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梶谷真司「邂逅の記録31: P4E(Philosophy for Everyone)への道(2)」

2012.12.14 梶谷真司, Philosophy for Everyone

《自分と向き合い、自分の言葉を獲得する》

学生が持ってきた書類──エントリーシートや自己PR──を見て感じたのは、表現を直すとか、構成を変えるとか、内容的に書き加えるという「添削」ではどうにもならない、根本的にやり直さなければならないということだった。だが、実際、彼らをどうやって指導すればよいのか。どうすれば彼らは、ちゃんとした書類が書けるようになるのか。
私がもっともらしい作文、模範的な書類を作ってあげるのは、ある意味では簡単なことだ。けれども、そんなものは、書類審査に通っても、面接でかならずバレる。会社というのはそんな甘いところではないはずだ。それどころか面接官は人を審査するプロである。大学教員の入れ知恵などすぐ見抜かれる。大事なのは、学生に嘘をつかせないこと。彼らが面接で多少の誇張はあっても、偽りではなく本当に自分のこととして話せるようにしなければならない。そのために、彼らの中にあるものを明確にして、それに言葉を与え、彼ら自身が自分で語るための言葉を見つけられるようにしなければならない──そう考えた。
そこで私の指導は、とにかく質問、質問、質問になった。なぜこの業種なのか、なぜこの会社なのか、そこで何がしたいのか、何ができるのか、あなたの長所は何か、短所は何か、それが仕事とどう関わるのか・・・そのためには会社のことを理解し、自分自身と正面から向き合わなければならない。これが世に「自己分析」と呼ぶものなのだろうが、これを徹底的にやる。そうすると、一つの会社のための書類を作るだけで1週間かかる。学生は半泣きである。そういう中で、私は彼らにふさわしい言葉を見つけ、それを軸に書類を書かせる。もちろん文章はあとで整えてそれなりの文章にするが、上手すぎないほうがリアルで訴えるものもあるだろう。だが、あくまで中身、ネタは彼らが自ら絞り出さなければならない。
これは彼らにとってかなりつらい作業だったようだが、この苦しみを通して、彼らは自分で自分のことをしっかりアピールできるようになっていく。そして自分に自信をもつようになる。それまでは、面接まで行っても、感触があったのかどうかも分からず、不安なまま帰ってきていたのが、「今日のグループディスカッションでは、上から3人には入れた」とか、「これでダメなら、あの会社には行かなくていい」と言い切るまでになっていく。そして実際、内定を取ってくる。
これは私にとっても、非常にいい経験になった。人間は、自分を語る言葉を手に入れることで、変わることができる、人生を変えることができるのだ。それを私は、学生たちから教えてもらった。しかもこれは、自分と自分の人生に向き合い、問い、答えるという、ある意味きわめて哲学的な営みだった。おそらく私の哲学対話は、このとき始まっていたのだ。

(続く)

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