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【報告】駒場祭での哲学対話イベント「こまば哲学カフェ」(4)

2015.03.07 梶谷真司, 稲原美苗, 小村優太, 川辺洋平, 松山侑生, 土屋陽介, 佐藤麻貴, 宮田舞, 神戸和佳子, 崎濱紗奈, 安部高太朗, Philosophy for Everyone

駒場祭で開催された「こまば哲学カフェ」、以下は2日目午後のセッションについての報告である。この時間帯は、「SFと性:男×女×??」「『頭がいいってどういうこと?』〜東大生の素朴なギモン〜」の2つのセッションが行われた。

SFと性:男×女×??  (小村優太・稲原美苗)

駒場祭二日目の午後一番に哲学対話「SFと性:男×女×??」を行った。日曜日の午後ということで、かなり広い客層に来ていただけたのではないかと思う。題材は「性」ということで、ややデリケートな部分もあるかもしれないという心配もあったが、個人的にも「性」は気になるテーマなので、是非やってみたいという思いが以前からあった。結果から言うと、SFよりも性に比重がかかった内容になったと思うが、それはそれで結果オーライというところだろう。

まずはいつもの通りスライドを使いながら場の空気を暖めて行き、途中で映画『転校生』の入れ替わりシーンを鑑賞。『転校生』というと小林聡美主演の1982年公開のものが有名なのだが、実はこの映画、現在DVD等を入手するのが極めて困難になっている(こっそりリマスター版でも作っているのだろうか)。ということで、今回は2007年のリメイク版を観た。実はこのリメイク版も大林宣彦による監督作。70歳近くになっても青春入れ替わり映画を自分でリメイクしてしまう辺り、この監督の業の深さのようなものを感じた。82年のオリジナル版を知っている年代にとっては、懐かしくも新しい、不思議な感じだったのではないか。

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その後はもし自分が男(女)になったら、何をしてみたい?ということてしばしば意見を出し合った。様々な意見が出たのだが、女性からは、男性になったらナンパをしてみたいなどの意見が出て、反対に男性からは、女性になったらスイーツを食べて女子会をしてみたいなどの意見が出た。お互いに、異性に特有のイメージを持っており、そのイメージが様々な形で反映されるのが面白い。女性になったらスイーツ食べ放題に行ってみたいと思う男性は、「女性は甘いものが好き」というイメージを持つと共に、「男性はスイーツ食べ放題に行かない」というイメージも持っているのだろう。同時に、この男性は「男性という制約がなければ、スイーツ食べ放題に行きたい」という欲望も持っており、それが男性という抑圧から解き放たれることによって自由になると思っているのだろう。(自分はとくに甘いものが好きでないので、女性になったとしてもスイーツ食べ放題に行きたいとは思わない。)

また、このイベント後にこっそりと、「女性になったら女湯に入りたい」と教えてくれた勇気ある人がいるが、ここには思ったより重要な示唆があるのではないだろうか。男性として、男性の目線で考えているから「女性になったら女湯に入りたい」と考えるわけで(より正確に言えば、「女性の入っている女湯に入りたい」だろう。誰もいない女湯はただの「湯」に過ぎない)、これが女性になってしまえば、とくに「女湯に入りたい」とは思わないだろう。単に「温泉に入りたい」と思うだけだ。自分も温泉に入りたいときに、「あー、男湯に入りたい!」とは思わないのだし。結局、「もし男(女)になったら、何をしてみたい?」という問いには、現在の自分の性の思考方式に制約されている中で答えるのであり、このifが完遂されれば、解消してしまう考えもしばしばあるように思われる。そうなると、「実際に異性になってしまえば解消されてしまう欲望」と、「実際に異性になっても継続する欲望」の二種類があるのだろうか。はたまた、第三の欲望が存在するのかもしれない。

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後半は三グループに分かれて対話を行ったが、自分の担当したグループは中学生も数人入っており、全体的に若いグループだった。途中、もし無人島に行って自分一人だけになったら、なにを基準として自分が男(女)だと考えるのかという問いに向かったりして、全体的に男(女)という概念を問う対話が中心になっていたように思う。中学三年であれば、そこまで自分が男(女)であると強烈に意識することは無いのだろうか。男子、女子という区分はあったし、当時は男と女がかなり分けられているようにも感じたが、男子・女子を卒業してしばらく経つ成人男性としては、中学三年のときどう感じていたかという気持ちを無理に掘り起こそうとしても良いことがないと思うので、あまり深追いするのはやめておくことにしよう。大人の比率が高いほかのグループでは、なかなか子供に聞かせられない対話もなされていたようだが、そちらの内容には直接触れることが出来なかった。残念、なような、そうでもないような。

