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【報告】東京大学−ハワイ大学夏季比較思想セミナー(2)

2012.08.31 梶谷真司, 中島隆博, 文景楠, 高山花子, 神戸和佳子, 崎濱紗奈, 芮雪, 川瀬和也, 田村未希, 東西哲学の対話的実践

三週間のセミナーを終え、無事帰国してからまだ日が浅い。にも関わらず、ホノルルで過ごした日々が遥か遠くの出来事に感じられる。それは、東京という場では感じることのなかった風があの場所に吹いていたからだろうか。ここでは、セミナー四日目、五日目の様子を中心に報告したい。

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8月1日(水)朝、教室に着くと机の配置が変わっていた。前日の小林先生の提案を受け、参加者が互いの顔を見やすいように円形を意識したものに変えられていたのだった。そして、配置換えとともに始まった梶谷先生の初回の授業は、決まった原稿を読み上げるようなものではなく、参加者の多様な背景を取り込む臨場感溢れるものだった。参加者がそれぞれの経験に基づき、例えば風邪への対処法や、代替医療の位置づけの違いなどを発言する中で、核心であるテーマ、医療そのものに内在する主体とその現実の多様性に近づいてゆく時間はあっというまに感じられた。一般に哲学的議論と呼ばれるものとは異なるものだったかもしれないが、直後の昼休みに日本文学を専門とする参加者エレーヌ・ゲルバートが言っていたように、専門を含め背景が異なる者同士が共に思考できる場として期待を抱かせるものだった。
 
今後のセミナーの方向を示すものとして象徴的だったのは、その日の午後の授業で、エイムズ先生が梶谷先生の午前中の授業に言及し、学生に当てる機会あるいは質疑の時間をより重視するようになったことだ。その日の授業から、終始、彼の議論の土台となった中国哲学における家族(family)や関係性(relation)への言及が始まったのだが、細かな事実確認を含め学生の質問に(授業後も含め)丁寧に答えてくださるようになったことが、難しい内容を咀嚼する大きな助けとなった。

このように、先生方が相互に影響を与え合い、授業が作られてゆく化学反応のようなものを感じるようになったのがこの日だった。その晩は小林先生によるKeynote lectureが行われ——デリダの『他の岬』を意識したcup(空の器だろうか)としての日本という見方から始まり、日本の美学を思考する手がかりとしての真・行・草という概念を提示、その後、坂部恵と和辻の風を論じるという息つく間もない展開——、学生の間には難解さ以上に圧倒された感が漂っていたのだが、翌日以降の授業で(さらには最後の参加者によるプレゼンテーションにおいても)小林先生のレクチャーが時折言及されていたのが印象的だった。


セミナー五日目の8月2日は、午前は中島先生の授業で、中国哲学における「天」概念、とりわけ「天」と「人」の関係が素描された。韓愈や柳宗元に言及した上で、「天」が壊れた後の哲学的思考(の基礎付け)の可能性を考えてくるように、という壮大な宿題が課されるなど、少しずつ悪や倫理といったテーマに近づく予感があった。午後は石田先生の2回目のレクチャーで、『善の研究』で論じられる純粋経験の内容に深く入っていった。黒板で図解を多用し、西田自身のテクストの丹念な注釈が行われたが、とりわけ西田にとっての生理学の位置づけや、意識という語の使用について、参加者から多くの質問が投げられ質疑応答で授業が中断することもあった。

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三日目に引き続き、この二日間も哲学科の教室にお世話になった。8月1日は東大の学生のみで政治哲学の論文(マイケル・ウォルツァー「不服従の義務」)を読んだが、8月2日からはハワイ大の学生と共同で九鬼周造の『いきの構造』読書会が始まった。日本語で段落ごとに音読、内容を要約・検討し、適宜英語で補う形だ。ハワイ大の学生がどこまで参加してくれるのか不安だったが、美学に興味を持つ学生が多く、結果として四人の学生が積極的に参加してくれ、有意義な交流の時間となった。

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振り返ると、第一週の半ばを過ぎた当たりから、徐々に先生方を含め参加者が互いに打ち解けてきたように思われる。そして、何か得体の知れない化学反応がはじまっていた。渡航前の不安はどこへやら、このあたりから無我夢中となっていたのは、少なからず自分もこの連鎖反応に巻き込まれていたからなのだと思わずにはいられない。貴重な学びの機会に感謝すると共に、あの時・あの場所で得た思いがけない変化の運動を、よい意味で東京でも続けられるよう努力したい。

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(報告:高山花子)

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