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梶谷真司「邂逅の記録40:P4E(Philosophy for Everyone)への道(10)」

2013.01.23 梶谷真司, Philosophy for Everyone

《Project「研究・教育の一般的方法としての哲学的思考」》

 すでに述べたように、UTCPの哲学教育への関わりは、IPO(国際哲学オリンピック)とP4C(子供のための哲学)を軸にしているが、この二つはかなり性格が違う。P4Cのほうは、哲学カフェや小中高(ないしその年代の子どもたち)で行われる対話、もしくはそれに基づく教育である。そこでは、必ずしも議論の緻密さや論理性が重要なわけではなく、また時間的な制約も厳密ではなく、特定の結論に至る必要もない。他方、IPOはエッセイコンテストなので、一定の時間内に論理的な一貫性と結論のある議論を組み立てなければならない。やはりある種のアスリートを育成するような感じに近い。しかも練習の時はともかく、最終的には一人でやらなければならず、孤独な戦いになる。
 夏に行った高校生のための哲学キャンプではその両方の要素を取り入れたが、もともとこのキャンプはIPOの準備という意味合いがあるので、主体となるのは、問いと主張があって論理的に一貫した議論を組み立てることであった。ただし、ここで高校生を指導するにあたって必要なのは、彼らの書く内容を訂正したり、模範解答を示すことではない。そんなことをしても、本番では役に立たないし、自分で文章を書けるようにはならない。重要なのは、彼ら自身が問い、考えを整理し、筋道立てて書けるように手助けすること、そのための方法を教えることである。前に書いたように、彼らの書いたものを要素に分解したり、議論に必要なパーツを見つけさせるようにしたのは、そのような意図からだった。
 しかし、そもそもこのような「方法」はどういうものなのか。私自身は、就活の書類作りやゼミのレポート指導でそのようなことをやってきたが、そこでは何度もやり直しをさせる時間もあるし、その場その場で臨機応変に対応できる。それに、哲学の問題を考えさせていたわけでもない。また、私が自分の論文を書く時には、そういう方法をそれなりに意識的に使ってきたが、そこには何となく分かっているだけの「暗黙知」も多い。
 キャンプで私が参加するすべての高校生の相手をすることはできない。そこで私は、大学院生をチューターとして養成し、キャンプで高校生の思考の手助けをしてもらうことにした。そのために必要なのは、院生に「問いと思考の方法」を教え、それを実地に訓練することである。しかもそのためにさらに必要なのは、私がもつ「暗黙知」を意識化し、より具体的なマニュアルを作ることである。
 また、よく言うように、私たちは「教えることによって学ぶ」。だから大学院生がチューターとして高校生をサポートできるようになれば、それは彼ら自身の研究、論文の執筆にも役立つはずだ――そういう意図から、私は「研究・教育の一般的方法としての哲学的思考」というプロジェクトを立ち上げ、現在2週間に1回のペースで研究会を行っている。そこでは、上で述べたような問いと思考のトレーニングをして、そのマニュアルを開発しているが、それ以外に、哲学対話の方法の研究、ファシリテーターの育成、講演会やワークショップなどもやっていく予定だ。東大に限らず、外部の人にも参加してもらい、こちらからも外に出て行っていろんな人たちとネットワークを作っていきたい。

(続く)

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