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(小村優太)
 
 
 
 
「頭がいいってどういうこと?」〜東大生の素朴なギモン〜 (李伽倻・河合隼雄・新谷陽一)

私李伽倻は、東京大学の学部生2人、新谷さんと河合さんと駒場祭で哲学対話のセッションを一つ任せてもらえることになりました。それも中高生が一番来るだろうとされている時間割をいただきました。普段講義形式の授業が大半を占めるであろう中高生、あるいは若い世代に哲学対話の楽しさ、素晴らしさを知っていただきたい、それが私たちの目標となりました。

中高生以外の人にも面白いと思え、かつ中高生にとって特に重要なお題ってなんだろう?これが私たちの出発点でした。「学校ってテストの点数で人間関係・自己肯定感が微妙に変わるよね。」「そうそう、それかスポーツができるかどうか。」やはり学校に身を置く以上、偏差値という基準でランク付けされる、あるいは他校・他人をランク付けする、ということが中高生にとって日常的なことであり、また企画者である私たちが中学校・高校にいたときに経験したことでもありました。また、中高生でない参加者もほとんどの人が「学校」という場を経験しただろう、という考えのもと、テーマを「知性って何だろう?」に設定することにしました。

当日は予想以上にたくさんの方々が足を運んでくださり、企画者の私たちはやや緊張しながらも、ありがたい気持ちと嬉しい気持ちでセッションを始めることができました。教室を見渡してみると、小学校5・6年生から、中学生、高校生、浪人生、大学生、社会人、40〜80代の方々等、幅広い世代の方々に興味を持ち、会場に足を運んでいただきました。

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哲学対話を初めて経験する方々にもメインである対話にスムーズに馴染んでいってほしい、という思いから「知性」に関する事柄についてまずは全体でブレインストーミングをしました。「頭がいいなと思ったこと」「頭が悪いなと思ったこと」のお題で参加者の方々に具体例を挙げていただきました。「頭がいいなと思ったこと」の例としては、以下のような点があがりました。
 ・複雑なことでもわかりやすく説明できる
 ・他の人の気持ちを察することができる
 ・勉強ができる・偏差値が高い
 ・他の人の気持ちを察し、さらにそれを行動に移すことができる
 ・人間関係でトラブルを起こさない 等

「頭が悪いなと思ったこと」の例としては
 ・空気が読めない
 ・怒られるとわかっていてもバカなことをする男子
 ・理解力がない
 ・他人の意見に左右されやすい
 ・他の人を簡単に見下す 等

第二段階として、参加者の方々にこれらの具体例から知性に関する質問を考えていただきました。以下のような質問が挙がりました。
 ・知性は客観的に測ることができるのか?
 ・感情を理解する力は知性の一部なのか?
 ・東大生は本当に頭がいいのか?
 ・知性とはそもそも何なのか?
当日は様々な問いが出てき、ここに書ききれないのが残念ですが、最初のブレインストーミングが功をなしたのか、参加者の皆さんに様々な問いを出していただけました。

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問いを出していただいた後は、いよいよメインの哲学対話に移りました。黒板に書き出した問いの中から一つグループで話し合いたい問いを多数決で決めてもらい対話を始めてもらいました。1グループ5−6人程度で、なるべく一つのグループに幅広い世代・年齢層の人が入るよう、調整をいたしました。

私のグループでは、「知性は客観的に測ることができるのか?」という問いについて哲学対話をしました。「偏差値」という概念は本当に知性を表す道具として有効なのか。脳科学の技術でもし頭のいい人の脳波のパターンを見つけるとする。そうすれば脳科学の技術で偏差値よりもより正確な「頭の良さ」の基準を見つけることができるのではないか。でも、科学的データの解釈は所詮人間の主観にかかっているので、100%客観的な知性の基準など作り出せないのではないか、など、様々な意見が出て、非常に有意義な哲学対話となりました。

やはり予想していた通り対話の時間制限内では答えは出なかったのですが、頭の中にさらなるモヤモヤした疑問が発生し、参加者の方々が各々に自ら問いを深めていただくのも哲学対話の一部だと思っております。そういった意味では「知性」というテーマについての哲学対話は成功裏に終えることができたと言えるのではないでしょうか。そして最後に、一緒に企画に携わっていただいた新谷さんと河合さん、そしてPhilosophy for Everyoneの方々に感謝の意を表したいと思います。来年の駒場祭での哲学対話にはよりたくさんの方々に来ていただき、哲学対話の楽しさを知っていただけることを心より願っております。

(李伽倻)

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