが、向かいの席のカムパネルラと話していると、車掌が検札にやってくるというシーンである。しかし、それに対して演出家が「スポンサーから“笑いが足りない”と言われてしまって……」とNGを出す。脚本家も喜劇は苦手だと言い、そこで参加者からどうやったらシーンに笑いが加わるか、アイディアを出してもらうことになる。

参加者から「関西弁でやってみたらどうか」「オネエ言葉でやってみたら」など、さまざまアイディアが出た。それを受けて古舘、庄崎、水谷が演技をした。最後には「ラップでやってみたら」という案が出て、3人は戸惑いながらも精一杯ラップで応え、会場は笑いと喝采に包まれた。

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銀河鉄道に乗ってみる

「稽古」は続く。次は銀河鉄道に鳥を捕る人が乗り込んでくる場面で、参加者から鳥を捕る人役を募り、古舘、庄崎とともに演じてもらった。賢治作『銀河鉄道の夜』のなかでも、そこはかとないおかしみの漂う場面である。ところが、劇団哲學版『銀河鉄道の夜の旅』には、「実はもっといっぱい乗客が乗ってくる」のだと演出家が言う。しかし、脚本家は「一人で考えていると全然いいアイディアが思い浮かばなくて、書けていないんです」と情けない。そこで、「オーディション」の一部として、参加者一人ひとりに銀河鉄道の乗客になってもらうことになった。

参加者は、まず「どこから来て、どこへ向かい、何をしに行くのか?」を心の中で決める。そして、演出家に切符を手渡されたら、車掌役を務める脚本家に切符を渡して、ジョバンニとカムパネルラの待つ6人掛けのボックス席に乗り込む。そこで、銀河鉄道に乗り合わせた乗客同士として、会話をしてもらった。「これから帝国軍を倒しにいく」「光がある方へ向かっている」「板橋から来た」等々、個性豊かな乗客が現われた。みな楽しんでワークに取り組んでくれ、ワークショップの最後に行なった振り返りでは、「子供の頃に本を読むと登場人物と会話をしていた。今日やった乗客のワークはまさにそれで、実際にジョバンニと会話できたのはすごく楽しかった」と感想を述べる者もいた。

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銀河鉄道のその後の物語をつくる

休憩を挟んでの後半では、まず庄崎と古舘が、タイタニックの乗客と思しき青年とジョバンニの会話のシーンを演じた。続いて「最終オーディション」と称し、参加者一人ひとりに「ジョバンニ」「カムパネルラ」「語り手」「青年」「女の子」「博士」のなかから好きな役を選んでもらって、全員で車座に座り、『銀河鉄道の夜』の終盤の台本を輪読した。

その後、演出家が「この話は、いったい何を私たちに伝えようとしているんだろう? いったい何を問いかけているんだろう?」と問いを出し、それについて2班に分かれて哲学対話を行なった。「本当の幸せとは?」「神様とは?」「そもそも“本当”とは?」「銀河鉄道って何だろう?」「どこに行くのか?」「自己犠牲の精神をどうとらえるか?」等々、物語に触発されて多層に問いが重ねられ、それぞれの考えや思いが語られた。対話のあとはシェアの時間も設けた。

続けて、哲学対話で深めた問いから想を得て『銀河鉄道の夜』のその後の物語を作るというワークを、対話の班をさらに二つに分け、合計4班で行なった。劇団哲學版『銀河鉄道の夜の旅』にはこの先のシーンがあるはずが、例によって脚本家はまだ書けておらず、「オーディション」参加者たちに丸投げしたというわけである。参加者たちは、哲学対話の内容を元に物語の続きを想像し、キーワードを紙に書き出してタイムラインに並べ、台詞や動きで肉付けしてシーンをつくり、発表した。博士の家をジョバンニやマルソたちで訪れる班や、銀河鉄道に再び乗車する班など、それぞれにユニークな『銀河鉄道の夜』の続きが生まれた。どの班もセリフ一つひとつが丁寧である以上に、立ち位置や空間の広がりを工夫しており、深まった問いをどのようにして三次元で表現するかに心を砕いているさまが見て取れた。それぞれの物語はどれも美しく、見る者に多くの感激と新たな問いを提供してくれた。

