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【報告】講演会「イメージとテキストをめぐる冒険」

2010.11.16 三浦篤, 寺田寅彦

2010年11月10日、東京大学駒場キャンパスの18号館ホールにて、ジャン=ピエール・ルデュック=アディーヌ氏と三浦篤氏による「イメージとテキストをめぐる冒険」と題された講演会が行われた。

ルデュック=アディーヌ氏は元パリ第三大学教授であると同時にフランス近現代テキスト&手稿研究所(ITEM)ゾラセンターの元所長であり、三浦篤氏は東京大学大学院総合文化研究科教授である。この二人をつなぐ接点は19世紀フランス文豪のエミール・ゾラ(1840–1902)だ。ルデュック=アディーヌ氏はゾラの美術批評を編集し1991年に出版したが、氏の編纂した美術批評集をこのたび三浦篤氏が茨城大学准教授の藤原貞朗氏と共同で日本語に翻訳したのである(『美術論集』、ゾラ・セレクション、第9巻、藤原書店)。ゾラの美術批評を巡って東西の両雄が講演を行った。

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【ルデュック=アディーヌ氏と司会を務める寺田寅彦(報告者)】

最初にルデュック=アディーヌ氏が「ゾラと美術」について講演を行った。まだアカデミスム絵画が画壇を牛耳っていた時代だった1860年代、ゾラは美術批評を通してマネをはじめとするいわゆる印象派につながる画家たちへの擁護と痛烈なアカデミー批判を行った。だが、比較的よく知られているこのゾラの印象派擁護において、ゾラが単なる写真のような写実主義を否定していたことをルデュック=アディーヌ氏は指摘する。ゾラが写実主義の流れを受け継ぐ自然主義の頭領とみなされていたことを考えると、単なる現実の再現だけでは不足であるとゾラが主張していたということは注目に値する。それではゾラは新しい絵画には何が必要であると考えていたのか。それは作品を通して表現される画家の個性であり、本当の芸術創造だけが持つことのできる独創性であった。ゾラにとって芸術創造とは、画家の気質を通して可能になる才能の結果でなくてはならなかったのである。

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【ルデュック=アディーヌ氏】

ルデュック=アディーヌ氏は、「写実主義=自然主義の首謀者ゾラ」という一般的な見方からは理解され得ないゾラの美術批評の根幹を提示し、具体的にゾラがマネをどのように擁護したかを紹介した。マネが絵画の主題という文学的な束縛から解き放たれて、色斑やそのコントラストといった絵画独自の表現方法で新しい可能性を探っていると主張することで、ゾラはマネの近代性を的確に表現していたのである。

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【マネの《ゾラの肖像》を分析するルデュック=アディーヌ氏】

このルデュック=アディーヌ氏の基調講演的な内容を受けて、三浦篤氏が「ゾラによる同時代美術の評価―いくつかの問題提起」と題して、ゾラの美術批評が秘めていた複雑さを具体的な例をもとに示す講演を行った。一般にゾラの態度はアカデミスムを攻撃してマネたちを擁護したと簡略化されがちだが、アカデミスムの画家でも認めるべき画家は認め、いわゆる印象派の画家でも認めるべきではない点については非難をしていたことを明らかにしてみせる詳細な分析だった。

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【自身で翻訳されたゾラの『美術論集』を手にする三浦篤氏】

三浦篤氏はレオン・ボナやジャン=ジャック・エンネルといったアカデミスムの画家たちに関するゾラの美術批評を検討することで、ゾラがこれらの画家をクールベやマネへの評価を延長するような基準で高く評価していたことを見事に検証した。その一方で、1870年代のマネ、印象派の画家たちに対してゾラが抱いていた技術や完成度への失望感をあぶり出し、アカデミスムと印象派の様式を折衷するジュール・バスティアン=ルパージュやアンリ・ジェルヴェックスら自然主義の画家たちへの期待を指摘した。またピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌやギュスターヴ・モローといった象徴主義的な傾向の画家たちについても認めるべき点は認めていたことを分析し、ゾラが独自の美学を持っていたこと、その独自の美学を繊細に分析していくことこそが、今後の研究において重要であるということを明らかにしてみせた。

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【マネの《ゾラの肖像》とレオン・ボナの《パスカ夫人》を比較する三浦篤氏】

いずれの講演も極めて刺激的なものであり、ゾラの研究者やフランス美術史研究者といった専門家から一般の学生にいたるまでさまざまな聴衆から質問が活発に出され、ゾラの美術批評に対する関心の高まりを感じさせる質疑応答となった。日本語訳が出版されたことにより日本におけるこの分野での研究の飛躍的な発展を予感させて、熱気も冷めやらぬまま講演会は幕を閉じたのだった。

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【会場風景】

寺田寅彦(東京大学大学院総合文化研究科准教授・UTCP)

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