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【報告】駒場祭での哲学対話イベント「こまば哲学カフェ(1)」

2013.12.31 梶谷真司, 清水将吾, 宮田舞, Philosophy for Everyone

2013年11月22日~24日の「駒場祭」(東京大学駒場キャンパスの学園祭)期間中、P4E研究会が5号館518教室でカフェフィロの協力のもと「こまば哲学カフェ」を開催した。以下では、全3日間のうち1日目に行われた3つの対話セッションについて、それぞれの企画の立案者・進行者に書いていただいた記録を紹介する。

P4E研究会は、UTCPの上廣共生哲学研究部門のL3プロジェクト「Philosophy for Everyone(哲学をすべての人に)」のコーディネーターである梶谷真司准教授が開いている研究会で、通常は2週間ごとに哲学対話の研究会を開きながら、実践的な活動も行っている。

*梶谷先生による「こまば哲学カフェ」の記録は下記リンクよりご覧ください。
/blog/2013/12/post-668/

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駒場祭での「こまば哲学カフェ」は3日間にわたる大がかりな活動で、実験的な試みでもあったが、結果を言えば、実験は驚くほどの大成功だった。駒場祭の一角にオープンした哲学カフェは、朝から夕方の終了時まで、様々な世代の人々で賑わっていた。1日目に行われたのは、以下の3つの哲学対話である。

・宇宙の果てのあなた
・環境をめぐる哲学対話 ~都市と地方の問題から~ 
・「結婚、どうする??」 ~女性のためのてつがくカフェ~

(それぞれ約2時間の対話セッションで、各セッションの合間にも約1時間の対話が行われたが、本ブログでは、駒場祭の特別企画とも言える2時間セッションの記録を紹介する。)


宇宙の果てのあなた
 企画・進行:清水将吾

そもそも私が哲学対話の活動にかかわっている理由の1つは、中学校で見学したP4C(子どものための哲学)に魅せられたことにある。子どもの問いや考えは、もしかすると素朴すぎるように見えるかもしれない。だが、それは世界と出会ったばかりの生々しい現場を宿している。子どもはまだ世界と出会ったばかりだからだ。そして、世界との出会い方は、一人ひとり異なるものだと私は感じている。金曜日の朝、集まってくださったのは約10名の大人だったが、私は子どもの哲学対話をやってみたいと思っていた。

そのために、私はまず参加者の方々に、子どもの頃をよく思い出してもらうことにした。自分がどんな子どもだったかを話してもらい、また、子どもの頃にどんなことを疑問に思っていたかを話してもらった。「どうして雲に乗れないのか?」「私はなぜ人間として生まれてきたのか?」「小人はどこにいるの?」「どうして算数が苦手なのか?」等々、大人の口から次々と子どもの問いが出てきて、私は驚いてしまった。「過去・未来って?」という問いを出した方は、こんな話をされた。10分前の世界もあるし、5分前の世界もあるし…というふうに考えていくと、無限の世界があることになるのではないか。どの問いを選んでも面白い対話になるに違いなく、少し話してもらうくらいではもったいないようだった。けれども、それぞれの問いについて、参加者どうしで質問を投げかけ、充実した対話ができたと思う。

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後半の対話として、私が子ども時代に感じていた問いを題材にした、自作のお話を使って対話をした。宇宙の果てに住んでいる人と電話ができたら、どんな会話になるだろう。「ゼロ」は数の果てだろうか。私自身にとっての子どもの問いに、参加者の方々に付き合っていただいての対話だった。日常の経験からかけ離れたテーマだったため、普段の経験をあまり織り込まない対話がどこまで盛り上がるか、不安もあったが、幸運にもその不安はまったく的中しなかった。「ゼロと無はどう違うか?」「宇宙の外側があるとしたら、どうなっているだろうか?」「小さいと言うときと少ないと言うときでは、何が違うか?」こうした問題について止めどなくアイデアが出され、あっという間に終了時間が来てしまった。

日常の経験を離れた形而上学的な問いでも、大人どうしで楽しく哲学対話ができると実感できたことは大きな収穫だった。参加していただいた方々と、「こんなに不思議な宇宙で私たちは生きてるね」という宇宙的な友情を感じることもできた。次はどんな哲学対話が企画できるだろうかと、いろいろな可能性に思いを巡らせている。

(清水将吾)



環境をめぐる哲学対話 ~都市と地方の問題から~
 企画・進行:梶谷真司、宮田舞

こまば哲学カフェ1日目。午前に比べて賑わいを見せてきた金曜日の午後に、私が担当するセッションは行われた。題して『環境をめぐる哲学対話 ~都市と地方の問題から~』。他のセッションと比べて多少ハードな印象を与えるタイトル。参加者がそもそもいるのかと心配していたが、予想を超えて約20名もの参加があった。

