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【報告】2014年度 高校生のための哲学サマーキャンプ(1)

2014.08.27 梶谷真司, 星野太, 神戸和佳子, Philosophy for Everyone

2014年7月30日から31日の2日間にかけて、「高校生のための哲学サマーキャンプ」(主催:上廣倫理財団)が開催された。今年度で第3回目となる本イベントは、「国際哲学オリンピック」の国内予選にあたる「日本倫理・哲学グランプリ」に向けたトレーニングの場という位置づけを持っているが、出願予定の有無に関わらず、広く高校生に読解と対話を通じて哲学的な思考を深め論述能力を向上させる機会を提供することを目的としている。今回は全国の高校から21人の高校生たちが集まり、1日目は国立オリンピック記念青少年総合センター、2日目は東京大学駒場キャンパスで行われた。講師は、北垣宗治先生(同志社大学名誉教授)、梶谷真司先生(国際哲学オリンピック日本組織委員長・UTCP)、林貴啓先生(国際哲学オリンピック日本組織委員)、それから、本イベントのために研修会を行ってきた教員および大学院生であった。キャンプ1日目の様子について、チューターの犬塚より報告する。

1日目は、グループでの哲学対話と個人でのエッセイ作成・発表がなされた。まず、3つの課題文(アレントの「善悪」についての一節、ヒュームの「美」についての一節、一休の「死」についての一節)から高校生が各人の関心に従って1つを選択し、3つのグループで哲学対話が行われた。各グループ高校生8人+チューター4人程度で問いを重ねる中で、一節のテクストについて様々な観点が提示され、後に各自がエッセイを作成する際の材料が提供された。

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次に、梶谷先生による哲学エッセイのストラクチャーと構成要素についての講義が行われた。論理的な文章を書くためには、いきなり文章を書き出さずに、問いから結論までのストラクチャーをまず作成し、それが十分な構成要素(定義、具体例など)を含んでいるか、説得力のある形で論理展開がなされているかを確認することが重要であるという旨が説かれた。

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講義の後に50分程の時間が与えられ、各高校生はエッセイのストラクチャー作成に取り組んだ。2人の高校生に対し1人のチューターが付き、思考が行き詰った際のアドバイスや、論理展開の一貫性の確認を行った。作成後は改めて各グループで集まり、各高校生が自分のエッセイストラクチャーを発表した。各チューターによる簡単な講評も行われた。

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最初に哲学対話を行うというのは今年度初めての試みであったが、一人では考え付かない観点を知って思考を深めることができ、より良いエッセイの作成ができたと多くの高校生には好評であった。梶谷先生が本プログラム中でも述べていた通り、最終的には各人が一つのトピックに関連する議論の大きさの感覚を備え、個人で論述する際も賛否両者を含む哲学対話を頭の中で行えることが理想である。一方、使用言語に英語を希望する高校生のために各課題文には和英の訳文を用意していたが、開催中に訳語を問題にする声が挙がった。国際哲学オリンピックでは英語が使用言語となる。本プログラムの一番の課題は参加者に哲学的思考の深化の方法を身に着けてもらうことであるが、今後は言語といった他の課題についても更に検討していくことが必要となるだろう。

夕食後は、哲学について各人が思うことを話す哲学対話の場を設けた。新たな3グループに分かれ、茶菓子を手に高校生とチューターが意見を交わした。各高校での「倫理」科目の問題や、より一般に哲学の面白さについて、各地から来た高校生が活き活きと話していることが印象的であった。一方で、哲学を単に各人の論理的思考のトレーニングといった形で捉えている高校生が少なくなく見られたことも記憶に残った。哲学は、新たな概念を生み出すことで世界を変えてしまう力をもつ営みである。その力の危険性と可能性をより深く認識し社会の中に据えていくことは、今日の高校教育のみならず日本における哲学の課題であろうと考えられた。

(報告:犬塚悠)

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