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【報告】L2プロジェクト UTCP/PhDC×浦河べてるの家討論会「当事者研究の現象学」(4)

2014.01.27 石原孝二, 西堤優, 高崎麻菜, 共生のための障害の哲学

「当事者研究の現象学」が12月21日・22日の二日間にわたって開かれた。本人、支援者、家族、研究者がそれぞれの立場から当事者研究と関連付けて、講演・発表がされ、当事者研究に対する考えやその意義、当事者研究が今後どのようになっていくのかという展望について議論が行われた。

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初日である21日のワークショップ1では「当事者研究と支援者の役割/支援者からみた当事者研究」として、支援者の方々が、当事者研究の関係・関わり方についてお話しして下さった。作業所の運営者、クリニックで働く方、べてるの家で勤務するソーシャルワーカーなど、さまざまな職種の方々の貴重なお話が聞けた。それぞれのクリニックの特徴を紹介して下さったが、共通していた点として挙げられるのは、当事者研究を様々な場面に活用しているということであった。例えば、朝のミーティングで、スタッフにその日の気分、体調、苦労を聞くという「べてるの家」方式を取り入れているところが多かった。支援者としての当事者研究は、一方で難しさを伴う場合もあることが語られた。職場という環境では、支援者間同志で当事者研究を行うことに制約を伴うこともあることが認識できた。しかしながら、全体としては支援者として当事者研究を行う効果や意義は少なくないようだった。支援者自身の不安や苦労が見えることで次にすべきことが明確にできる、その苦労に対処する方法が分かった、支援者、利用者という枠を超えて、人と人としてのつながりが生まれるという点が挙げられた。

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午後からは、「当事者研究はどこに向かうのか」というタイトルでシンポジウムが行われた。向谷地生良先生は、各地で行われている当事者研究で得られた結果をデータ化して整理し、当事者研究にはどのようなテーマが選ばれるのか、どのような方法論がとられているのか、などについて説明して下さった。

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熊谷先生は、現在進行中である自身のプロジェクトの研究進捗状況について発表された。そのなかで、発達障害の当事者である綾屋さんが出した仮説についての実証研究の成果を提示され、当事者研究が科学研究と共同研究することへの大きな可能性と意義を感じた。綾屋さんは、自身が組織・運営されているNECCO当事者研究会の活動内容とその分析結果について発表された。「いいっぱなし、ききっぱなし」など、NECCO独自の当事者研究会の進め方が興味深かった。

向谷地宣明先生は、関東当事者研究の現状について報告された。それによると現在、当事者研究は医療機関だけではなく、就労支援事業所や家族会、自助グループ、教会、企業にまで広がっており、その広がりの勢いに驚きを感じずにはいられなかった。その次に石原先生は、当事者研究の研究手法(自分で自分を分析しみんなで共有するという手法)について触れられ、この手法には当事者である語り手を守るという重要な一機能があることを示した。

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最後に上野先生が、シンポジウム全体を総括された。その中で当事者研究は、創設期、伝播期を経て、現在は普及期という第3期に入っており、さらに「当事者研究の行方」としては、第4期の専門知を変えることが出来るのかという問いに対峙するフェーズを迎えるかもしれないことを示唆された。また同時に、当事者研究が科学によって裏打ちされ専門家によって権威付け・制度化され、その結果当事者研究独特の良さが失われる可能性についても言及された。今後「当事者研究は何を変えうるか」という問いを掲げ、最終的にその影響でもって社会を変えるのだという問題意識まで持つ必要があることを述べられた。

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二日目のワークショップ2は「当事者研究の現象学/現象学的実践としての当事者研究」と題して開催された。石原先生は、一日目の発表での説明も踏まえつつ現象学についての説明をし、最後に当事者研究と現象学との関係について述べられた。現象学的実践としての当事者研究として「現象学的共同体」という理念を提示された。向谷地生良先生は、医療看護スタッフとして働かれていた頃に、フランクルの思想に影響された経緯を話された。精神障害を持つ人々が責任を持つ主体として、この現実を自らの現実として生きていくということをもう一度意識してもらうこと、そのために、精神病棟内の人が徹底的にこの現実に苦悩して、もがいて、考えて、という現実を起こさなければならないという想いがあったことを振り返った。そうするにはビジネスが必要であり、その世界の中に一旦自分たちを落とし込んで、お金を巡るシステムのなかにおいて生きるという現実をどう立ち上げていくかという発想は二日間を通して、最も印象的な内容の一つであった。最後の谷先生の総括として、「当事者」という言葉に主体性を持たせすぎない方がいいというコメントもまた印象に残っている。私たちは、一人一人が外に向かって開いており、問題と言うのは一人一人の関係の間で起こるのであるから、「当事者」とは主体ではなく媒体である、というご指摘は当事者研究の本質を見事につかれていたと感銘を受けた。その後の質疑応答も、多くの質問が寄せられて、時間が足りないくらい活発な議論がなされた。

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最後のワークショップ3は「当事者研究と家族/家族当事者研究に向けて」と題して、親、きょうだい、夫婦、それぞれの立場の人に集まっていただきそれぞれの苦労を話していただいた。お話の中では、生活の中で起こる出来事を具体例にあげられ、親としての思い、きょうだいや夫婦としての思いを語って下さった。当事者研究を家族から見てどう思うのか、あるいは家族当事者研究をどう思うのかという質問には、家族も当事者研究を使って頭の中を整理することは重要、配偶者、親戚、きょうだいよりも親が当事者研究することが重要なのではないか、家族が落ち着いていれば病気本人の人も安心するので当事者研究は重要だと思うという意見が聞かれた。家族会、当事者研究会、それぞれの役割、意義があると感じたので今後もそれぞれの発展を望んでいる。

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また別会場では、べてるの家の人々にフォーカスした写真展も開催され、多くの方が一枚一枚の写真をゆっくりと見られていた。

二日間にわたるシンポジウムだったが、全てのセッションに多くの方が来場され、当事者研究に対する知名度と関心の高さが伺えた。

報告:高崎麻菜(UTCP・RA)

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