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【報告】駒場祭での哲学対話イベント「こまば哲学カフェ(2)」

2014.01.04 梶谷真司, 松山侑生, 佐藤麻貴, 宮田舞, Philosophy for Everyone

2013年11月22日~24日の「駒場祭」(東京大学駒場キャンパスの学園祭)期間中、P4E研究会の主催で、カフェフィロの協力のもと、「こまば哲学カフェ」が開催された。以下では、その2日目の記録を紹介する。

駒場祭の2日目は土曜日にあたり、駒場キャンパスはまさにお祭りで、人であふれかえっていた。前日の金曜日に比べると、とくに中高生や家族連れが目立った。「こまば哲学カフェ」への人の出入りも一段と多くなる中、次の3つの哲学対話が2時間セッションとして行われた。

・親子でできる哲学対話
・愛のダメ男脱出大作戦 ~身体で考える恋愛哲学~
・「愛」を語ろう ~哲学対話で恋愛力UP‼~

(3つ目のセッションは梶谷真司先生の進行で行われたが、UTCPの佐藤麻貴さんに報告文を書いていただいた。)


親子でできる哲学対話
 企画・進行:西山渓、宮田舞

2日目の私の担当セッションは『親子でできる哲学対話』であった。ファシリテーターには立教大学院生の西山さんを迎えた。西山さんのアイデアで、参加者にはかわいらしいストラップのネームカードが配られた。ここに哲学対話で呼んでほしい名前(Pネーム)を書く。小学生の女の子も、幼稚園の男の子も、そのお父さんやお母さんも、みんなが一緒に対話の場を作るための工夫である。

まずは、6人の小グループを作って「質問ゲーム」を行った。テーマは「かっこいい人ってどんな人?」。1人がそのテーマに答えた後、残りの人たちが回答した人に質問を投げかける。全員に順番が回るころには、疑問を出すトレーニングが完了しているのである。

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私のグループでは、走るのが早い人、弱いところを見せられる人などの「かっこいい人」が挙げられた。その中である小学生の男の子は、他のメンバーが自分と同じ意見を出したとき、その子に質問するのがとても難しかったと言っていた。自分と同じような信念を持っている人に問いかけるのは、自分自身に問いかけるようなもの。難しい場面であったが、彼は果敢に挑戦してくれた。1回目に質問の順番が回ってきたときにはどうしても質問ができずにパスしたが、2回目は質問を出すことができた。相手が自分と同じようなことを言っているように聞こえても、その内実に違いが見えてくると、問いを出すことが少し容易になるのかもしれない。相手の言葉にじっくりと耳を傾けたからこそできたことだろう。

後半の全員での哲学対話では『パパのカノジョ』という絵本を用いた。シングルの父親にできた新しいパートナーと「あたし」の関係を子どもの目線から描いた絵本である。とても母親らしくなくないし、かっこよくない「カノジョ」と「あたし」の交流は、子どもと大人が親子の関係を超えて、互いに1人の人間として生きることの自然さを表現している。

西山氏は絵本を読んだ後、まずは参加者みんなから疑問を募った。「怒る」ことについての疑問が出たことをきっかけに次々と意見が出た。中でもある男の子が出した「怒られないと寂しい」という意見には多くの大人が驚いていた。怒られることで、自分が気にかけてもらっていることを感じるという考えは、大人が持っている「子どもは怒られるのがいやなものだ」という観念に気づくきっかけとなった。「怒る」というテーマは特に大人たちの言葉を引き出すこととなり、多くの大人が、子どもたちの前で自らの子育て観について語ることとなった。

4歳から大人まで参加できるというこのイベント。対話の間、教室の中を楽しそうに走り回っている子どもたちもいた。黒板に落書きをしにきたと思ったら、いつの間にか対話の輪の中に戻っていた子もいた。難しい言葉を子どもの言葉にすることに苦しんでいる大人もいた。それでも、対話は続く。言葉づかいも、知識も、考え方も全然違う人たちが「ともにその場にいる」ということについても、考えさせられる機会となった。

(宮田舞)



愛のダメ男脱出大作戦 ~身体で考える恋愛哲学~
 企画・進行:福士侑生、日野麻衣子、佐々木彩

「言葉だけでない、哲学対話はないかしら。」
そんな私の小さな問いから、今回の哲学アプライド・ドラマは生まれました。元々、私は障害の当事者研究(※当事者研究については、UTCP L2プロジェクトをご覧ください。)をしており、その中で語れない言葉ほど多くのことをもの語っていると感じていました。語りえない言葉をどうにか拾いあげることができないだろうか、そのヒントを探すためにイギリスへ行き、チェスター大学のAllan Owen、Naomi Greenと出会いました。彼らから学ばせて頂いたアプライド・ドラマ(応用演劇)を使って、言葉だけによらない対話―身体的対話を、この度のこまば哲学カフェに出店させて頂いたのが、事の経緯です。

