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【報告】宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校訪問

2015.09.21 梶谷真司, 阿部ふく子, 安部高太朗, Philosophy for Everyone

2015年9月10日(木)・11日(金)と宮崎県五ヶ瀬町にある フォレストピアまなびの森 宮崎県立五ヶ瀬中等教育学校を訪問し、3年生および4年生の生徒と哲学対話を行った。「風光明媚」という言葉が相応しい、美しい山々に囲まれた五ヶ瀬での哲学対話の様子を報告したい。

【五ヶ瀬中等教育学校について】
報告に先立って五ヶ瀬中等教育学校についてごく簡単に述べておく。

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五ヶ瀬中等教育学校は、その母体となる中学校と高校が平成6年に設立され、平成11年に全国初の公立中等教育学校となった、中高一貫校である。現在はSGH (Super Global High school)の指定校である。1学年40名で1年生から6年生までの全校生徒が寮生活を送っている。寮と校舎とは隣接しているため、学期中はほとんど学校の敷地内で生活をしているということになる。さらにICTが発達した今日の我が国においては誠に驚愕であるが、スマートフォンやパソコンといった通信機器およびゲーム機の類を所持することが禁じられている(なお通信手段としては公衆電話があり、生徒はテレフォンカードを使って親などに電話をするようである)。こうした——考えられないほど健全すぎる——生活が成り立っているのは校則が厳しいからというよりは、むしろ生徒自らが学校生活に集中できるような仕組みを話し合いながらつくりあげてきたからだと思われる。

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こうした特色豊かな五ヶ瀬中等教育学校でどのような哲学対話がなされたのか、その模様を報告することとしたい。


【初日:4年生との哲学対話】
初日は午後から4年生対象の授業として行なわれた。まず、梶谷真司先生(東京大学・UTCP)が哲学対話とそのファシリテーションについて講演を行い、次に実際に哲学対話をしてみたうえで、最後に生徒だけで哲学対話(ファシリテーションも含めて)を行う、という流れであった。

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生徒の集中力は高く、中には梶谷先生の講演に熱心に頷きながら聞く生徒も見受けられ、アイスブレイクも兼ねた質問ゲームでは互いに積極的に質問を投げかけていた。続いて哲学対話の準備として行われた対話のテーマ決めにおいても積極的に手が挙がり、「お金」というテーマから「100円玉を拾ったら交番に届けるかどうか」「愛はお金で買えるのか」「もし寿命がお金だったら」といった問いが出され、ホワイトボードいっぱいに出された問いから最終的に「お金で買えないものって何?」という問いのもと、最初の哲学対話が行われることとなった。対話は15人ほどの人数で行われ、時間、命、友情、日々の小さな幸せといったものや青い空などが挙げられた。しかしそれらに対し、「全くお金と無関係とは言えないのではないか」という鋭い指摘も出された。2回目の生徒たちだけによる哲学対話は、「10年後にどうなっていたいか」がテーマであった。あるグループでは、ほぼ全ての生徒が「大学を卒業し、企業に就職し、結婚相手を見つけていたい」と答えた。具体的な土地や職業名は出なかったが、大切に想える相手と平穏な暮らしがしたいというのが共通しているように感じた。哲学対話の際、生徒たちは自分にとっての幸せや大切にしているものは何かといったものに向き合いながら考えているように見えた。また3時間に及ぶ哲学対話は、生徒たちの希望により休憩時間を挟まずに行われ、その集中力にこちらが驚かされる初日となった。

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【2日目:3年生との哲学対話】
2日目は午前中に3年生を対象に講演と哲学対話を行った。

最初に梶谷先生が「哲学対話と学び」について講演をおこない、哲学対話によって身につく「問う力」、「考える力」、「語る力」、「つながる力」について、それから対話のルール、コミュニティボールの使い方について説明をした。

哲学対話の特色やルールを一通りつかんでもらった上で、対話の実践に移る。前日と同様に、まずはウォーミングアップとして、4,5人一組になって質問ゲームを始める。この日の問いは、「一人になりたいのはどんな時?」というもの。質問ゲームのプロセスを設けるか設けないかで、その後の対話の雰囲気はおそらく違ったものになるだろう。ゲームを経た後では、どんな質問・応答内容だったかにかかわらず、生徒たちは「問い、考え、語り、つながる」感覚を自然とつかむようになる。

次に、クラスで三つのグループを作って哲学対話に入る。時間の都合上、問い出し・問い決めの過程は省略し、こちらでいくつか用意したテーマのなかからグループごとに好きなものを投票で選んでもらい、それについて対話をおこなうことにした。テーマは次の四つである。

①はやく大人になりたい?
②どうして生きてるの?
③自由だと感じるのはどんな時?
④ロボットはいつか心をもつようになるの?

筆者(阿部)がファシリテーターとして入ったグループでは、③の問いを選んだ。まずは素朴に問いに一人一人が答えていく。「寮での学習以外の時間」、「寝ている時」、「部活で好きなテニスをしている時」、「休み時間」、「マンガを読んでいる時」、「お菓子を好きなだけ食べている時」などの答えが挙がり、全体的に、学校で決められたルールに則って行動する以外の時間にみんなが自由を感じているようだった。そこから対話は、「それはなぜ?」という相互の問いかけによって徐々に発展してゆく。哲学対話の醍醐味は、対話の内容が終始一貫して哲学的なものになるように縛られる必要はない、ということだと筆者は思う。各自が対話の基本的なルールを守ってさえいれば、対話メンバーの個性や興味に応じて、話の内容は自由に変化してもよい。この日も、「マンガを読んでいる時に自由を感じるのは、マンガの世界に入り込んでいろんなイメージを広げることができるから」という理由をある生徒が述べると、そこから「どんなマンガが好き?」という流れになり、しばらくその話題で盛り上がるシーンがあった。その一方で、「自由と幸せの違いってなんだろう?」という問いが挙がり、みんなでふと立ち止まって考えてみるシーンもあった。どんな話題や発言も必ず何かの形で哲学に繋がっている、と予定調和的な考えを述べるつもりはないが、筆者は生徒たちの自由自在な対話の変化を見ていて、少なくともそこには、身近なことと哲学的なこととを柔軟に行き来する探究のリズムなり呼吸のようなものがあるように感じた。

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振り返りでは、生徒たちに哲学対話をやってみた感想を述べてもらった。「思考の深まりを感じることができた」、「普段は知ることができない他人の一面を見ることができたし、それと同じように、自分自身でも知らなかった自分の一面を発見できた」という声があった。

五ヶ瀬中等教育学校の生徒たちは、特色ある教育プログラムや寮生活などの経験の成果なのか、自分の意見を自分の言葉でためらうことなく表現するという、素朴ではあるがとても難しいことを、比較的自由に実践する力がすでに身についていたように思う。そのため哲学対話の雰囲気にも素直に馴染んでいたように見えた。今後は生徒自身の力で、地域での対話実践に臨むとのことである。私たちUTCPとおこなった哲学対話が、彼らなりの目線や発想によってどのような形に進化していくのか、楽しみに思う。


安部高太朗(UTCP RA研究員/東京大学大学院教育学研究科 博士課程2年)
阿部ふく子(UTCP特任研究員)
横井綾香(東京大学大学院総合文化研究科 修士課程1年)

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