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梶谷真司「邂逅の記録57:ハワイ大学との共同サマーセミナー(4) 鳥取編」

2013.09.30 梶谷真司, 東西哲学の対話的実践

22日(木)の朝、私たちは鳥取で一番大きな禅寺である天徳寺に到着した。中島先生の大学院の中国哲学研究室の後輩であり、それ以来特別親しい関係にある宮川敬之禅師のお寺である。宮川家は代々永平寺で要職を務めてきたが、敬之さんは、東大で中国哲学を学んだ、ある意味異端の禅僧である。西洋哲学にも通じておられ、東西の哲学的言語によって禅を思想と実践の両面から語ることのできる稀有な人である。UTCPにとっては、永平寺での研修が「体験」であり、哲学のセミナーとしては、むしろこの天徳寺での2日間がメインであった。今年のテーマが「哲学の実践(Practicing Philosophy)」であることを考えれば、このサマーセミナーの最後を飾るには、これ以上ふさわしい場所はないだろう。

着いてしばらくすると、天徳寺の座禅会の人たちも集まり、一緒に朝のお勤めを本堂で行った。宮川さん以外にも、伯父さんにあたる人も含め、3人の禅僧の方が来てくださり、朝の礼拝や、後で行う座禅の世話をしてくださった。

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礼拝が終わったあと、宮川さんが道元に関する講義をしてくださった。それは『正法眼蔵』ばかりに注目する従来の解釈・研究を批判し、「只管打坐」や「心身脱落」のようなスローガン的なキーワードをいったん棚上げにし、「普勧座禅儀」や留学中のノート、師からの書簡など、それ以前のテキストにさかのぼり、道元の思想の形成のプロセスを考察するものであった。これは学問的な手続きとして厳密かつ必要なだけではなく、宮川さんはこうすることで、道元の思想を彼自身の置かれた状況、実践のコンテクストとの連関で道元を理解しようとする。逆に『正法眼蔵』だけを特別視して、テキストのみの概念的理解をしていれば、それじたいがどれほど厳密であっても、また座禅の経験と結びついていても、結局は宙に浮いたものになりかねない。宮川さんは、文献学的な手法によって、いわば生きた道元の思想に迫ろうとする。それはとてもスリリングで、聖者になる以前の、苦闘する生身の道元を垣間見るような講義であった。

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午後は、本堂の地下にある禅堂で座禅を行った。永平寺で研修を受けていたこともあり、個人的にはここでの座禅のほうがより集中できたが、学生たちもそうだったのではないだろうか。座禅の後は、本堂でエイムズ先生、中島先生、石田先生による短い講義が行われ、座禅会の人たちにもご参加いただいた。続けて、プログラムの締めくくりとなる、学生たちによるプレゼンテーションを行った。この日は10人の人が発表し、皆で活発な討論をした。

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翌23日(金)は、いよいよ最終日。まずは本堂で礼拝を行い、続いて座禅を行った。そのあとは、前日からの続きで、宮川さんの講義を受けた。内容は、前日に触れながら、今日詳しく話すことを予告していた言語の問題であった。より正確に言えば、「宗(悟り)」と「説(言葉)」と「行(修業)」の相互関係についてである。これは、哲学の文脈に置くなら、自己と言語と経験の関わりというより一般的な問題として考察することもできる。それは禅から哲学への外的なインパクトというより、禅と哲学が重なるところで噴出してくる内発的なインパクトであり、双方にとって非常に生産的な対話になるフィールドであることが分かった。質疑応答でも、学生からいい質問が出て、また石田さんと宮川和尚との議論も、見ごたえがあった。
 
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その後、残りの学生たち、12人によるプレゼンテーションを行った。みんなそれぞれ自分のテーマをもって、面白い発表をしてくれた。昨年よりも、全体の発表のレベルも上がり、議論もより活発になったように思う。それから打ち上げパーティーも、同じく天徳寺の部屋でさせていただき、教員も学生たちも、宮川さんも、みんなでセミナーの成功を祝い、最後の懇親の時を楽しんだ。昨年もそうだったが、当初想像していたよりも、はるかに充実したセミナーとなった。


【謝辞】

このハワイ大学との共同サマープログラムは、UTCPの上廣共生哲学寄附研究部門のL1プロジェクト「東西哲学の対話的実践」の枠内で行っているが、学生の旅費や宿泊費等の面で、さらに追加でご支援をいただいた。2年目のセミナーをこのように充実した形でできたことで、教員も学生も、つながりをいっそう広げ強めることができ、この関係のなかで学生たちが未来に向けて着実に育ってくれているのが実感された。財団の方々のご理解とご配慮、ご協力に今一度深謝したい。

また最後の1週間は、行った先々で多くの人のお世話になった。鈴木大拙館の主任研究員の岩本明美さん、西田幾多郎記念哲学館の専門員の大熊玄さんには丁寧な解説をしていただいた。永平寺でお世話になった黒柳博仁禅師をはじめ、多くの僧の方々、講義をしてくださった斎藤後堂老師には特別なご配慮をいただいた。そして天徳寺では住職の宮川敬之師に全面的にお世話になった。宮川さんは、永平寺での研修にも来てサポートしてくださった。天徳寺では宮川さん以外にも、千代西尾道見師、和久野賢正師に礼拝や座禅でお世話になった。また、宮川さんと中島さんの長年の友人である専修大学の廣瀬玲子先生には通訳でご協力いただいた。さらに宮川さんの奥様をはじめ、お寺の方たちには、食事や飲み物、その他大変お世話になった。みなさんの細やかな心遣いに心よりお礼を述べさせていただきたい。
 
さらに、今回会場を提供してくださった東洋文化研究所にも深く感謝したい。セミナーだけでなく、その後も学生たちの研究会のために部屋を開放してくださり、その他様々な便宜を図っていただいた。また、最初にも述べたが、今回は東大のサマープログラムの一つとして公認されたおかげで、学部生も参加できるようになった。このように海外の人たちと、外国語で議論し友情をはぐくむことは、これからの時代の人材を育てるうえで、きわめて重要である。そのために必要な様々な手続きや方策を、本部学務課教育改革推進チームの山田健さんが新たに考え、実行してくださった。したがって今回のセミナーは、UTCPのみならず、東大全体の後の海外交流の礎ともなりうるという点で非常に大きな意味をもつと思われる。山田さんおよびその他関係部署の方々にも御礼申し上げる。
 
またUTCPのスタッフは、準備段階でもセミナー期間中も、いつもながらの抜群のチームワークで支えてくれた。助教の星野さんと事務の立石さんを中心にして、L1のPDの川村さんと協力して、途方もなく多岐にわたる作業を完璧にこなしてくれた。RAの文景楠君、昨年の参加者の一人である神戸和佳子さんは、アメリカの学生たちのための準備や来てからの世話を熱心にしてくれた。こうしてUTCPもまた今回のセミナーを通してさらに進化できたと思う。彼らの活躍にも感謝したい。

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