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【報告】記憶と身体シリーズ第2回「身体音楽」 講演とワークショップ

2013.10.08 内藤久義

2013年5月18日、「記憶と身体」シリーズの第2回目、「身体音楽」の講演とワークショップが開催された。東京大学駒場キャンパスコミュニケーションプラザ身体運動実習室には70名の方が集い、中川つよしさんによる前半の講演と、後半では古楽器奏者飯島直さんを交えて、参加者が一緒になって中世のダンスを体験するワークショップが行われた。

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「記憶と身体」シリーズは、私たちの身体には、近過去からはるか古代の記憶までが内在しているのではないかという推論のもと、現在の身体にその痕跡をさぐり、記憶と身体をテーマに3名の講演者がそれぞれ「身体技法」「身体音楽」「身体文化」をキーワードに、レクチャーとワークショップから明らかにしていくシリーズである。

今回は「身体音楽」という観点から、古楽器奏者で和光大学非常勤講師、国立精神・神経医療研究センター音楽講師の中川つよしさんが「異教の記憶としての舞踏――14世紀イタリアのイスタンピッタ舞曲」の講演を行った。

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中川さんの重要な指摘として、14世紀当時のヨーロッパ宮廷で踊られていた舞踏音楽とは異なる「イスタンピッタ舞曲」という音楽形式の存在があったことがあげられた。イスタンピッタがヨーロッパ社会ではない、異境の記憶としての旋律を持っていたのではないかという指摘である。エスタンピッタには、ヨーロッパ社会で演奏されてきた音楽とは異なる旋律があり、そこにはイスラム文化の記憶、中川さんが言う「異教の記憶」が内在する。ヨーロッパはキリスト教という一神教によって構成される文化的社会だと考えてしまいがちであるが、しかし、その基層にはキリスト教以前の神や文化が横たわっていたことが、エスタンピッタの旋律から推測できるのである。中川さん自身のリコーダー演奏によって、それらの曲の旋律が奏され異教の記憶を辿った。

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その後のレクチャーでは、多彩な図像を提示しながら、「異教の記憶」を奏でたであろうジョングルール(放浪芸人)たちの姿を解析することによって、イスタンピッタ舞曲の異教性を論証しようと試みる。14世紀イタリアの写本に現われるイスタンピッタは、当時の宮廷で踊られていた一般的な舞踏音楽と様々な点で音楽的に異質であった。そこから、イスタンピッタは職業的なダンサーによる、ある特別な意味を持った鑑賞用の舞踏であったと考えることができる。これらの楽曲を踊ったであろうジョングルールは中世期、各地を遍歴して民衆文化を伝播し、また物語の伝達者でもあったことが述べられた。

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後半のワークショップは飯塚直さんのレクチャーとダンスから始まった。16世紀の舞曲と踊りを知る上で貴重な資料である、1588年にフランスのラングレで出版されたトワノ・アルボー(1520-1595)編著のオルケソグラフィーの解説がされ、当時の貴族のたしなみとされた舞曲であるパヴァーンやブランルを、中川さんのリコーダー演奏と飯塚さんの指導で参加者が体験した。

今回の「身体音楽」の講演&ワークショップでは、舞曲という音楽と身体が内包された記憶を解体し、そのなかにキリスト教社会のさらに基層にある異教的な記憶を探る試みが行われた。レクチャー・演奏・踊りという三つの要素から会は展開し、多くの参加者の方を魅了して終了した。

なお、「記憶と身体」第三回目、「身体文化」の講演&ワークショップは、「視線」をテーマに開催される予定である。

報告:内藤久義(UTCP)

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