最後に、全体の締めくくりとして振り返りの時間をもち、ワークショップを終えた。

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ワークショップを終えて――結びに代えて

べてるでのワークショップのあとに出た反省点の一つは、企画者が準備をすればするほど、企画者がつくった枠組みに参加者をはめ込むことになってしまうのではないか、ということであった。そうではなくて、むしろ参加者が自らの物語を語れるような場にしたいと願い、今回のワークショップでは「アナタのものがたりをつむぐ哲学ドラマワークショップ」と副題をつけた。そして、企画者側が物語を作り込む度合いを極力、小さくしようと努めた。たとえばべてるでは、衣裳や小道具に工夫を凝らし、背景にイメージを投影する、効果音を鳴らすといった演出を行なって、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』をできる限り忠実にわかりやすく伝えようと試みた。登場人物もすべてプロの俳優が演じ、上演としてのクオリティを保つことも心がけた。しかし今回は、オーディションが行なわれている劇団の稽古場に場所を設定し、衣裳も小道具もイメージも効果音も一切なしで、ワークショップを行なった。『銀河鉄道の夜』の登場人物も、プロの俳優が演じるのはごく一部で、冒頭のシーンから素人の水谷が加わり、その後もシーンやワークごとに参加者のかかわりを大きくして、最後には参加者たち自身に新たな物語を編み出す役目を担ってもらった。

しかし、終了後に書いてもらったアンケートを読むと、「役者さんの演技を見るのが楽しかった」といった意見は若干あるものの、「前半の紹介部分をもう少し短くして、参画部分を長く」「銀河鉄道に乗るワークと、シーンを創作するワークがおもしろかった」などの感想が多く見られた。また、「輪読でシーンが立ち上がった」「人と話したり、演じたりすることで『銀河鉄道の夜』の理解が深まった」などの意見も複数あった。物語を「自分自身で、ともに」(これは哲学ドラマの源流の一つである当事者研究の標語でもある)演じる機会を提供できることが「哲学ドラマ」の強みの一つであるなら、もっともっと企画者が作り込む部分を小さくし、参加者に多くを委ねてもよいのではないか、と改めて考えさせられるアンケート結果であった。

また、ワークショップの2日後に行なわれたP4E研究会でワークショップの報告と検討を行なった際には、「もっと役そのものを演じる時間があったほうがいいのではないか」といったフィードバックもいただいた。確かに、一つの役に深く入り込んで演じてこそ、気づくこと、感じること、考えることもあるのではないだろうか。そうした機会を一人ひとりの参加者に対し、限られた時間のなかでどのように創り出すかは、「哲学ドラマ」の今後の課題の一つに思われる。

アンケートの意見にもあったが、4時間というのは長いようで、実はとても短い。今回も、哲学対話やそれに基づいた新たなシーンの創作など、じっくり時間をかけたい部分がどうしても駆け足になってしまい、非常に残念だった。当初、打ち合わせで出ていた「哲学対話→シーン創作→哲学対話→シーン創作」という、それぞれを2回ずつ繰り返す案も時間の都合で断念せざるを得なかった。しかし、言葉によるアプローチと身体によるアプローチのあいだに相補的で創造的な往還関係を創り出すには、対話をして演じ、それを受けてもう一度、対話し、演じるといった丁寧なプロセスが必要なのではないだろうか。そうしたプロセスの生成も今後の課題の一つである。

(松山侑生、水谷みつる)

*謝辞
ご協力いただきましたUTCPスタッフの皆様、および上廣倫理財団様に心より御礼申し上げます。さまざまなアドバイスおよびフィードバックをいただきました石原孝二先生、梶谷真司先生、誠にありがとうございました。今回も素晴らしいジョバンニとカムパネルラを演じてくださいました古舘一也氏、庄崎真知子氏に深謝申し上げます。最後に、べてるでのワークショップに引き続き、ポスターの写真をご提供いただきました齋藤陽道氏、ポスター・デザインを担当してくださいました堀田敦士氏に、心より感謝と御礼を申し上げます。

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