まずはアイスブレイクを兼ねて、日常で実践しているエコについて、一人ずつ話した。私は、自分自身がこのテーマを設定しておきながら、かなり答えに困ってしまった。例えばごみの分別という「エコ的」な活動をしてはいるが、それが何に貢献しているということを実感できないでいたからである。ここではそうした戸惑いも含めて、話すことにした。そんな私にとって、他の参加者の方の発言はすべて面白かった。「生きていることそのものがエコ」「エコという言葉をエコロジー・エコノミーとして考える」「必要十分な生活を送ることがエコである」。

中でも印象にのこったのは、「学校でエコを学んできた、刷り込まれてきた」という意見であった。思えば私も、エコにあたる活動や、資源再生のメカニズムについての知識は持っていたが、それが「私にとって」どのような意味を持つのかということについてはあまり考えてこなかった。ほんの短いじかんではあったが、エコを自分事として考えるとはどういうことだろう、ということを考えることができた。

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後半は梶谷先生にファシリテーターを交替し、都市・地方という観点をもとに環境をめぐって対話が続けられた。ここでの大きなテーマを挙げるとすれば「都市への憧れ」ということになるだろう。たとえば次のようなことが話題に上がった。

・都市にあるものに憧れるのか、その地に行くことに意味があるのか
・都市へ行きたい/田舎から出たいというモチベーションのあり方も世代間も違う
・一方で田舎の魅力は何か?

都市化することの良さ、悪さについて語ることはできるが、何をもって都市化と呼ぶのかという点についてのコンセンサスが得られているわけではない。それぞれの都市・地方の価値、便利さ、そしてエコであることの意味を考える中で、豊かさとは何かという問いが生まれつつあるように感じた。

実は私たちは、9月に静岡で同様のテーマでの対話を行っている。その時の対話のポイントが都市と地方の関係を組み替えるものとしての「情報」であったことからも、今回の対話は全く異なる方向性を持っていた。場所と参加者の違いによって、これほどまでに違う対話が行われるということは驚きであった。またこのことは、哲学対話という手法が、実情の異なる地域の特性やニーズに自然な形で対応できることを表しているようにも感じた。

(宮田舞)



「結婚、どうする??」 ~女性のためのてつがくカフェ~
 実施:カフェフィロ  企画・進行:廣井泉、井尻貴子

今回は、文化祭での実施ということもあり、短時間でも参加しやすいよう、30分ごとに、その大きなテーマをめぐる、異なる問いを設定することにした。

参加者は、20代を中心に、10代、30代、40代の女性。参加者には、世代を超えて話すことじたいが、新鮮な経験だったようだ。

問いのひとつ、「仕事と結婚、両方したい?」では、「それが問われる場面では、実は結婚という言葉で、出産のことが問われている」ということに気づくに至った。そのことは、いまの日本社会では、結婚と出産が固く結びついていること。どちらか一方のことを話すときは、同時に他方のことも話されている場面が多いことを意味する。それはもちろん、行き過ぎれば、どちらか一方のみが存在する状況をどちらかが欠けている状況とみなすことにつながるだろう。

では、なぜそのような状況が生まれているのだろうか?それにはやはり、法制度が深く関わっていること。しかし、法制度だけにその問題の要因を押し付けたくないことなどが話された。

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また、未婚/既婚、それぞれの方がいたことも、対話にひろがりを持たせたように思う。終了後、既婚女性の、結婚してからは、友達同士(未婚女性が多い)の「結婚」の話題に入りにくくなった。そこで何か発言すると「既婚者は語る」みたいになっちゃって、、という感想が印象に残った。それぞれが、それぞれであるままで、言葉を交わす。哲学カフェという試みの根底で、そのことを常に大事にしたいと改めて思った。

(井尻貴子)

  ・ ・ ・ ・ ・ ・

月に1度、参加者が女性だけの哲学カフェを実施している私たちカフェフィロは、今回のこまば哲学カフェでも女性限定の哲学カフェを実施した。通常は1つのテーマをじっくりと考え対話する哲学カフェだが、今回は気軽に参加してもらえるように30分の対話の3部構成とした。共通テーマには女性であれば誰もが気になる「結婚」を設定し、結婚相手、結婚と仕事、人生と結婚、の異なる3つの観点から結婚について考えた。

・セッション1 「結婚するならどんな人?」
・セッション2 「仕事と結婚、両方したい?」
・セッション3 「結婚したほうがいい?」

当初、参加者は学園祭の主な来場者である20歳前後の若い人、すなわち未婚女性を想定していたが、実際の参加者の年代は幅広く10代から50代までの8名の女性が参加した。未婚女性を意識したタイトル「結婚、どうする?」であったが、すべての女性が参加しやすいタイトルをつけた方が良かったとの意見も寄せられた。

今回の哲学カフェは未婚女性と既婚女性の意見交換の場としてかなり意義深いものであった。特に若い未婚者にとって自分の母親以外の既婚者の意見を聞く機会は少ないことから、今回のように既婚、未婚を問わず女性同士で率直に意見を交換し合う場は、女性のキャリアを含むライフデザインを考える上でも大変良い機会になる。女性限定の哲学カフェではあったが、誰もが気軽に参加し自由に対話できる場としての哲学カフェの役割をひとまず果たせたのではないかと感じている。

(廣井泉)

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