今回、哲学アプライド・ドラマをするにあたって、東京学芸大で演劇教育を研究している日野麻衣子氏と、俳優・声優をされている佐々木彩氏にご協力いただきました。今回は恋愛がテーマということで、ジョージ・バーナード・ショー原作『ピグマリオン』(映画『マイ・フェア・レディ』)をプレテキストに用いました。

たくさんのワークをした中で特に印象に残っているのは、サイレントダイアローグです。言葉を使わず身体表現だけでグループを作るというワークですが、その中で「浮気の定義は心が動いたら/一緒に食事に行ったら/身体の関係があったら」で分かれてもらったところ、男性と女性とでは身体表現に大きな違いが現れました。「身体の関係」を表現する女性は、自身の身体を抱きしめるようなジェスチャーをするのですが、男性は対象となる女性の身体を表現するのです。

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それに関連するように、後半の「男性が恋する女性に花を渡すシーン」を演じるワークも、大変盛り上がりました。思考段階では完璧なはずなのに、実際に行為に移すとうまくいかない…思考が身体行為として他者からの見られの中に浸されることで、心身の食い違いが自分に還ってきます。その差異が教室で共有され、たくさんの笑みに変わってゆき、とても楽しい一時でした。

今回、やっている中で感じたのは、フィクションというsafetyをどう機能させるかという課題です。“自分として”語ることが困難な人に、「登場人物の仮面を被る」というsafetyを差し出し、それをうまく使いこなしてもらうためにはどうしたら良いのか…ひとつ自分の中のおみやげになりました。

素晴らしい演技をしていただきました日野氏、佐々木氏、イギリスでお世話になりましたProf. Owen、Ms. Green、そして東京学芸大学 高尾隆先生、なによりご参加頂きました皆様へ、心からの感謝と御礼を申し上げます。

(福士侑生)



「愛」を語ろう ~哲学対話で恋愛力UP!!~
 企画・進行:梶谷真司

このセッションの前のセッション「愛のダメ男脱出大作戦~身体で考える恋愛哲学」に引き続いて参加された方も含め、本セッションでは途中参加や途中退出も含め、大学生から既婚者まで、常時60名程の方が参加された。

まずは、男女混合のチームを5つ作り、質問を互いにすることに慣れる準備運動、兼アイスブレーキングで質問ゲームを行う。男性参加者には「理想の男性像」、女性参加者には「理想の女性像」をそれぞれ考えてもらう。チーム内で参加者に自分の理想像を言ってもらい、その理想像について他のチームメンバーが質問をしていくという趣旨。質問を互いにしあうという、対話へつなげる準備が整ったところで、参加者全員で「愛」について思い起こされる質問やキーワード等を挙げてもらう。「愛」に関する日頃の様々な思いや疑問が参加者から出される質問出しは、参加者の方々の「愛」を通した人生観が垣間見られ、大変興味深かった。引き続きいくつかの質問について哲学対話をしていくための絞り込みを、参加者全員で行う。選ばれたテーマは「愛と友情は両立するのか」「愛とは何か」「お金と愛について」など愛に関した様々な側面に焦点が当てられたものであった。再度、新たなグループに分かれ、選ばれたテーマについて哲学対話を行った。

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哲学対話の特徴として、何を話しても良いし、他人の話に耳を傾けるだけで何を話さなくても良いという、参加者の個性を尊重したルールがある。「愛」という日常ではあまり話さないテーマについて、自分の実体験に基づいて話したり、あるいは自分の両親の結婚生活を通して「愛」を考え直してみたりと、各年代の参加者が対話に耳を傾けることで想起される「愛」について思い思いに語り合う姿は、大変ほほえましいものであった。2時間という限られた時間では語り尽くせないことも多く、23日最終のセッションだったこともあり、参加者の半数がそのまま駒場キャンパス近くのインドカレー・レストランで開催された二次会に参加し、そのまま21時頃まで語りあった。

報告者が帰り道に話を聞いた、中年と思わしき男性参加者の1人からは感想として「特に『恋愛力』がupしたとは思わないが、日頃なかなか話すことのない『愛』について、初対面の人達とこれだけ密に話せるということが、素晴らしい。哲学対話の奥深さを体感でき、この哲学対話の手法を社会の他の問題についても展開できれば面白いと思う」との感想を頂いた。報告者としても、初めて「愛」をテーマにした哲学対話に参加した。一般的に恥ずかしがり屋だと言われている日本人が「愛」をテーマに2時間超、場が持つのか不安だったのだが、大変な盛り上がりを見せたことに対し、哲学対話の不思議な力を改めて再認識できた素晴らしい機会であった。参加されたみなさま、お疲れ様でした!

(佐藤麻貴)

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