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梶谷真司「邂逅の記録22:ハワイ大学との共同夏季比較思想セミナー報告(13)」

2012.10.03 梶谷真司

《小さな子供のためのP4C》

8月15日(水)

 今日も朝からP4Cの授業を見に行った。朝8時半、宿泊先のLincoln Hallまでジャクソンさんが迎えに来てくれた。今回は、セミナーに参加している学生の一人で、P4Cに関心をもっている神戸さんも連れていった。前日に自分で体験して、私だけが見るのはあまりにももったいない、若い人にも是非見てほしい、と強く思ったからだ。

 今日訪ねたのは、Waikiki小学校である。まず校長先生Bonnie Taborさんに会い、いろいろと話をした。ここには、Kailua高校のような複雑な問題がもともとあったわけではなく、子供自身が考えること、互いに尊重し、理解しあうことの重要性を強く感じ、自発的に始めたような経緯であった。それがやがてジャクソンさんのP4Cによって方法論的に洗練され、効果的に推進され、P4Cが広く認められ、全面的に導入されるようになったようだ。Taborさんは、P4Cがいかに素晴らしいか、その意義をお話になった。それは何よりも、他者を尊重し、他者の話を聞き、理解すること、そして自らがしっかりと考え、語れるようになること、そうして協調的な関係を築いていくことにある。当然と言えば当然のことかもしれないが、それが教育の原理となって実現されているというのが、この学校のすごいところである。

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 さて、最初に見学したのは、2年生(6-7歳)のクラスで人数は15人ほど。先生はKatharineという女性の先生。高校と違って、小学校ではP4Cは一つの科目、つまりP4Cのための授業であって、教育のメソッドというより、それ自体が学びの対象となっている。まずはP4Cが目指す資質を身につけることが、後のP4Cによる授業を可能にするということであろう。

 Kailua高校の時と同様、サークル状に座り、まずは順に自己紹介。その後に授業に入った。今日のテーマは、「赤い虹が出る星と、いろんな模様、いろんな色の虹が出る星があります。赤い虹の星には、似たような姿、考えの人が住んでいて、いろんな色の虹の星には、いろんな姿、考えの人が住んでいます。あなたはどちらに住みたいですか。それはなぜですか。」というものだった。子供たちは、「コミュニティボール」(高校生が使っていたものよりずっと小さいもの)をお互いに受け渡し、どっちに住みたいか、それはなぜかを聞かれ、答えていた。といっても子供たちはむしろ、自分の住みたい星について、どんなところか想像したことを話している感じで、必ずしも理由と言えるほどのものではなかったが、この年齢の子供にとっては、楽しそうなところだと想像できれば、それで十分な理由なのだろう。そういう場合は、先生がそのような世界の良さを言葉にして、「だからその星に住みたいのね」と補足していた。

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 中には、どちらに住みたいというより、それぞれがどんな世界か描写するだけの子もいた。例えば、「赤い虹の星には、赤い色の人が住んでいる」とか。すると先生は、「そういう意味じゃなくてね」と、もう一度問いの趣旨を説明し直していた。また高校の授業と違っていたのは、赤い星に住みたいという意見を言う子がいると、Katharineはそのマイナス面を指摘し、いろんな色の虹の国の良さを理解させようとしていて、何でもいいから自由に意見を言う、という感じではなかった。これはおそらく、まだ小学校の低学年(日本でいえば1年生)にとってはP4Cそのもの、したがってその理念である他者の尊重、他者との共生というのを理解し、身につけること自体が重視されていることを意味するのであろう。いつもではないかもしれないが、テーマとして倫理的な含意のあるものを選んだのは、そういう意図からだと思われる。また、上で述べたように、この年ではまだ「理由」として言うべきことが何なのかは、必ずしも分かっていない(大人でも分かっていない人は多いが)。先生が様々な形で言葉を補いながら、「だからそうなのね」と根気よく確認しているのも、理由とはどういうものであるべきか、根拠をもって説得力のある話をするとはいかなるのことなのかを教えているように思えた。そうやって、いわばP4Cの“精神”を子供に学ばせているのだろう。子供たちに自由に発言させながらも、まったくの好き勝手にさせず、きちんと理念とルールは身につけさせる、という確固たる姿勢がうかがえる。P4Cの実践も年齢に応じた配慮が必要であり、小さな子どもには小さな子どものためのP4Cがあるのだ。

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