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【報告】ルー・マリノフ教授ワークショップ「ビジネスにおける哲学プラクティスの役割」

2013.06.16 梶谷真司, 清水将吾, Philosophy for Everyone

2013年5月22日(水)と25日(土)、本郷キャンパスの伊藤国際学術研究センターで、ルー・マリノフ氏によるワークショップ「ビジネスにおける哲学プラクティスの役割」が行われた。マリノフ氏は、ニューヨーク市立大学の哲学科長として教鞭をとるかたわら、アメリカの哲学プラクティスの第一人者として活動されている。そうした活動の一環として、マリノフ氏は、企業などを対象としたコンサルティングも行っている。両日とも、様々な業種で活躍される方々にお集まりいただき、非常に興味深いワークショップとなった。

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「哲学は役に立つか」という疑問はときおり耳にするが、「哲学はビジネスの役に立つか」という疑問があったとしたら、そんなはずはないと言いたくなる方もいるかもしれない。だがマリノフ氏は、「哲学がビジネスで果たす役割」として、9つもの役割を挙げる。そのなかには、「倫理実践や倫理規定のマニュアル作成とその実践を助ける」という役割や、「環境にかかわる責任について助言する」という役割がある。マリノフ氏によれば、哲学者はビジネスのことはわからないかもしれないが、抽象的な概念を扱うことや、そうした概念を具体的な現実に結びつけることに長けている。したがって、企業がもつ価値観や方針は抽象的なものだが、哲学者がそれを明確な言葉にしてやり、さらには、具体的な実践へと結びつけてやることができる。(また、それを組織の外部に対しても示すことで、組織の信用を高くすることも可能になる。)

マリノフ氏は、組織のメンバーどうしで対話をさせることもある。哲学的な対話方法によって、メンバーたち自身が、抽象と具体のあいだを実際に往復する。そうすることで、当人たちの手で、納得のいく理念や方針を見つけだすことができるのである。

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イベントの後半では、参加者全員で、「囚人のジレンマ」を使ったゲームや、それを発展させたゲームを行った。ゲームでは、参加者の一人一人が、ほかの参加者たちが下すであろう決断について考えたうえで、自らの決断を下す。そうしたゲームの結果によって何がわかるかということが、あらかじめはっきりしているわけではなく、ゲームの結果について参加者どうしで考えてみようというのマリノフ氏の目的だ。22日のディスカッションでは、参加者の方からこのような問題提起があった。「前半の講演では、企業が人々のために何かをするという話だったが、後半にゲームをしてみたら、他人のために何かをするということが難しいような気がしてきた。」ビジネスパーソンとして活躍される方々がこうした問題を感じ、考えるきっかけになったとしたら、マリノフ氏のワークショップの目標は十分達せられたと言えるだろう。

(報告:清水将吾)

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