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【報告】L2プロジェクト「共生のための障害の哲学」第3回研究会 「言語の神経科学から障害の実験哲学へ」

2012.08.02 石原孝二, 飯島和樹, 岩川ありさ, 共生のための障害の哲学

2012年月7月24日(火)、上廣共生哲学寄付研究部門L2「共生のための障害の哲学」プロジェクトの第3回研究会が開催された。発表者の飯島和樹氏は、言語の神経科学を専攻しており、前半では、脳における統語処理がいかに行われているのかについて概説した。飯島氏が注目するのは、ヒトは部品を組み合わせて言語をつくっていくという特徴であり、言語に特化してみた場合、ヒトの言語獲得においては、どのような言語であろうとも、生物学的な類似性を備えているという点である。その際、飯島氏は、言語の神経基盤の古典的なモデルの研究が障害研究とともに進んだことについて述べ、MRIやMEGを使って脳機能イメージングを行うことで言語がどのように生み出されるのかについて明らかにしようとする自身の研究について紹介した。

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飯島氏が発表の後半で強調したのは、2000年代に入って提唱された実験哲学の可能性についてである。実験哲学とは、人々が哲学上の議論に判断を下す仕方(主に哲学的直観)を調査するために、実験心理学や社会科学の方法を使用する新しいアプローチの仕方であり、対象分野は、認識論や行為論、言語哲学や倫理学、法哲学、科学哲学に及ぶ。飯島氏は、本発表で、今後、実験哲学のアプローチを障害の哲学においても適用できないかという提起を行った。哲学の議論において、哲学者は自身の直観について、様々な現実的、仮想的事例について適用することで哲学的な理論をつくりあげ、20世紀後半の哲学においては、「哲学的直観」は議論の根拠として捉えられてきた。けれども、直観は信頼できる証拠となりうるのか、また、直観はどのような心的メカニズムによって生み出されるのか、そして、直観はどの程度社会の成員によって共有されているのかなどについて、精査が必要であると飯島氏は述べる。

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実験哲学の観点からすれば、直観には多様性があり、不安定であるため、専門家の直観なのか、非専門家の直観なのかといった違いや、社会的、文化的、経済的な差異、個人の特性、理論による汚染などによって異なった結論を下すのではないかといった問いが提出されることになる。では、なぜ、実験哲学が障害の哲学に必要なのか。飯島氏は以下の三点をあげる。第一に、障害の哲学はこれから概念分析にとりかかるため、「障害とは何か」という問いについて、「誰の」「どのような」直観を用いて理論を形成するのか、当事者も含めて、議論に用いる直観やその信頼性、公共性について検討しながら議論を進める必要がある。第二に、障害学との接続を行うにあたり、どのようなときに不利益の原因が個人に帰属されるのかについて、一般の人々の直観を調べることによって、社会的条件の変更から、人々の障害観を改訂することが可能となる。その際に、障害当事者の中でインペアメント(「機能的な障害」)とディスアビリティ(「機能・能力傷害」によって生じる社会的に不利な状態)の連関についてどのような直観で捉えているのか、その直観も含めて記述する障害の研究モデルを構築できる。第三に、政治哲学との接合を行うことで、現代のリベラルな政治哲学が排除してきた障害者や外国人などの直観も理論構築において考慮できる。

以上のような提起が行われ、実験を多く行う飯島氏の手法によって、理論と実験を繋ぐかたちでの障害の哲学の可能性が開かれた研究会となった。

(報告:岩川ありさ)

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