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時の彩り(つれづれ、草) 134

2011.06.20 小林康夫

三つの山を越えて

前回のブログで書いたとおりに、翌日には、ソウルに出発。もうこれで6回目となるヨンセ大学のペク先生との「批評」をめぐる国際シンポジウムを行ってきました。

今回は、こちらからはわたしにとっては表象文化論コースの「教え子」ということにもなる日高さん、竹内さん、大橋さん(元UTCP)の3名に来てもらって「ポストヒューマン」をめぐってのシンポジウム。わたしも冒頭で基調講演をしましたが、ヨンセ大側の超優秀なマネージャー・キム・ハンさんも表象出身の元UTCPメンバーということもあり、どこか同窓会的な趣もあって、還暦を越えた老教授としては、楽しい集まりでした。レベルも高かったと思います。

ペク先生とのビジネスランチで、向こう側のGCOEに相当するHKプログラムが第2ステージに突入することもあって、これまでのような二国間交流の形はこれでいったん区切りをつけて、これからは多極間ネットワークの構築を目指そうということで合意。

というわけで、これまでこの交流に参加してくれたみなさんにもご報告しておきます。

続いて、先週末は、宇都宮で行われた日本病跡学会で特別講演。精神科医ら専門家を前にして、「クラッシックのコンサートに乱入したジャズマン」とみずからを位置づけて1時間「日本人という症状」をめぐって「プレイ」。このところ授業でやっている80年代村上春樹にも少し触れてアドリブを披露。これも、もうひとりの特別講演者だった詩人の高橋睦郎さんらとの酒席で盛り上がり楽しい交流をさせてもらいました(高橋さんを10月にお招きすることを約束しましたのでお楽しみに! さらに病跡学会の会長の加藤敏先生は7月の8日にUTCPで講演が予定されています。)

と、まあ、楽しいのではありますが、それにしてもひと月のあいだに、ハワイ大での講演(英語)を含んで三つの講演はさすがにきつかった。しかも途中、京都に行ったり(これは仕事ではなく、大徳寺での茶会でしたが)、大阪に行ったり、かかわる財団の仕事もいくつか集中してあって、激しい一ヶ月ではありました。これらの山がなんとか越えられて一息、ほっとしています。

まだ、7月2日には京都大学の表象文化論学会での森村泰昌さんとのトークもあるけれど、「現在」に追われるかわりに、秋以降の活動、冬のGCOEまとめのイベント、さらに来年度以降の態勢つくりなど、少し先の「未来」の準備のためにエネルギーを注ぐことができそうです。

出版ラッシュ

本ブログ欄でもご紹介のとおり、このところUTCPにかかわった若手の研究者の出版がラッシュです。この1年でずいぶんたくさんの本が出ました。博士論文が本になったものが多いですが、それだけではなく、二冊目の人、王前さんのようにまったく新しいフィールドに取り組んだものなど、いろいろです。嬉しいですねえ。本というのはどんなものでも「ひとつの世界」です。それは、単発の紀要論文などを書くこととはまったく!次元の違う「世界」です。

本にはさまざまな形やスタイルがあるけれど、その「凝集」、いや、組み立てこそ、その人の「世界」の表現です。人文科学者は、ヒューマニティについてのひとつの「世界」を、自分の「世界」として表現する「義務」がある。このことの途方もない恐ろしさと喜びとを味わって、はじめて一人前の人文科学者です。

わたし自身は、かつて廣松渉先生から「40歳前にどうしても一冊出さなければならない」と諭されたのを受けて、いい加減な論集を作ったわけでした(わたしの「世界」、いい加減ですからねえ)が、しかしそのありがたい言葉、今でも思い出します。そしてそれを若い人たちにいつも伝えています。UTCPに縁のあった人たちが30歳代でそうした呼びかけに応えた仕事をしていることこそ、UTCPの喜びなのです。

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